【個人情報漏洩・流出の民事的責任(賠償金額)の実例と基準や相場】
1 個人情報漏洩・流出の民事的責任(賠償金額)の実例と基準や相場
2 顧客情報漏洩の賠償金額基準・相場(まとめ)
3 顧客情報漏洩・流出事件の実例と賠償金額
4 京都府宇治市・住民基本台帳データ漏洩事件|1万円+5000円
5 TBC顧客情報漏洩事件|自主的賠償→3万円/1万7000円
6 TBC顧客情報漏洩事件|訴訟→3万円+5000円
7 ヤフーBB会員情報漏洩事件|訴訟→5000円+1000円
8 三菱UFJ証券情報漏洩事件|年収・職業含む→1万円
9 アリコジャパン情報漏洩事件|クレジットカード情報→1万円
10 刑事事件の被害者の情報漏洩|弁護士の賠償責任
1 個人情報漏洩・流出の民事的責任(賠償金額)の実例と基準や相場
顧客情報などの個人情報が流出,漏洩する実例が継続的に生じています。
個人条保護法違反として行政的な監督を受けるとか,刑事罰が適用されることもあります。
詳しくはこちら|個人情報保護法違反による行政的監督・刑事罰とその他のリスク
それとは別に,被害を受けた者への民事的な賠償義務も生じます。
不本意ながら賠償額の相場の形成が進みつつあります。
本記事では,顧客情報の漏洩による賠償金(やその他の賠償)の実例を紹介し,相場の状況を説明します。
2 顧客情報漏洩の賠償金額基準・相場(まとめ)
顧客情報漏洩の実例(後記)は多くありますが,最初に,全体をとおして大まかに基準・相場としてみえてくるところを整理してまとめます。
秘匿性の程度によって大きく3段階に分けてみました。
<顧客情報漏洩の賠償金額基準・相場(まとめ)>
あ 秘匿性=『低』レベル→500円〜1000円
住所・氏名など
特殊事情はない
い 秘匿性=『中』レベル→1万円
秘匿性『中』レベル情報の例
ア クレジットカード情報イ 収入・職業に関する情報
う 秘匿性=『高』レベル→3万円
秘匿性『高』レベル情報の例
ア スリーサイズイ エステの施術コース
3 顧客情報漏洩・流出事件の実例と賠償金額
顧客情報の漏洩・流出が生じた場合,まずは企業の自主的な対応がなされます。
また,裁判所が賠償額を算定するに至ったケースもあります。
顧客1人あたりに交付された金銭やこれに代わる品の相場をまとめます。
<顧客情報漏洩・流出事件の実例と賠償金額>
時期 | 漏洩事業者・情報 | 規模 | 金額相場 |
平成10年 | 早稲田大学;講演参加者名簿を警察に提供 | 1400件 | 5000円 |
平成11年 | 宇治市;住民基本台帳データ | 約22万人 | 1万円(判決;※1) |
平成14年5月 | TBCグループ | 3万7000人 | 3万円/1万7000円(※2) |
平成14年6月 | ローソン | 56万人 | 500円 |
平成14年8月 | アプラス | 7万9000人 | 1000円相当 |
平成14年11月 | ファミリーマート | 18万3000人 | 1000円相当 |
平成14年12月 | 東武鉄道 | 13万2000人 | 5000円相当 |
平成15年6月 | ローソンカード会員情報 | 会員約115万人 | 5000円の商品券 |
平成15年11月 | ファミマ・クラブ会員情報 | 会員約18万人 | 1000円のクオ・カード |
平成16年1月 | ヤフーBB会員情報 | 451万7000人 | 500円の金券(※3) |
平成16年3月 | サントリー | 7万5000人 | 500円 |
平成16年5月 | ツノダ | 1万6000人 | 500円相当 |
平成16年6月 | コスモ石油 | 92万3000人 | 50マイル分 |
平成16年7月 | DCカード | 47万8000人 | 500円 |
平成17年1月 | オリエンタルランド | 12万2000人 | 500円 |
平成19年3月 | 大日本印刷 | 864万人 | 500円 |
平成20年4月 | サウンドハウス | 12万3000人 | 1000円相当 |
平成20年6月 | アイリスプラザ | 2万8000人 | 1000円相当 |
平成21年5月 | 三菱UFJ証券顧客情報(※4) | 4万9000人 | 1万円の商品券 |
平成21年8月 | アリコジャパン | 1万8000人 | 1万円/3000円(※5) |
平成21年8月 | アミューズ | 14万9000人 | 500円相当 |
平成25年4月 | JIN | 1万2000人 | 1000円相当 |
平成26年7月 | ベネッセ顧客情報 | 2895万人 | 500円分の電子マネーor図書カードor寄付 |
平成26年9月 | ドコモ顧客情報 | 法人1社・個人1053人 | (未定) |
