【前方注視義務・車間距離保持義務,ETCレーン】
- 前を走る自動車が急ブレーキをかけたので,後ろを走る私の自動車が追突してしまいました。
前の自動車側にも責任があるのではないですか。
ETCレーンの場合にはどうなりますか。 - 追突事故については,一般的には,先行車の過失による過失相殺は否定されます。
ETCレーンで危機の不具合や人為ミスが重なってブレーキ,停車→後続車が追突,というケースもあります。
原因によって責任が判断されます。
1 前方注視義務,車間保持義務違反による損害賠償
2 ETCレーンでの追突;原因不明
3 ETCレーンでの追突;カード挿入忘れ
4 ETCレーンでの追突;ゲート手前で停車
1 前方注視義務,車間保持義務違反による損害賠償
自動車で走行する際の一般的な注意義務として前方注視(注意)義務,車間距離保持義務があります。
まさに,道路の状況によって,周囲の自動車が緊急の動作(操作)に出る,ということがいつ生じてもおかしくないのです。
『急ブレーキ』は,緊急の動作の典型です。
ですから,一般的に,自動車を運転する際は,特に進行方向を十分に注視し,かつ,車間距離を十分に取る,ということが要請されています。
結果的に『追突』という類型については,一般論として,後続車の方に100%の過失が認められる,ということが多いのです。
2 ETCレーンでの追突;原因不明
<事例>
高速道路の出入口のETC専用レーンで先行車が急ブレーキをかけたために,後ろを走る私の自動車が追突してしまいました。
ETCの機器の不具合が原因のようです。
ETCレーンでは,ETC機器を備えた自動車が,スムーズに通過することが想定されています。
元々,ETCのシステムの目的自体が,料金所で停車することなく,スピーディー,スムーズに進行するというものです。
ETCレーンで停車する,ということは本来的に想定されていません。
しかし,機器の不具合により,通信エラー→ゲートが上がらない,ということも一定の確率で予想されます。
そこで,ETCシステム利用規程においても,20km/h以下への減速徐行前車の停止を想定した車間距離の保持が順守事項として明記されています(ETCシステム利用規程8条1項1~3号)。
結論として,ETCレーンで追突した場合は,先行車に特別なミスがない限りは,先行車は過失ゼロ,後続車100%,となるでしょう(後掲裁判例1)。
3 ETCレーンでの追突;カード挿入忘れ
<事例>
高速道路の出入口のETC専用レーンで先行車Aが急ブレーキをかけました。
そのため,後ろを走るBの自動車が追突してしまいました。
先行車AのドライバーがETCカードの挿入を怠っていたことが原因のようです。
ETCレーンでの急ブレーキ→後続車の追突,という事故類型で,原因が先行車のETCカード挿入忘れとハッキリしているケースもあります。
つまり,先行車側の人為ミスと捉えることもできましょう。
しかし,このようなケースでの裁判例の傾向としては,先行車の過失ゼロ(過失相殺否定)というものが多いです(後掲裁判例2,裁判例3)。
一方で,10~20%程度,先行車の過失(相殺)を認める,というものもあります(裁判例後掲)。
他の状況,つまり,個別的な事情によって判断は変わると言えます。
<判断要素の例>
・ブレーキ前の速度(特に後続車)
・ブレーキ前の車間距離
・ブレーキをかけ始めた地点
さらに,比較的新しい問題であり,裁判例も比較的少ないです。
判断(判決)のブレもある程度存在すると言えます(=再現性が低い)。
4 ETCレーンでの追突;ゲート手前で停車
<事例>
高速道路の出入口のETC専用レーンの2~30メートル手前で先行車Aが停車しました。
後ろを走るBの自動車は急ブレーキをかけることになりました。
その結果,追突してしまいました。
先行車のドライバーがETCカードの挿入を怠っていたことが原因のようです。
先行車が,ETCカード挿入を忘れていることに気付いた→とりあえず停車→車内でカードを探して挿入,という動作に出ることがあるでしょう。
その場合,カード挿入忘れの警報音が鳴り,ゲートの少し前で気付く,ということになりがちです。
後続車のドライバーとしては,想定外の場所に停車していると感じることでしょう。
