『悪意』『捏造』『改ざん』の合目的的解釈(STAP論文問題)

1 不正論文問題は解釈論が深いのでダイジェストにしてみたい
2 『どの言葉の解釈をするか』を特定;研究不正規定の条文引用
3 研究不正から排除される『悪意のない間違い』
4 『捏造』の意味=『現象』の外観作出
5 『改ざん』の意味=『生データ』作出
6 『捏造』と『改ざん』の違い
7 STAP論文疑惑をあてはめてみる→『捏造』に該当する
8 理研の平成26年5月7日公式見解|最終解釈権者=裁判所(追記)
9 理研へのメッセージ,関連コラム,脚注

1 不正論文問題は解釈論が深いのでダイジェストにしてみたい

理化学研究所の不正論文問題について,これまで私なりにいくつかまとめてみました。
ただ,詳しく分析するとどうしても難解になります/なりました。
ダイジェスト版,暫定版,メモ,という趣旨でここに記します。
また随時改良するかもしれないです。

対象は主に2点だけ。
『悪意』と『捏造』。
補足的に『改ざん』も。

2 『どの言葉の解釈をするか』を特定;研究不正規定の条文引用

<調査報告書で適用している規程>

科学研究上の不正行為の防止等に関する規程
『科学研究上の不正行為の防止等に関する規程(平成 24 年 9 月 13 日規程第 61 号)』

以下『不正防止規程』と略して呼びます。
適法にコピペしておきます。

<研究不正規程より引用>

(定義)
第2条  この規程において『研究者等』とは、研究所の研究活動に従事する者をいう。
 2  この規程において『研究不正』とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げ
る行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。
 (1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。
 (2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。
 (3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること。
緑色を発するhtmlタグ付けは筆者
研究論文の疑義に関する調査報告書
※↑この中のp11〜です。

3 研究不正から排除される『悪意のない間違い』

研究不正規程2条2項ただし書の『悪意のない間違い』が,どんな内容なのか,が問題です。

ここで,条文の構造が分かりにくいので直します。
2重否定だと分かりにくいので,を取っただけです。(※4

<研究不正の定義条文の構造を整理>

あ 研究不正規程

悪意のない間違いは研究不正から除外する

い 改良版

悪意のある間違いは研究不正に該当する

この上で,『悪意』を考えます。
これを分析を進める解釈論は難解になります。
『honest(error)』という英語に漂着します。
参考にURL(herf)を示しますが,スルー推奨です。
<→別コラム;理系弁護士による「悪意」の説明(STAP論争)

合目的的,ダイジェストとして結論に行きます。

『悪意』のある間違いの意味>

誤った認識を生じさせる目的をもった間違い』

↓『誤った認識を生じさせる』をさらに解釈。

<『誤った認識を生じさせる』の内容>

『生じてない現象』を『生じた』と認識する(画像,文章等の論文内容)

4 『捏造』の意味=『現象』の外観作出

<研究不正規程のスポット引用>

※2条2項
 (1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。

ここは国語辞典を出すと却って分からなくなります。
このルールが何を防止する目的なのか,から解釈します。
これを合目的的解釈と言います。
目的=誤った解釈を生じる,です。
既出です。

<『捏造』の解釈>

ア その表記,表現により,特定の条件において『生じてない現象』を『生じた』という認識を生じさせるものイ 表記,表現の元となったデータが別の条件による実際の観測データであるかどうかは問わない

5 『改ざん』の意味=『生データ』作出

これはオマケです。
理研の問題でテーマとして登場していませんので。

<研究不正規程のスポット引用>

 (2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

<『改ざん』の解釈>

特定の条件において『観測された情報』として,真正ではない値を使用すること

6 『捏造』と『改ざん』の違い

(1)『捏造』と『改ざん』の違いを表にしてみる

<『捏造』と『改ざん』の違い>

↓不正の分類 生じる『誤った認識』の対象 不正に(新たに)作り出したもの 法的な言い方
『改ざん』 観測されたデータそのもの 生のデータ(元データ)(※1) 客観的事実
『捏造』 現象が生じたかどうか 現象(の外観)(※2) 事実の評価

7 STAP論文疑惑をあてはめてみる→『捏造』に該当する

まずは前提を特定します。
主要なものをざっくりと行きます。

<STAP疑惑の内容の主要なもの>

A実験(条件)で獲得した画像をB実験(条件)で獲得したものとして掲載(表示)

次に上記の解釈に当てはめます。

(1)『捏造』に該当する

<『捏造』該当性>

現象(の外観)は『作り出した』に該当する

『捏造』に該当する

ここで,小保方氏側の主張でずっと違和感のあるものを指摘しておきます。

<小保方氏の主張;法的3段論法は的外れ>

ア 『捏造』は『データを新たに作り出すもの』(※3)イ 本件では『データは存在する』ウ 『捏造』には該当しない

『※3』は本来『※2』に対応するのに,『※1』と対応させてしまっているのです。
不正というか誤りですね。

(2)『改ざん』には該当しない

別の実験(条件)で獲得したデータであれば,『改ざん』には該当しません。
『改ざん』とは,生のデータを不正に作出ですから。

8 理研の平成26年5月7日公式見解|最終解釈権者=裁判所(追記)

