【民事訴訟の自然人の普通裁判籍の決定基準(民事訴訟法4条)(解釈整理ノート)】

1 民事訴訟の自然人の普通裁判籍の決定基準(民事訴訟法4条)(解釈整理ノート)

民事訴訟を提起する時には、どの裁判所に申立をするか(普通裁判籍、管轄)、ということが問題になります。相手となる被告が自然人(法人以外)であればその「住所」が基準となりますが、それ以外にも細かいルールがあります。本記事では、このような自然人の普通裁判籍に関する解釈を整理しました。
なお、日本に管轄がある(日本の裁判所に提訴できる)ことが前提となっています。日本に管轄があるかどうか(国際裁判籍)は、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|国際裁判管轄の一般原則(民事訴訟法3条の2)(解釈整理ノート)

2 民事訴訟法4条の条文

民事訴訟法4条の条文

(普通裁判籍による管轄)
第四条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3(以下略)
※民事訴訟法4条

3 自然人の普通裁判籍の決定基準の基本

(1)自然人の普通裁判籍の決定基準(順序)→住所・居所・最後の住所

自然人の普通裁判籍の決定基準(順序)→住所・居所・最後の住所

あ 基本

自然人の普通裁判籍は、以下の優先順位で決定される

い 第1順位=住所

自然人の普通裁判籍所在地を定める第一次の標準は住所である
これは被告の国籍にかかわらず、外国人についても同様に適用される
※民事訴訟法4条2項

う 第2順位=居所

日本国内に住所がないとき、または住所が知れないときは、居所によって普通裁判籍を定める
※民事訴訟法4条2項

え 第3順位=最後の住所

日本に住所も居所も有せず、またはそれらがともに知れないときは、その人の普通裁判籍は最後の住所によって定まる
※民事訴訟法4条2項

(2)住所(居所)不明の立証

住所(居所)不明の立証

「住所が知れないとき」とは、通常人の注意で住所を探してもわからない場合をいう
通常人の注意をもって探しても住所が明らかにならなかったことを原告が立証すれば、被告が後に真の住所地を証明したとしても管轄違いとはならない

(3)判断の基準時→提訴時

判断の基準時→提訴時

提訴時の住所が普通裁判籍を定める基準となるので、訴え提起後に被告が住所を変えても管轄には影響しない
※民事訴訟法15条
これは居所の場合、または住所・居所が不明の場合についても同様である

4 「住所」の認定基準

(1)住所の定義

住所の定義

あ 住所の定義

住所とは、その人の生活の本拠をいう
※民法22条

(2)住所認定基準→客観説

住所認定基準→客観説

住所の認定には、客観的な定住の事実のみで足りるとする客観説が通説である
訴訟上の普通裁判籍の決定基準としては明確性が重要であるため、民事訴訟法4条2項の解釈としても客観説が採用されている
※最大判昭和29年10月20日(大学の学生につき大学附属の寄宿舎のある村に住所を有していたと判断)
※東京高判昭和42年10月26日(当事者の主観的意思にかかわらず、被告が現実に定住し、実質的な生活活動を営んでいる場所を住所とした)

(3)住所の複数性→肯定

住所の複数性→肯定

住所は同時に複数個を有することが認められる(複数説)
その場合は、各住所にそれぞれ普通裁判籍が認められる

(4)刑事施設収容者→刑事施設が原則

刑事施設収容者→刑事施設が原則

刑事施設に収容されている者の住所は一般に刑事施設所在地と解されるが、刑期によっては他の地を住所と解することを妨げない
その場合は送達のみが刑事施設の長になされる
※民事訴訟法102条3項

5 「居所」に関する基準

(1)居所の定義

居所の定義

居所とは、生活の本拠ではないが、多少の時間継続して居住する場所である
※民法23条1項

(2)居所の具体例

居所の具体例

あ 居所にあたる例

(ア)学生の在学中の下宿(イ)勤め人の住所以外の勤務地(単身赴任地等)

い 居所に該当しない例

(ア)休暇における別荘等での滞在(イ)ホテル・旅館での長期宿泊(ウ)病院の長期入院(程度問題として長期療養中の場合は居所となりうる)

(3)居所の複数性→肯定

居所の複数性→肯定

居所も複数存在する場合があり、その場合は原告が選択できる

6 最後の住所に関する基準

最後の住所に関する基準

あ 最後の住所の適用範囲

最後の住所とは、その人の日本においての最後の住所地を指す
その人の最後の住所が日本にあった場合のみに限定されない

い 送達の特則

最後の住所地の管轄裁判所に訴えを起こす場合、訴状その他の通常の送達が不能な場合が多いため、公示送達によることになる
※民事訴訟法110条

7 民事訴訟法4条2項の適用限界→特別裁判籍への適用なし

民事訴訟法4条2項の適用限界→特別裁判籍への適用なし

民事訴訟法4条2項は普通裁判籍にのみ適用される規定であるため、特別裁判籍には適用されない
債務不履行に基づく損害賠償につき民法484条により債権者の住所地が履行地になる場合、これは訴え提起当時債権者が日本国内に住所等を有するときに限られ、債権者たる原告が日本に住所または居所を有しないときにまで民事訴訟法4条2項を類推すべきではない
※東京高決昭和27年2月27日

8 その他の規定

(1)補充裁判籍

補充裁判籍

民事訴訟法4条2項(および他の管轄規定)によっても管轄が定まらない場合について、補充裁判籍の規定が置かれている
※民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2

(2)人事訴訟の特則→当事者両方が基準

人事訴訟の特則→当事者両方が基準

人事訴訟についても普通裁判籍によって管轄が定まるが、財産権上の請求の場合と異なり、身分関係の当事者双方の普通裁判籍が基準とされる
※人事訴訟法4条1項、人事訴訟規則2条(補充裁判籍)

9 関連テーマ

(1)民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍

詳しくはこちら|民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍

(2)日本国内の最後の住所による普通裁判籍(民事訴訟・人事訴訟)

詳しくはこちら|日本国内の最後の住所による普通裁判籍(民事訴訟・人事訴訟)

(3)民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)

詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)

(4)民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)

詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)

10 参考情報

参考情報

秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ 第3版』日本評論社2021年p194〜196

本記事では、民事訴訟の自然人の普通裁判籍の決定基準について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に民事訴訟の自然人の普通裁判籍の決定基準に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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