直前まで停車しているように思えず,結果的に急ブレーキになってしまい,間に合わずに追突した,というケースも生じています。
この場合,後続車としてはどうせ停車するならゲート直前であればブレーキが間に合ったとも思えましょう。
一方,前方注視義務,車間距離保持義務が不十分だった,という考えもあります。
このようなケースについての裁判例は数少ないですが,先行車の過失割合=ゼロという傾向があります(後掲裁判例4)。
ETCレーン一帯について,前方注視義務車間距離保持義務は,一般的なケースよりも重視されているということです。
ETCシステム利用規程においては,徐行や車間保持義務の対象はETC車線とされています。
文言上も,やや広いエリアを対象としている,と読めます。
条文
[ETCシステム利用規程]
(通行上の注意事項)
第8条 ETCシステムを利用する者は、ETC車線(スマートIC(地方公共団体が主体となって発意し、当該地方公共団体が高速自動車国道法(昭和32年法律第79号)第11条の2第1項の規定に基づき連結許可を受けた同法第11条第一号の施設で、道路整備特別措置法施行規則(昭和31年建設省令第18号)第13条第2項第三号本文に規定するETC専用施設のみが設置され、同号イに規定するETC通行車のみが通行可能なインターチェンジをいいます。以下同じです。)の車線及び一旦停止を要するETC車線(ETCシステム利用規程実施細則第5条その他の事項に定める料金所にあります。以下同じです。)を除きます。)を通行する場合は、次の各号に掲げる事項を遵守しなければいけません。
一 車線表示板(料金所の車線上に設置されたETCシステムの利用の可否を示す案内板をいいます。以下同じです。)に「ETC」若しくは「ETC専用」(これらの表示がある車線では、ETCシステムを利用する自動車しか通行できません。)又は「ETC/一般」(この表示がある車線では、ETCシステムを利用する自動車及びいったん停車して係員に対して通行料金を支払う車両(道路運送車両法第2条第1項に規定する道路運送車両のうち、軽車両を除くものをいいます。以下同じです。)が通行できます。)と表示されるので、これらの表示によりETC車線が利用可能であることを確認し、20キロメートル毎時以下に減速して進入すること。
二 ETC車線内は徐行して通行すること。
三 前車が停車することがあるので、必要な車間距離を保持すること。特に「ETC/一般」と表示のある車線では、前車がETCシステムを利用しない場合は、いったん停車するので注意すること。
四~七(略)
2~5(略)
判例・参考情報
(判例1)
[東京地方裁判所平成19年(ワ)第35283号損害賠償請求事件平成21年7月14日]
(2) ところで,被告は,本件事故が,原告車のETCカードの書き込みエラーによるゲートのバーがあがらなかったことにより原告車が急ブレーキをかけた影響によると主張し,原告車が42キロメートル毎時でETC車線に進入し,被告車も同速度で進行したと主張する。
しかしながら,東名高速道路におけるETCシステム利用規程(甲3)によれば,?ETC車線では20キロメートル毎時以下で,かつ,安全の確保できる速度で進入すること,?前者が停車することがあるので,必要な車間距離を保持すること,?20キロメートル毎時以下で,かつ,安全の確保できる速度で通行することなどが求められていることが認められるところ,被告は,これらを遵守していなかったことは,被告の自認するとおりであり,原告車に速度超過があったとしても,後続車である被告車は,原告車の停止まで想定してETC車線への進入,通行をしなければならず,必要な車間距離を取ることを求められているのであるから,ETCバーがあがらなかった原因については,必ずしも判然としないものの,仮に原告車のETCカードの書き込みエラーがあって急ブレーキをかけたとしても,原告車の通行状況を斟酌するのは相当ではない。
よって,本件において,原告車の過失を問うことはできない。
(判例2)
[平成21年11月 5日 東京地裁 平21(レ)280号]
(先行車の過失割合=2割)
