【提訴前証拠収集処分による証拠取得方法の種類(解釈整理ノート)】
1 提訴前証拠収集処分による証拠取得方法の種類(解釈整理ノート)
民事訴訟の申立の前の段階で、裁判所をとおして、相手方や第三者(各種機関)に証拠の提出を求める制度があります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分(民事訴訟法132条の4)の総合ガイド
提訴前証拠収集処分は、申立をすることができるタイミング(時期)に制限があります。本記事ではこれに関してのルールや解釈を整理しました。
2 民事訴訟法132条の4の条文
民事訴訟法132条の4の条文
第百三十二条の四 裁判所は、予告通知者又は前条第一項の返答をした被予告通知者の申立てにより、当該予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものについて、申立人がこれを自ら収集することが困難であると認められるときは、その予告通知又は返答の相手方(以下この章において単に「相手方」という。)の意見を聴いて、訴えの提起前に、その収集に係る次に掲げる処分をすることができる。ただし、その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。
一 文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。以下この章において同じ。)の所持者にその文書の送付を嘱託すること。
二 必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体(次条第一項第二号において「官公署等」という。)に嘱託すること。
三 専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託すること。
四 執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずること。
2 前項の処分の申立ては、予告通知がされた日から四月の不変期間内にしなければならない。ただし、その期間の経過後にその申立てをすることについて相手方の同意があるときは、この限りでない。
3 第一項の処分の申立ては、既にした予告通知と重複する予告通知又はこれに対する返答に基づいては、することができない。
4 裁判所は、第一項の処分をした後において、同項ただし書に規定する事情により相当でないと認められるに至ったときは、その処分を取り消すことができる。
※民事訴訟法132条の4
3 文書送付嘱託(1項1号)
(1)文書送付嘱託の基本
文書送付嘱託の基本
その意義内容は、証拠調べにおける文書送付嘱託(226条)と同一である
文書には、民事訴訟法231条に規定する「文書に準ずる物件」(図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの)も含まれる
この処分により、申立人は提訴前に、提訴後に証拠として必要となる文書を収集することが可能となる
(2)文書送付嘱託の活用の典型例
文書送付嘱託の活用の典型例
4 調査嘱託(1項2号)
(1)調査嘱託の基本
調査嘱託の基本
その意義内容は、証拠調べにおける調査嘱託(186条)と同一である
必要な調査を官庁もしくは公署、外国の官庁もしくは公署または学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託する処分である
この処分により、申立人は提訴前に、提訴後に証拠として必要となる調査結果を収集することが可能となる
(2)調査嘱託の活用の典型例
調査嘱託の活用の典型例
5 専門意見陳述の嘱託(1項3号)
(1)専門意見陳述の基本→私的鑑定と同じ扱い
専門意見陳述の基本→私的鑑定と同じ扱い
あ 基本
専門意見陳述の嘱託は、専門家に対して専門的意見の陳述を求める証拠収集処分である
中間試案では「判定の嘱託」と呼ばれていたものである
専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託する処分である
この処分により、申立人は提訴前に、提訴後に証拠として必要となる専門家の意見を収集することが可能となる
い 法的効果→書証(私的鑑定)レベル
専門意見陳述の嘱託の結果として提出された意見陳述書は、提訴後に証拠として提出されても、あくまで書証であり、私鑑定と同一の取扱いを受けるにとどまる
複雑または専門性の高いものは対象として想定されていない
(2)専門意見陳述の活用の典型例
専門意見陳述の活用の典型例
6 執行官による現況調査命令(1項4号)
(1)執行官による現況調査の基本
執行官による現況調査の基本
あ 基本
執行官による現況調査命令は、物の現況に関する調査を執行官に命じる証拠収集処分である
中間試案では「現地調査手続」と呼ばれていたものである
執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずる処分である
この処分により、申立人は提訴前に、提訴後に証拠として必要となる現況調査の結果を収集することが可能となる
い 調査対象→現況
物の「形状、占有関係その他の現況」が調査対象となる
具体的には、物の形状・客観的現況、占有者および占有状況、占有の開始時期・占有権原などが該当する
権利関係よりも対象の物的・外形的状況の調査が中心となる
う 限界→強制できない
執行官に強制的な調査権限はなく、調査対象者が協力しなくても制裁はない
(2)執行官による現況調査の活用の典型例
執行官による現況調査の活用の典型例
7 参考情報
参考情報
小林秀之ほか編『証拠収集の現状と民事訴訟の未来』悠々社2017年p151、152
本記事では、提訴前証拠収集処分による証拠の種類について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にまだ訴訟を提起する前の段階での証拠集めに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。