【除斥期間の基本(消滅時効との比較・権利行使の内容・救済的判例)】
1 消滅時効と除斥期間の趣旨の比較
2 消滅時効と除斥期間の要件・効果の比較
3 消滅時効と除斥期間の比較の補足説明
4 除斥期間内の権利行使の内容
5 不法行為による心神喪失と除斥期間の停止
6 加害者の隠蔽と除斥期間の停止
1 消滅時効と除斥期間の趣旨の比較
本記事では除斥期間の基本的時効を説明します。
除斥期間は,消滅時効は両方とも代表的な法律上の期間制限です。とても似ています。
そこで,除斥期間と消滅時効を比較しながら説明します。
最初に,消滅時効と除斥期間の趣旨をまとめます。
<消滅時効と除斥期間の趣旨の比較>
あ 消滅時効
ア 必要性
永続した事実状態の尊重
イ 許容性
権利の上に眠る者は保護しない
い 除斥期間
権利関係の早期安定
2 消滅時効と除斥期間の要件・効果の比較
消滅時効と除斥期間の要件と効果の比較をまとめます。
<消滅時効と除斥期間の要件・効果の比較(※1)>
― | 中断 | 停止 | 援用 | 期間算定の起算点 | 遡及効 |
消滅時効 | ◯ | ◯ | ◯ | 権利行使が可能となった時点 | ◯ |
根拠条文 | 147条 | 158条,160条 | 145条 | 166条 | 144条 |
除斥期間 | ☓ | ☓(※2) | ☓(※3) | 権利発生時 | ☓ |
根拠条文 | ― | (例外あり) | ― | 724条後段;例外あり | ― |
3 消滅時効と除斥期間の比較の補足説明
前記※1の比較のまとめの内容について,補足的な説明があります。
<消滅時効と除斥期間の比較の補足説明>
あ 条文
民法の条文である
い 除斥期間の停止(前記※2)
原則として停止は適用されない
特殊事情により停止が適用されることがある(後記※4,※5)
う 援用不要の意味(前記※3)
当事者の主張がなくても裁判所が職権で適用する
4 除斥期間内の権利行使の内容
除斥期間の実質的な効果は『権利行使の期間制限』です。
除斥期間内に権利行使をしないと権利がなくなるということです。
この『権利行使』については,提訴でなく,訴訟外の請求で足ります。
<除斥期間内の権利行使の内容>
裁判外で責任を問う意思を明確に告げることで足りる
裁判上の権利行使をするまでの必要はない
※最高裁平成4年10月20日
5 不法行為による心神喪失と除斥期間の停止
除斥期間については,原則的に『停止』の規定は適用されません。
つまり,一定の事情によって期間を延長することはないということです。
しかし,一切例外が認められないわけではありません。
救済的に停止が適用されたのと同じ扱いがなされることもあります。
まず,被害者の心神喪失の原因が不法行為にあったというケースを紹介します。
<不法行為による心神喪失と除斥期間の停止(※4)>
あ 事案
不法行為後20年が経過する前6か月内において
被害者が心神喪失の状態に陥っていた
これは不法行為が原因であった
その後,被害者が損害賠償請求をした
い 裁判所の判断
民法158条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じない
→制限行為能力者の時効の停止と同じ扱いである
※最高裁平成10年6月12日
6 加害者の隠蔽と除斥期間の停止
不法行為の加害者が隠蔽工作を行ったために遺族の権利行使が遅くなったケースを紹介します。
<加害者の隠蔽と除斥期間の停止(※5)>
あ 事案
加害者が被害者を殺害した
加害者が隠蔽を行った
その結果,被害者の相続人が,被害者の死亡の事実を知り得ない状態となった
相続人が確定しないまま殺害後20年が経過した
その後,被害者の相続人が損害賠償請求をした
い 裁判所の判断
民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じない
→相続人の時効の停止と同じ扱いである
※最高裁平成21年4月28日