【金銭の支払金種(現金・電子マネー・ビットコイン)と通貨の強制通用力】

1 支払金種のルール
2 支払金種の指定がない場合は現金払いが原則となる
3 法貨としての通用限度
4 『外貨建て』の場合でも『日本円で支払う』はOK
5 裁判所が判決・審判で金額を決めるのは『日本円』
6 無効→本旨弁済なし,の効果
7 現金拒否,電子マネー,ビットコインだけOK,という店舗の設定は適法

Yahoo!ニュースに掲載されました|めったに見かけない『レア物』となった『2千円札』 店は受け取りを拒否してもよい?

1 支払金種のルール

<支払金種が問題となる状況の例>

ある取引先が,代金支払を毎回現金で当社に持ってきている
当社は,管理上振込にして欲しい
拒否できないのだろうか

支払金種の指定について合意していない場合は,現金の支払=有効,と言えます。
例えば,基本契約や個別的な契約で明確に規定があれば,これに従います。
指定以外の弁済方法は,本旨弁済ではない→弁済(提供)として無効,となります(民法493条)。

そのような規定・指定が一切ない場合は,原始的な大原則である通貨の支払は有効です。
銀行振り込み,を強制することはできないのです。
逆に,現金支払の煩わしさから解放されるためにも,契約の時点で金種の指定をしておくと良いのです。
支払金種の指定の例をまとめておきます。

<支払金種の指定と指定がない場合のまとめ>

あ 現金を指定する例

『支払は現金をA社事務所に持参する方法による』

い 振込送金を指定する例

『支払はA社の指定する預金口座へ振り込む方法による
 振込手数料はB社が負担する』

う 指定がない場合

現金の支払は本旨弁済として有効
※通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律7条
※日本銀行法46条2項

2 支払金種の指定がない場合は現金払いが原則となる

金銭の支払について,金種を指定(合意)していない場合は,原則として現金払いをすることになります(民法402条1項)。
詳しくはこちら|民法402条(金銭債務の通貨による弁済)の規定と解釈の基本
実際には,支払う側としても,受け取る側としても,(特に金額が大きい場合)振込が安全・確実です。紙幣のカウント(札勘定;サツカン)もしなくて済むので便利です。
そこで実務上,振込送金で済ませることはよくあります。
法律的にも,実質的に現金支払と同じような方法については現金の提供と同じ扱いがなされます。銀行振込や銀行振出の小切手での支払が典型例です。
詳しくはこちら|金銭の提供として認められる範囲(手形・小切手・郵便為替など)
もちろん,当事者間で支払金種の指定(合意)をしていればそれに従うことになります。

3 法貨としての通用限度

一般的に,金銭債務について通貨(法貨)での弁済は保護されます(強制通用力)。
正確に言うと,弁済提供として有効,ということです。
例えば,1万円札・5000円札・1000円札・500円硬貨・・・という『通貨』の種類・組み合わせは払う方の自由です(民法402条1項)。
しかし,一定の制限はあります。

<不合理な現金の支払の例>

50万円の支払を受けることになっていた
支払金種は決めていない
嫌がらせで,500円玉を1000枚持ってこられた

法律上,同種コイン21枚以上,という場合は拒否できます。
代金の支払のために,コインを大量に持ってくる,という悪質な事例が多いということはないでしょう。
仮に大量のコインを受け取るとすれば,手作業で過剰な時間・労力を要します。
もちろん,機械式のカウンターがあれば容易でしょうけど,設置は一般的ではありません。

この点,法律上は貨幣については20枚が上限,と規定しています(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律7条)。
法貨としての通用限度,という表現です。
厳密に言えば,20枚分までしか本旨弁済(提供)とは認めない,ということです(民法493条)。

一方,紙幣については,法貨としての通用力は無限です(日本銀行法46条)。
極端な例ですが,不動産売買代金を1000円札だけで支払っても,拒否できないということです。
正確には,拒否しても弁済提供受領遅滞になり,債務不履行責任が生じない,ということです(民法492条,413条)。

