地すべり危険エリアの避難要請よりも『私有財産制』が優先
1 地すべり防止施設の設置は都道府県が行う
2 地すべり防止工事に伴い,土地収用がなされることもある
3 地すべりの危険エリアからの避難のための立退指示がなされることもある
4 地すべりの危険がある地域の土地所有者を強制的に排除できない
1 地すべり防止施設の設置は都道府県が行う
大雨などにより,地中の水分の量が増加すると,大規模な地すべりが生じることがあります。
地すべりという災害についての,事前・事後の公的な対策・対応について法律上の規定が用意されています。
まずは,事前の予防的な施策について説明します。
具体的には,地すべり防止施設の設置ということになります。
<地すべり防止施設の設置工事の実施主体・費用負担>
あ 地すべり防止施設の典型例
・排水施設
・擁壁
・ダム
※地すべり等防止法2条3項
い 工事実施者
原則=当該区域の都道府県(地すべり等防止法7条)
例外=国土の保安上特に重要な場合は政府(主務大臣)の直轄とする(地すべり等防止法10条)
う 工事費用負担
(政府:都道府県)=(1:1)or(2:1)
市町村が利益を受ける場合は,市町村も一部の負担をする
※地すべり等防止法27条,29条,28条,31条
2 地すべり防止工事に伴い,土地収用がなされることもある
地すべり防止工事を実施するにあたり,例えば擁壁設置部分は,通常の使用ができない土地となってしまいます。
使用できなくなった土地については,強制的な『収容』が認められます。
当然,収容に伴う補償金の交付が伴います(土地収用法2条,3条3号の2,68条〜)。
3 地すべりの危険エリアからの避難のための立退指示がなされることもある
(1)政府による『地すべり防止区域』の指定
地すべりの危険がある地域については,政府が『地すべり防止区域』を指定します(地すべり等防止法3条)。
これは,言わば警告に過ぎません。
(2)都道府県による避難のための立退指示
さらに危険性が強い場合は,公的な対応もレベルアップします。
『著しい危険が切迫している』という地域については,都道府県が,居住者に対して,立退の指示をすることができます(地すべり等防止法25条)。
いわゆる『避難指示』『避難命令』と言われるものです。
ただし,この避難のための立退指示については,違反についての罰則規定がありません(地すべり等防止法52条〜の罰則規定に該当がない)。
4 地すべりの危険がある地域の土地所有者を強制的に排除できない
結局,地すべりの危険がある場所の土地所有者がその場所から離れない場合の問題が残ります。
政府や都道府県として強制的に退去させる,排除するという法的手段がないのです。
罰則を課する,という間接的な強制的な手段もないのです。
これは,私有財産制の尊重が立法上の設定に反映されていると言えましょう。
資本主義,自由市場経済という近代国家の根本的なメカニズムの根幹が私有財産制なのです。
私有財産制は,743年発布の墾田永年私財法に始まり,現在の日本国憲法29条に至るまで尊重されているのです。
また,個人主義,自己決定権の尊重という考えも関係していると言えましょう。