理研の公式見解として説明がありました。
これを引用しておきます。
結論として,言い回しは違いますが,上記の私の記載と同様の内容となっていました。

<理研の公式見解掲載の書面>

不服申立てに関する審査の結果の報告
平成26年5月7日
<→理研HP

(1)『悪意』について

<『悪意』の定義に関する記述>

『悪意』とは、客観的、外形的に研究不正とされる捏造、改ざん又は盗用の類型に該当する事実に対する認識をいうものと解する。
※p1(2)

つまり,『知っている』=単純な『故意』と同じこととしています。
一方で,別の箇所で『結果が誤った認識』に結びつくかどうかも考慮しています。

<『結果の認識』との関連性>

こうした説明の経緯のみからしても、直線性について目視で行うなど、上述した加工をすることによってもたらされる結果に対する認識はあったことは明らかである。
※p6『イ』の上

<『誤った解釈への誘導危険性』との関連性>

加工の態様等からすれば、そのようなデータの 誤った解釈へ誘導する危険性があることについて認識があったと言わざるを得ないところ である。
※p6『イ』

結局,『誤った解釈に結びつくことの認識』と同じような意味となっています。
元々一般論として,不正なデータを示す誤った認識を生じる,と言えます。

(2)『改ざん』について

<『改ざん』の定義に関する記述>

研究資料等に操作を加え、データ等の変更等の加工により、結果が真正なものでないものとなった場合には、『改ざん』の範疇にあることとなる。
※p1(1)

簡単に言えば,変更でも新作でも,真実でないデータが誕生した場合を意味する,ということになります。

(3)『捏造』について

<『捏造』の定義に関する記述>

捏造の範疇にあるか否かは、当該論文との関係において、当該データが論文に記載されている実験条件下で作成されたものであるか否かにより判断されるものである。
※p8(1)(最初に登場する方)

簡単に言えば,『特定条件下』での現象として真実ではないもの,という意味となります。

※注意
引用文中,『カギカッコ』の様式は変更してあります。

(4)この解釈論の最終判断権者=裁判所

<今後の想定フローと判断権者>

理研 懲戒解雇(諭旨解雇もありますが)

小保方氏 解雇無効の確認請求訴訟提起
※正式(法的請求権)=『従業員の地位確認請求+賃金請求』

裁判所 懲戒解雇の有効性判断要素の1つとして『研究不正規程上の定義の解釈』が位置付けられる

裁判の実際の争点の中心は『研究不正』の該当性です。
理研の研究所×2+小保方氏不服申立書など,を裁判所がトレース→公権的に判断します。
『定義の解釈』はこの壮大なトレース→判断,の一環です。
<→別項目;一般的な懲戒解雇の有効性判断

9 理研へのメッセージ,関連コラム,脚注

(1)理研へのメッセージ

不正が許容されると,真面目な研究者が相対的に不利になります。
ルール遵守への意欲を失わせることになります。
理研には,適正なサイエンス,テクノロジーの発展のためにも,感情,先入観抜きで適正な対処をしてもらいたいです。

なお,私の以上の論文を使っても構いません。
『不正なコピペ』,とか言うつもりはありません!

(2)関連コラム,情報

別コラムや関連する法律解釈(説明)項目をまとめておきます。
別項目;STAP情報プール;理研の公表,研究者コメントなど>">別コラム;STAP現象疑惑のフローと今後の展開のまとめ
別項目;研究不正における共著者の責任割合→相互の損害賠償請求>">別項目;研究不正→実験者,共著者の懲戒解雇の有効性
理系弁護士による「悪意」の説明(STAP論争);私の異議!>">別項目;理系弁護士が理研vs小保方さんの対立を超簡単に(STAP論争)
↑※ちょっと分析が深い≒難解,です。
<→別項目;博士号等の認定における論文内容の判断は司法審査の対象外とされる
個体識別要請に反します。">別項目;食用,実験用の動物の扱いは環境省で基準が定められている">別項目;専門的職種は有期労働契約の上限が『5年』と長めになる

(3)脚注

<※4 『裏』について>

論理学上の一般論では,『裏』は必ずしも真ではないです。
『否定の否定』を『肯定』に直した,という言い方の方が良いかもしれません。
ただし,本テーマは,『合目的的解釈』なので,論理学,集合における用語にはこだわらないことにしておきます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
消費者,従業員,雇用主の利益分配は自由市場メカニズムで最適化される
【研究不正における共著者の責任割合→相互の損害賠償請求】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00