控訴人は,ETC車線においては,前車が停止しないという信頼の原則が妥当するとか,前車の停止が予期に反していたなどと主張するが,前記のとおり,ETC車線を進行する車両の運転者は前車が停止することがあり得ることを予見して運転するべきであるから,控訴人の主張は採用できない。
他方,被控訴人車を運転していたCは,不注意によりETCカードを挿入し忘れ,そのために開閉棒が開かなかったものと推認されるところ,ETC車線を進行しようとする者はETCカードを挿入して通行しなければならないのであるから,CにはETCカードの挿入を怠った過失があるというべきである。
そして,双方の過失の態様に加え,本件事故現場のETC車線はETC車専用の車線であり,混在車線(ETC/一般の表示のある車線)に比べて,後続車の運転者において,先行車が停止せずに料金所を通過する期待は大きいと考えられることを併せ考慮すると,控訴人の過失割合は8割,Cの過失割合は2割とするのが相当である。
(判例3)
[大阪地方裁判所平成21年(ワ)第14809号保険代位による求償金請求事件平成22年4月22日]
(先行者の過失割合=ゼロ)
(1) 本件事故は,西名阪自動車道天理インターチェンジ手前の天理料金所のETCゲート内における追突事故であり,ETCゲートの開閉バーが上がらなかったのは前車運転者のBがETCカードを挿入し忘れていたことに起因するものである(甲12,乙9,弁論の全趣旨)。
(略)
したがって、ETCゲートを通過しようとする車両運転者には、開閉バーが開かないために前車が仮に急停止した場合であっても、これに追突しないような措置を講ずべき注意義務が課されている(その意味で、高速道路本線を走行中に急停止することに対する評価とは全く異なる。)と言うべきであって、ETCゲートの開閉バーの手前で停止している前車に追突してしまった場合は、上記規程や細則に違反した一方的な過失があったと言わなければならない。そうすると、開閉バーが上がらなかった原因が本件のようにETCカードの挿入忘れにあったとしても、追突した後車(被告車)側の過失割合が一〇割と認めるのが相当である。
(判例4)
[平成21年 9月 4日 名古屋地裁 平20(ワ)5522号]
ア 原告X2は,X車両を運転して,本件事故現場付近の高速道路のETCゲートに進入しようとしたところ,ETCカードを挿入していないことに気付いたことから,ETCカードを挿入していない一般車両でも通過できるレーンに移動すべく,ETCゲート手前のETC車線のアイランドの少し手前でX車両を停止させた。原告X2は,料金所が近づいたところでX車両の速度を落とし,時速10ないし15キロメートルほどで走行していたので,急ブレーキをかけることなく,上記の地点にX車両を停止させた。
X車両のすぐ後には,a車両が,X車両に追突することなく停止した。
原告X2は,停車後,同地点で停車を続けることで渋滞になるなどしてはいけないと,早く移動しなければならないと思ったが,X車両の左右のレーンはいずれも車両の通行が激しく,流れが収まることがなかったので,移動することができないでいた。
そして,X車両が停車してから30秒くらいは経ってから,Y1車両に追突されたあおりで停止していたa車両がX車両に追突するという本件事故が発生した(以上につき,甲15,原告X2本人)。
(略)
(2) 以上によれば,本件事故は,X車両が停車した後30秒くらいという相当の時間が経過した後に,被告Y1が,X車両の後に停車したa車両に追突することによって生じた事故である。そして,被告Y1には,先行する車両に衝突しないような速度及び車間距離を保って走行すべき義務があるのにこれを怠ったためにa車両に追突することになったと推認されるから,被告Y1には,本件事故につき,上記義務を怠った過失がある。他方,原告X2は,上記認定のように,急停車をしたものではない(仮に,急停車したとしても,X車両の停車から本件事故の発生までに30秒くらいもの時間の経過があることからして,急停車が本件事故の原因とは認められない。)から,本件事故につき過失があるとはいえない。
したがって,本件事故は,被告Y1の一方的な過失による事故であるというべきであり,被告らの過失相殺の主張は採用できない。