【既判力の意義と作用(民事訴訟法114条)(解釈整理ノート)】

1 既判力の意義と作用(民事訴訟法114条)(解釈整理ノート)

民事訴訟の確定判決には既判力があります。当事者を拘束する、蒸し返しを許さないという基礎的ルールです。本記事では、既判力の意義や作用に関する、細かい解釈を整理しました。

2 民事訴訟法114条の条文

民事訴訟法114条の条文

(既判力の範囲)
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
※民事訴訟法114条

3 既判力の基本(定義と効果)

既判力の基本(定義と効果)

あ 定義

既判力とは、確定した判決の内容である裁判所の判断が、以後提起される訴訟において裁判所および当事者を拘束し、同一事項を判断する場合に基準としての通用力を持つという効果である

い 効果(基本)

本案判決については、一定の標準時における権利または法律関係の存否についての裁判所の判断が、将来同一当事者間で提起される別訴訟で同一の権利または法律関係が争いになった場合に、裁判所は前訴判決の内容と異なる判断ができず、後訴当事者もその確定された権利・法律関係に矛盾する主張を有効にできなくなる効果を生じる

4 既判力の趣旨(実質的根拠・本質の理解)

(1)既判力の実質的根拠(深掘り)

既判力の実質的根拠(深掘り)

既判力の制度的根拠は以下の点にある
(ア)法的安定性の確保(イ)当事者の手続保障(ウ)司法資源の有効活用

(2)既判力の本質に関する学説(深掘り)

既判力の本質に関する学説(深掘り)

あ 実体法説

確定判決により、従前の実体関係に合致した判決は実体的権利関係を確認し、実体関係に反する判決は権利関係を消滅させたり発生させたりする

い 訴訟法説(通説)

既判力は訴訟法上の効力であり、実体法上の権利関係は変動せず、訴訟法上裁判所が確定判決に拘束され矛盾する判断ができなくなるだけの効力である

う 権利実在(具体的法規)説

確定判決によって確定されたもののみが権利であり、確定判決によって確定された権利または法律関係の存否の判断は、当事者間の具体的法規となる

え 新訴訟法説

既判力は公権的解決を一回的最終的なものとし、他の裁判所もそれを尊重すべく反する判断はできないという形で後訴裁判所の判断を内容的に拘束する訴訟上の効力である
現在は訴訟法的な効力と理解するのが一般的傾向だが、既判力の本質論の意義に懐疑的な見方も広がっている

5 既判力の作用(効果)の基本

(1)既判力の作用の基本→積極的作用と消極的作用

既判力の作用の基本→積極的作用と消極的作用

あ 積極的作用

後訴裁判所が既判力を持って確定された権利または法律関係についての判断に矛盾する判断をすることは許されず、確定された判断が後訴の審判の基準となる

い 消極的作用

前訴裁判所の判断に抵触する当事者の申立や主張・立証を排斥する

(2)刑事判決との関係→既判力の対象外

刑事判決との関係→既判力の対象外

既判力は民事判決の後の民事判決に対する関係で認められるのであって、刑事判決との間には認められない
※最判昭和25年2月28日民集4巻2号75頁

6 既判力が作用する状況

(1)後訴の訴訟物が前訴判決の訴訟物と同一であるケース

後訴の訴訟物が前訴判決の訴訟物と同一であるケース

あ 請求棄却

前訴で敗訴判決を受けた場合、裁判所は前訴基準時の判断に拘束され、基準時以後の事由に基づく新主張がなければ、請求棄却判決をする
例=土地所有権確認訴訟で敗訴した後、再び同一土地の所有権確認訴訟を提起する場合

い 訴えの利益なしによる却下

ア 原則→訴えの利益なし 前訴で勝訴判決(給付判決)を受けた場合、後訴は特別の事情がなければ訴えの利益がないとして排斥される
※大判昭和8年5月23日民集12巻1254頁
※大阪高判昭和52年3月30日判時873号42頁
イ 例外1→消滅時効更新 確定判決によって確定した権利が消滅時効によって消滅しそうで、被告の住所が不明でほかに方法がないときは後訴の訴えの利益が認められる
※大判昭和6年11月24日民集10巻1096頁
ウ 例外2→判決原本焼失ケース 判決原本が焼失して執行文の付与ができなくなった場合は、後訴の訴えの利益が認められる

(2)前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となっているケース

前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となっているケース

後訴裁判所は先決問題についての既判力ある判断を前提に審理判断する
例=土地所有権確認訴訟で勝訴または敗訴した後、所有権に基づく土地引渡請求訴訟を提起する場合

(3)後訴請求と前訴請求が矛盾関係に立つケース

後訴請求と前訴請求が矛盾関係に立つケース

後訴裁判所は先決問題についての既判力ある判断を前提に審理判断する
例=甲が土地所有権確認訴訟で勝訴した後、敗訴した乙が同一土地の確認訴訟を提起する場合

7 既判力の特徴

既判力の特徴

あ 双面性

既判力は前訴の勝訴当事者に有利に作用するのが通常だが、不利に作用することもある(既判力の双面性)

い 職権調査事項

既判力は公益に関わるため、裁判所は当事者の援用の有無にかかわらず、既判力ある確定判決の存在を職権で調査する必要がある

う 既判力の優先関係

確定判決の既判力を看過して判決が下され確定した場合、時期的に新しい後の判決の既判力が優先する

8 既判力が破られる状況

既判力が破られる状況→原則として再審のみ

確定判決の既判力は再審の訴えが認容される場合にのみ破られるのが原則である

9 判決の不当取得(騙取判決)の既判力

(1)判決の不当取得(騙取判決)→原則として既判力あり

判決の不当取得(騙取判決)→原則として既判力あり

あ 基本

騙取判決であることだけで既判力の生じることを一般的に否定することはできない
※大判大正3年3月7日民録20輯195頁
※大判昭和2年1月21日評論16巻民訴341頁
※東京高判昭和45年10月29日判時610号53頁

い 例外

ただし、双方審尋という手続保障がまったくなく、それが一方の不正な工作に由来している場合には、例外的に既判力の生じることを否定する余地がある

(2)不当判決による損害賠償請求訴訟→一定要件で可能

不当判決による損害賠償請求訴訟→一定要件で可能

あ 判決の不当取得による損害賠償請求→肯定例

判決の成立過程において原告が被告の権利を害する意図をもって不正な行為を行い、本来あり得ない内容の確定判決を取得(騙取)して執行し、被告に損害を与えた場合は例外的に不法行為による損害賠償請求が認められる
※最判昭和44年7月8日民集23巻8号1407頁、判時565号55頁
※最判平成22年4月13日裁判集民234号31頁(同趣旨)

い 判決の不当取得による損害賠償請求が認められる要件

(ア)著しく正義に反する行為であること(イ)確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮しても容認できない特別の事情があること(ウ)手続的に不正な行為をしていること(エ)不当な内容の判決を取得し、その執行による損害が発生していること(オ)当事者に相手方を害する意図があること(重過失では足りない) ※最判平成10年9月10日判時1661号81頁

(3)参考情報

参考情報

秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p480〜488

本記事では、既判力の意義と作用について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に民事訴訟の判決の効力(過去の訴訟の効果)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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