【控訴審における反訴の提起(民事訴訟法300条)(解釈整理ノート)】

1 控訴審における反訴の提起(民事訴訟法300条)(解釈整理ノート)

民事訴訟で被告とされた者が、カウンターとして反訴提起をするケースはよくあります。この点、控訴審で反訴をする場合には、相手方の同意が必要というルールがあります(民事訴訟法300条)。ただし解釈による例外も多いです。
本記事では、民事訴訟法300条の規定や解釈を整理しました。

2 民事訴訟法300条の条文

民事訴訟法300条の条文

(反訴の提起等)
第三百条 控訴審においては、反訴の提起は、相手方の同意がある場合に限り、することができる。
2 相手方が異議を述べないで反訴の本案について弁論をしたときは、反訴の提起に同意したものとみなす。
3 前二項の規定は、選定者に係る請求の追加について準用する。
※民事訴訟法300条

3 控訴審における反訴提起の法的構造

控訴審における反訴提起の法的構造

あ 原則→第1審と同じ

控訴審でも原則として第一審と同様の要件・方式で、原告は訴えを変更し(143条)、被告は反訴(146条1項)を提起することができる

い 控訴審の新請求の形式→控訴または附帯控訴

控訴審で提起される新請求は、控訴または附帯控訴の形式による必要がある
控訴が却下または取り下げられると、新請求の係属も消滅する

う 控訴審の反訴→附帯控訴

控訴審における反訴は附帯控訴の方式によるべきである
これは控訴審の審判対象が控訴申立てないし附帯控訴申立てであるため、いわば裸の形で反訴をすることはできないためである

4 反訴についての相手方の同意

(1)相手方の同意が必要とされる理由→審級の利益

相手方の同意が必要とされる理由→審級の利益

あ 反訴の要件→緩い

訴えの変更の要件である「請求の基礎の同一性」と比較すると、反訴の要件である「請求・防御方法との関連性」は事実審理の範囲の同一性が低い

い 審級の利益→要保護性が強い

反訴を無条件に認めることは、事実審の二審制について相手方が有する利益(審級の利益)を奪うおそれがあるため、相手方の同意を要求している

(2)相手方の同意が不要となる例外的ケース

相手方の同意が不要となる例外的ケース

あ 基本

相手方の審級の利益が侵害されるおそれがない場合には、相手方の同意は不要である

い 相手方の同意が不要な典型類型

ア 既存反訴の請求拡張ケース 第一審で反訴を提起していた当事者が控訴審で反訴の請求を拡張する場合
※仙台高判昭和31年8月9日下民集7巻8号2158頁
控訴審に係属している反訴請求について追加的に変更する場合
(請求の基礎が同一で、著しく訴訟手続を遅滞させない場合)
※最判昭和45年10月13日判時614号51頁
※最判昭和50年6月27日判時785号61頁
イ 第1審による実質的審理ありケース 本訴請求と請求の基礎を同一にする場合、または争点を共通とし第一審で実質的な審理がされている場合
※東京高判昭和55年10月2日判時986号63頁
※東京高判昭和56年12月15日判時1035号60頁、判タ466号92頁
※東京高判昭和59年2月29日判時1109号95頁、判タ526号146頁
ウ 参加人の請求との同一性ありケース 当事者参加の申立に関する反訴請求が参加人の請求と請求の基礎が同一である場合
※最判昭和52年10月14日判時870号67頁
※東京高判昭和39年10月29日訟月11巻8号1125頁
※大阪高判昭和54年3月20日高民集32巻1号51頁、判時940号49頁

(3)相手方の同意が不要と判断された事例

相手方の同意が不要と判断された事例

あ 賃借権関連

土地明渡請求事件において被告が第一審でその土地につき賃借権を有する旨抗弁を提出し、これが認められて勝訴判決があった場合に、控訴審で被告が反訴として賃借権存在確認の訴えを提起すること
※最判昭和38年2月21日民集17巻1号198頁

い 所有権確認と所有権移転登記請求

所有権に基づく不法占拠による賃料相当額の損害金請求事件において、被告が第一審で所有権を主張したが敗訴し、控訴審で反訴として所有権移転登記手続請求を提起すること
※大阪高判昭和44年5月29日高民集22巻2号331頁、判時568号54頁、判タ235号148頁

う 相殺の抗弁と自働債権の履行請求

第一審で主張・立証した相殺の抗弁の自働債権の履行を求める反訴を提起すること
※大阪高判昭和42年6月27日判時507号41頁

え 土地所有権確認に対する共有確認請求

土地所有権確認請求事件において、土地の帰属が争点とされた末敗訴した被告が、控訴審でその土地が共有に属することを求める反訴を提起すること
※名古屋高判昭和52年9月28日判時892号72頁

お 賃貸借の終了に対する賃貸借の権利行使妨害

賃貸借終了に基づく建物明渡請求の本訴に対し、賃貸借の権利行使の妨害などを理由とする損害賠償を求める反訴を提起すること
※東京高判昭和56年12月15日判時1035号60頁、判タ466号92頁

か 請求の基礎が同一ケース

第一審で擬制自白が成立し実質的に審理がされていないが、請求の基礎が同一である場合
事案=所有権に基づく建物明渡請求訴訟における所有権者
※大阪高判昭和56年2月25日判時1008号162頁

き 仮執行宣言関連

仮執行の宣言によって被告が給付したものの返還および仮執行などによる損害の賠償の訴え(260条)

く 人事訴訟関連

人事訴訟で別訴が禁止されている場合(人訴25条)および離婚訴訟における損害賠償請求の反訴や財産分与の申立て
※最判平成16年6月3日判時1869号33頁、判タ1159号138頁

(4)同意要件を欠く反訴の処理→移送・不適法却下の2説あり

同意要件を欠く反訴の処理→移送・不適法却下の2説あり

あ 前提

控訴審における反訴の提起について、相手方の同意を要すべき場合にその同意を得られないケース
2つの見解がある

い 移送説

独立した訴えの要件を具備していれば、管轄権のある第一審裁判所に移送すべきとする説
※東京高判昭和46年6月8日下民集22巻56号696頁、判時637号42頁、判タ267号331頁

い 不適法却下説

独立した訴えの要件を具備しているかどうかに関係なく、不適法として判決で却下すべきとする説
※東京高判昭和39年7月15日下民集15巻7号1793頁
※大阪高判昭和56年9月24日判タ455号109頁

5 選定者に係る請求の追加

選定者に係る請求の追加

あ 選定者の請求追加(前提)

選定当事者(民事訴訟法30条)が訴訟を追行している場合において、選定者に係る請求の追加は、口頭弁論の終結に至るまですることができる
※民事訴訟法144条1項、2項、297条

い 控訴審における特則

控訴審においてこれを行う場合には、相手方の同意を要する
※民事訴訟法300条3項
これは請求の追加の実質が新訴の提起(訴えの追加的変更)に相当し、相手方の審級の利益を考慮する必要があるためである

6 関連テーマ

(1)人事訴訟(離婚訴訟など)における訴え変更と反訴

詳しくはこちら|人事訴訟(離婚訴訟など)における訴え変更と反訴(解釈整理ノート)

7 参考情報

参考情報

秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p176〜183

本記事では、控訴審における反訴の提起について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に反訴や控訴など、民事訴訟の進め方に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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