以上は,契約上金額だけ決めていた金種を特定していなかったという場合の原則論です。

4 『外貨建て』の場合でも『日本円で支払う』はOK

国際取引で,取引の代金などの支払いを外国の通貨で支払う,ということは多いです。
いわゆる外貨建ての取引です。
当然,約束どおり指定された国の通貨で払うのが原則です。
しかし,民法上,換算して日本円で支払うことも可能とされています(民法403条)。
このルールは,合意で排除可能です(任意規定)。
詳しくはこちら|民法403条(外国金銭債権の弁済)の解釈(換算の基準時など)

なお,当然ではありますが,前提として対象取引に日本の民法が適用されることが前提となります。
詳しくはこちら|国際的法律問題まとめ(準拠法・国際裁判管轄・内容証明・強制執行)

5 裁判所が判決・審判で金額を決めるのは『日本円』

裁判所でいろいろな『金額』を算定することは多いです。
この時,『外貨』で支払を命じる金額を算出して欲しい,ということがあります。

<日本の裁判所が金額を決める場合の『通貨』の国>

あ 原則的な『通貨』の選択

日本円

い 理由

法律上の『金銭債権』の内容は,抽象的な『金銭』(=経済的価値)である
法律上『日本円』『米ドル』などの特定はない

日本国内で強制通用力を持つ『日本円』を選択するのが合理的
※通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第2条第1項

う 例外

ア 合意により特定の国の通貨が指定されている場合 →合意の効力として『通貨の指定』は有効
例;『損害賠償の予定額を50,000米ドルとする』
イ 家事事件で裁判所の裁量による外貨の選択 例;婚姻費用分担金・養育費の請求で,当事者の収入や支出が外貨である

6 無効→本旨弁済なし,の効果

仮に支払が無効となった場合のことを説明します。

<支払が無効となった場合の効果>

本旨弁済ではない;民法493条

債務不履行となる;民法415条

損害賠償,解除等が可能となる;民法415条,544条など

支払が無効となった場合は,正確に言うと本旨弁済がない,ということになります。
本旨弁済とは本旨に従った弁済のことです(民法493条)。
そうすると,支払がないのと同じという扱いになります。
遅延損害金が生じる,とか,支払遅滞を理由に大元の契約を解除される,というリスクがあり得ます。

7 現金拒否,電子マネー,ビットコインだけOK,という店舗の設定は適法

<事例設定>

代金支払を電子マネー限定にして,現金拒否にしたい
または,ビットコインのみ,という方法も考えている

硬貨や紙幣は『法貨』とされています。
強制通用力が与えられています。
この『強制』の意味はちょっと注意が必要です。

<『法貨の強制通用力』の意味>

『支払金種が指定さえていない場合』に法貨の弁済は有効になる→◯
『支払金種が指定されている』場合に,指定外の法貨の弁済が有効になる→☓
支払金種の指定の中から法貨を除外してはいけない→☓

法貨の強制通用力というは,法定通貨で弁済する状況が前提となっています。
そして,金銭債務の支払金種,支払方法を指定しなかった場合には法定通貨で支払うという規定(民法402条)があります。
詳しくはこちら|民法402条(金銭債務の通貨による弁済)の規定と解釈の基本
しかし民法402条は任意規定です。つまり法定通貨以外の支払方法を指定(合意)することは可能なのです。契約自由の原則,と呼んでいます。
詳しくはこちら|民法402条の任意規定性(法定通貨使用の強制を断念した経緯)
より正確に言えば,取引をしようとする者が提示する条件はその者自身が自由に設定して良い,ということです。

<支払金種の設定例>

『当店は現金は扱っておりません。電子マネーしか決済できません』
『当店はビットコインの支払だけ受け付けます』
※いずれも適法です。

現金というのはコスト,リスクを要するので,これを排除するのは合理的とも言えます。

<紙幣・コイン管理のリスク・コスト>

あ 従業員等の労務管理

内部・外部の盗難・強盗発生のリスクがある

い 物理的な紙幣・コインの管理

釣銭の確保・維持が必要となる
盗難防止のための措置が必要となる

う 経理上の金銭管理

データ化,集計に手間がかかる

将来,コイン・紙幣石のお金ような過去の遺物となる日が来るかもしれません。

本記事では,金銭の決済における,いろいろな支払金種や支払う現金の詳しい扱いについて説明しました。
新規サービスの支払方法を考える時などに,このような法的問題が参考になります。
実際に支払(決済)方法についてお悩みの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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