【代物弁済・デッドエクイティスワップ(DES)|基本・仮登記担保法・課税リスク】
1 金銭の代わりに他の財産で返済する方法|代物弁済
2 事前に代物弁済候補を押さえておく方法|代物弁済予約
3 代物弁済は,税務上課税対象とされる|課税の種類まとめ
4 デット・エクイティ・スワップ(DES・債務の株式化)|債権の現物出資→新株割当
5 デッド・エクイティ・スワップ|税務上は『代物弁済』と同じ
1 金銭の代わりに他の財産で返済する方法|代物弁済
<代物弁済|民法482条>
あ 条文上の定義
既存の債務における『給付』に代えて『他の給付』を行ない,既存の債務を消滅させる合意
い 典型例
金銭の借主が返済する資金が不足していた
そこで,借主が所有する不動産を貸主に移転させ『弁済したこと』にした
貸金や代金など『金銭』を支払う義務はありふれています。
そして,払えない場合に,『他の財産』として不動産や債権で返す,という方法あります。
これを,法的には『代物弁済』と言います。
債権回収の一環として用いられることがあります。
2 事前に代物弁済候補を押さえておく方法|代物弁済予約
金銭を貸す時点で『将来返せなくなった時のため』に,借主の財産について『代物弁済の予約契約』をしておく方法もあります。
この点,不動産の場合『代物弁済予約』として仮登記をしておくことができます。
これによって『別の人に売却されてしまう』ということを防ぐことができます。
正確には,仮に別の所有者にわたっても,『代物弁済が実現する』という意味です。
ただし,この方法だと『小さい貸金で価値が大きい不動産を取り上げる』ということが生じがちです。
そこで『仮登記担保法』によって『債務額と不動産の価値の差額』についての清算義務が課せられます。
『仮登記担保』という意識がなくて,後から『清算義務』に気付くケースもあるようです。
設定時からしっかりと理解しておくべきです。
詳しくはこちら|仮登記担保の適用対象,実行,清算方法
3 代物弁済は,税務上課税対象とされる|課税の種類まとめ
代物弁済については,税務上,特定の財産を『売却した』のと同じように扱います。
弁済者,が『売主』に相当します。
弁済者について課税関係が生じます。
代金については債務額(弁済額)として想定する,という規定になっています(所得税法36条1,2項,消費税法28条,消費税法施行令45条1,2項)。
正確には,譲渡所得に関しては『総収入金額』,消費税に関しては『売上金』を『債務額』(弁済額)とみなすということです。
弁済者の属性によって,次のような課税の対象となります。
<弁済者と生じる課税関係>
あ 個人
ア 不動産の場合
不動産譲渡所得税;所得税法5条,33条
イ 不動産以外の場合
譲渡所得,事業所得,雑所得,山林所得として所得税の対象となることがある。
い 法人
法人税(益金or損金)
う 個人,法人のいずれも
消費税;課税事業者の場合;消費税法5条,28条1項,消費税法令45条2項1号
4 デット・エクイティ・スワップ(DES・債務の株式化)|債権の現物出資→新株割当
『代物弁済』に準じた方法として『債務を株式に変える』方法があります。
理論的には『貸付金など債権』を『現物出資』して『新株の割当を受ける』ということになります。
新株の対価としては『金銭』の出資が原則なのですが,例外的な『金銭以外の出資』というものです。
これを『現物出資』と言います。
実質的には『債権』が『株式』に変わった→『代物弁済』と同様です(後述)。
以前は手続上のハードルが高かったのですが,現在では簡略化されています。
実務上も使われることが増えています。
まずは基本的な事項をまとめます。
<デット・エクイティ・スワップの呼称|効果>
あ 呼称
ア デットエクイティスワップ=Debt Equity Swap=DESイ 債務の株式化ウ 負債と資本との交換・債権を元手にした出資
い 形式的効果
ア 『債権(債務)』がなくなるイ 債権者は(代わりに)『株式』を持つ(株主になる)
う 実質的効果
債権者は『返還請求』はできなくなるが,『株式』を持つ
ア 業績が回復した場合に『価値が(元の債権よりも)上がること』に期待できるイ 経営に参加できる
ちょっと言い方を変えると『債権を放棄するくらいならダメ元で株式をもらう』ともなります。
次に,実際に行うための手続・要件をまとめます。
<デット・エクイティ・スワップ|手続・要件>
あ 債権の弁済期が到来している
『未到来』でも『期限の利益の放棄』により可能となる
い 株主総会で決議した当該金銭債権の価額が負債の帳簿価格を超えない
登記申請時は総勘定元帳や会計帳簿の添付が必要
原則として『株主総会決議』が必要ということになる
※会社法199条1項3号
なお,以前は,500万円を超えるときには検査役や弁護士の証明が必要でした。
しかし,法改正により,現在はこれらの『証明』が不要とされています(会社法207条9項5号)。
5 デッド・エクイティ・スワップ|税務上は『代物弁済』と同じ
デッド・エクイティ・スワップは,次のように税務上の注意も必要です。
多少複雑な仕組みですが,税務上は『代物弁済』となるのです(前記『3』)。
<デッド・エクイティ・スワップ|税務上の扱い>
あ デッド・エクイティ・スワップの現象面
『債権』が,本来の『金銭』ではなく,その代わりに『株式』に変わる
↓
い 税務上の扱い
『債務(返済)』自体は実質免除となる
→『代物弁済』として扱われる
う 課税対象
『債務消滅益』
=『現物出資された債権の額面』と『債務の評価額(時価)』との差額
条文
[所得税法]
(納税義務者)
第五条 居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。
2 非居住者は、次に掲げる場合には、この法律により、所得税を納める義務がある。
一 第百六十一条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(次号において「国内源泉所得」という。)を有するとき(同号に掲げる場合を除く。)。
二 その引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる内国法人課税所得(第百七十四条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金をいう。以下この条において同じ。)の支払を国内において受けるとき又は当該信託財産に帰せられる外国法人課税所得(国内源泉所得のうち第百六十一条第一号の二から第七号まで又は第九号から第十二号までに掲げるものをいう。以下この条において同じ。)の支払を受けるとき。
3 内国法人は、国内において内国法人課税所得の支払を受けるとき又はその引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる外国法人課税所得の支払を受けるときは、この法律により、所得税を納める義務がある。
4 外国法人は、外国法人課税所得の支払を受けるとき又はその引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる内国法人課税所得の支払を国内において受けるときは、この法律により、所得税を納める義務がある。
(譲渡所得)
第三十三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
4 前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。
5 第三項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第一号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。
(収入金額)
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3(略)
[法人税法]
(内国法人の課税所得の範囲)
第五条 内国法人に対しては、各事業年度(連結事業年度に該当する期間を除く。)の所得について、各事業年度の所得に対する法人税を課する。
(各事業年度の所得の金額の計算)
第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項 (中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
[消費税法]
(納税義務者)
第五条 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
2 外国貨物を保税地域から引き取る者は、課税貨物につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
(課税標準)
第二十八条 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び次項において同じ。)とする。ただし、法人が資産を第四条第四項第二号に規定する役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。
2~4(略)
[消費税法施行令]
(課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準の額)
第四十五条 法第二十八条第一項 に規定する金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
2 次の各号に掲げる行為に該当するものの対価の額は、当該各号に定める金額とする。
一 代物弁済による資産の譲渡 当該代物弁済により消滅する債務の額(当該代物弁済により譲渡される資産の価額が当該債務の額を超える額に相当する金額につき支払を受ける場合は、当該支払を受ける金額を加算した金額)に相当する金額
二~五(略)
3(略)