【政府保障事業;加害者不明,自賠責に未加入】
- 交通事故の加害者が任意保険にも自賠責保険にも入っていませんでした。
被害者は高額の賠償を払えそうもありません。
泣き寝入りになってしまうのでしょうか。 - 加害者が分からない,加害者が自賠責に加入していなかった,という場合は,政府保障事業による填補,という制度を利用できます。
1 人身事故で自賠責が利用できない,という時は政府保障を受けられる
2 政府保障事業の補償内容は自賠責と同じだが,健康保険,労災保険支給分は控除される
1 人身事故で自賠責が利用できない,という時は政府保障を受けられる
人身事故の被害者が,次のような事情により,自賠責保険を受け取れない,という場合には救済措置があります。
政府が賠償金を保障するという制度です(自賠法72条)。
政府保障(事業)と言います。
<政府保障の対象>
あ 対象者
・人身事故の被害者
傷害,後遺症,死亡のいずれかです。
い 対象とされる状況
(あ)加害者が不明
例;加害車両が走り去って,ナンバーなどの記憶もない,という場合
(い)加害者が自賠責保険に加入していなかった
自賠責の加入は義務ですが,違反して未加入ということもあり得ます。
<→別項目;自動車保険の種類;自賠責,任意保険>
う 保障の内容
自賠責保険と同等の内容の填補(賠償支払)
詳しくは後述します(後記『2』)。
2 政府保障事業の補償内容は自賠責と同じだが,健康保険,労災保険支給分は控除される
政府保障事業の填補は,原則的に,通常の自賠責保険と対象範囲が同一です。
しかし,完全に一致しているわけではありません。
政府保障事業は,社会保障という性格があります。
つまり,例外的な救済策という意味です。
この性格から,他の保険によってカバーされた部分は救済しない=控除する,ということになっています(自賠法73条)。
他の保険とは,健康保険,労災保険です。
逆に,健康保険,労災保険の保険金の支給は,政府保障より後でも影響を受けません。
そこで,政府保障事業の填補を受けた後に,健康保険や労災保険の支給を受ける,という順番にすると有利です。
いずれも控除されずに済むのです。
条文
[自動車損害賠償保障法]
(業務)
第七十二条 政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
2 政府は、第十六条第四項又は第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行う。
3 前二項の請求の手続は、国土交通省令で定める。
(他の法令による給付との調整等)
第七十三条 被害者が、健康保険法 (大正十一年法律第七十号)、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)その他政令で定める法令に基づいて前条第一項の規定による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、同項の規定による損害のてん補をしない。
2 前条第一項後段の場合において、被害者が第三条の規定による損害賠償の責に任ずる者から損害の賠償を受けたときは、政府は、その金額の限度において、前条第一項後段の規定による損害のてん補をしない。