平成26年9月 | 日本航空(JAL) | 最大75万件 | (未定) |
<補足説明(上記※1〜5)>
※1 これに弁護士費用5000円が加算される(後述)
※2 区分は後述する,訴訟では慰謝料3万円+弁護士費用5000円である
※3 訴訟では慰謝料5000円+弁護士費用500円である
※4 詳細な内容は後述する
※5 区分は後述する
次に,以上のケースの中から,特徴的なものについて説明を加えます。
4 京都府宇治市・住民基本台帳データ漏洩事件|1万円+5000円
地方自治法が情報漏洩の責任を負ったケースです。
<京都府宇治市データ漏洩事件(上記※1)>
あ 事案|背景
平成11年京都府宇治市における漏洩事件
乳幼児検診システム開発プロジェクトが遂行された
宇治市が開発業務を民間業者に委託した
い 情報漏洩経路
再々委託先のアルバイトの従業員がデータを不正にコピーした
アルバイト従業員がコピーした情報を名簿販売業者に販売した
約22万件の住民基本台帳データが流出するに至った
う 裁判所の判断
請求者(原告)1人についての認容額
=慰謝料1万円+弁護士費用5000円
※最高裁平成14年7月11日
5 TBC顧客情報漏洩事件|自主的賠償→3万円/1万7000円
エステティックサロンの顧客情報漏洩事件です。
秘匿性『高』レベル(前述)の情報が漏洩しました。
まずは自主的に賠償された金額についてまとめます。
<TBC顧客情報漏洩事件|自主的賠償(上記※2)>
あ 漏洩情報
ア 氏名・住所・メールアドレスイ スリーサイズ・『(施術)コース』内容
い 2次被害
顧客によっては2次被害が生じた
例;DMが送付されるなど
う 金額
2次被害の有無によって異なる
2次被害あり | 2次被害なし |
3万円 | 1万7000円 |
え 記録ホルダー
現在における最高額記録である
6 TBC顧客情報漏洩事件|訴訟→3万円+5000円
TBC顧客情報漏洩事件のうち訴訟で裁判所が判断した賠償内容です。
<TBC顧客情報漏洩事件|訴訟(上記※2)>
あ 裁判所の判断|評価
漏洩した情報の秘匿性が高い
DMが送付されるなどの2次被害が生じた
い 裁判所の判断|認定額
顧客1名についての認容額
=慰謝料3万円+弁護士費用5000円
※東京高裁平成19年8月28日
7 ヤフーBB会員情報漏洩事件|訴訟→5000円+1000円
ヤフーBB(当時)の会員情報の漏洩事件です。
訴訟での裁判所の判断を紹介します。
<ヤフーBB会員情報漏洩事件(上記※3)|訴訟>
あ 漏洩情報
氏名・住所・電話番号
い 裁判所の判断|認定額
慰謝料5000円+弁護士費用1000円
既に送付した金券500円相当を含む
※大阪高裁平成19年6月21日
8 三菱UFJ証券情報漏洩事件|年収・職業含む→1万円
秘匿性『中』レベルの情報(前述)が漏洩したケースです。
<三菱UFJ証券情報漏洩事件(上記※4)>
あ 漏洩情報
ア 一般的故人情報
氏名・住所・電話番号など
イ 秘匿性の高い情報
職業・年収区分・勤務先・部署・役職・業種等
い 漏洩経緯
約149万人分の顧客情報が持ち出された
約5万人分が名簿業者に売却された
う 自主的賠償
1万円の商品券
9 アリコジャパン情報漏洩事件|クレジットカード情報→1万円
クレジットカード情報が漏洩したケースです。
<アリコジャパン情報漏洩事件(上記※5)>
あ 特殊性
顧客によってはクレジットカード情報も漏洩した
い 金額
クレジットカード情報の流出の有無により異なる
流出した人 | 流出していない人 |
1万円 | 3000円 |
10 刑事事件の被害者の情報漏洩|弁護士の賠償責任
一般的な『大量の顧客情報を管理する事業』についての事例を以上で紹介しました。
次に,ちょっと変わったケースとして,弁護士の情報漏洩事件について紹介します。
<刑事事件の被害者の情報漏洩|弁護士の賠償責任>
あ 刑事事件の検挙
性犯罪に係る刑事事件について逮捕・起訴がなされた
国選弁護人が複数選任された
い 情報漏洩
弁護人は,ヤフーに『弁護団メーリングリスト』を開設した
閲覧設定のミス
→誰でも閲覧可能,となっていた
う 漏洩した情報
ア 裁判員裁判候補者名簿イ 判決文に記載されていた次の情報
・被害者の実名
・被害者の携帯電話番号
・被告人の両親の名前・電話番号
え 保険会社の保険金認定
100万円の賠償責任を認定した
=50万円×弁護人2名
※『弁護士賠償責任保険の解説と事例 第5集』全国弁護士協同組合連合会『6−(2)』
漏洩した情報がプライベートに深く関わるものです。
『漏洩した情報が濃いプラベート情報』という場合の参考になります。
<参考情報>
『週刊ダイヤモンド15年4月25日』p54
『週刊ダイヤモンド14年10月11日』p57