【特殊な事情と運行供用者責任の判断(所有権留保・レンタカー・盗難車)】
1 所有権留保と運行供用者の判断
2 レンタカーと運行供用者責任
3 自動車の盗難と運行供用者責任
1 所有権留保と運行供用者の判断
自動車の所有者は通常,運行供用者に該当します。
詳しくはこちら|運行供用者責任の基本(運行支配・運行利益・他の制度との関係)
本記事では,特殊な事情があるケースでの運行供用者の判断について説明します。
最初に所有権留保がある状況での運行供用者の判断について紹介します。
典型例は,自動車ローンを利用しているようなケースです。
車検証上の『所有者』としてローン会社が記載されることになっているのです。
<所有権留保と運行供用者の判断>
あ 当事者の立場
所有者 ローン会社
使用者 購入者=自動車を日常的に使っている者
い 所有権留保の性格
『留保された所有権』は実質的には担保権である
詳しくはこちら|所有権留保|設定方法・実行方法・利用例
→形式的な所有者には『運行支配+運行利益』が認められない
う 結論
所有権留保の『所有者』は運行供用者に該当しない
※最高裁昭和46年1月26日
2 レンタカーと運行供用者責任
レンタカー事業者は,レンタカーをユーザーに引き渡します。
この時にも,事業者は運行供用者に該当すると判断されています。
<レンタカーと運行供用者責任>
あ 当事者
A=レンタカー事業者
B=レンタカーを借りて運転していた者
AはレンタカーをBに賃貸した
い サービス内容
AはBの免許証の有無を確認した
Aは自動車の使用時間・行先を指定した
走行距離・使用時間に応じて料金が設定されていた
使用時間・行先の変更の際はAへの事前連絡が必要である
変更の連絡を怠った場合には倍額の割増賃料となる
AはBから預り金の名目で賃料の前払を受けた
う 車両の整備
車両の整備は常にAの手で責任をもって行われていた
賃貸中の車両の故障の修理は原則的にAの負担であった
え 裁判所の判断
Aは自動車に対する運行支配+運行利益を有していた
Aは運行供用者責任を追う
※最高裁昭和50年5月29日
3 自動車の盗難と運行供用者責任
自動車が盗難され,犯人が運転中に事故を起こしたというケースがあります。
通常,所有者としては,犯人が盗んで運転することを了承しているはずはありません。
そこで,運行支配がないと判断されます。
ただし,特殊な事情があると運行支配が認められることもあります。
<自動車の盗難と運行供用者責任>
あ 前提事情
A(所有者)が甲自動車を所有している
Bが甲を盗んだ
Bが甲を運転中に事故を起こした
い 原則
所有者Aには『運行支配』がない
→運行供用者責任は否定される
※東京高裁昭和62年3月31日
う 例外
所有者Aに盗難の予見可能性があった場合
例;キーを付けたまま長時間自動車を離れる
→『運行支配』が認められることがある
→この場合,運行供用者責任or不法行為責任が生じる