早稲田大学が小保方氏に『猶予付き博士学位取消』の決定|STAP問題関連

1 学位取消処分結果は『当たり障りない』と言えるが細かい疑問がいろいろと
2 調査委員会の報告書との関係
3 論文提出『締め切り』規定との整合性
4 他の『取消』を受けた元学生との整合性
5 学校自体の責任
6 『卒業してない夢』/シュレーディンガーの猫
7 派生論点|理研の『有期雇用』への影響
8 予備論点|博論審査についての司法審査の可否
9 予備論点|処分公表のタイミング・早大生による不当SNS投稿リスク

※このテーマで取材受けました。
外部サイト|小保方さんは『シュレーディンガーの猫』状態?早大理工卒弁護士が『猶予処分』を分析|弁護士ドットコムニュース

1 学位取消処分結果は『当たり障りない』と言えるが細かい疑問がいろいろと

STAP疑惑の『派生論点』として,小保方氏の過去の博士論文の『不正』が問題となっています。
平成26年10月7日に,早稲田大学から処分内容が発表されました。

<小保方氏の博士学位取消に関する処分結果|概要>

博士学位を取り消す
ただし,約1年間の猶予期間を設け,博士論文訂正・研究倫理教育を受ける機会をつくる
そして,博士論文としてふさわしいものになったと判断した場合は,博士学位を維持(取消を撤回)する

要するに,『学位取消』と『学位維持』の中間的なものです。

この点,先行する調査委員会の見解は『不正に該当しない』というものでした(後記『2』)。
この見解は公表以降,批判がとても強かったです。
さすがに早稲田大学としては,『不正に該当しない』という見解には乗らなかった,ということです。

『明らかにおかしい』という判断は避けた,と言えると思います。
簡単に言えば,『中間的』だから妥当,という意味です。
一方で,『明確・最終的判断を逃げた(後回しにした)安直なもの』とも言えます。
いくつかの角度から,この判断について検討します。

2 調査委員会の報告書との関係

(1)調査報告書はあくまでも参考であり,大学の判断ではなかった

平成26年7月17日に,『調査委員会』による調査結果として『学位取消』には該当しない,という報告書が作成(公表)されました。

<調査委員会による調査結果|平成26年7月17日|大学の判断に先行

あ 調査主体

大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会

い 概要

問題箇所があり,本来『博士学位が授与されることは到底考えられなかった』
しかし,草稿を取り違えて提出した,などの事情から『不正の方法』ではない
→学位取消に該当しない
外部サイト|調査報告書

この調査報告書では『学位取消に該当しない』です。
一方,平成26年10月8日発表の早稲田大学の判断としては,猶予付きながら,『学位取消に該当』というものです。
誤解が多いところですが,調査報告書はあくまでも参考,という位置付けなのです。
早稲田大学が,調査を『外注』→外部の調査委員会としての見解,というものだったのです。

(2)事実上の世論ヒアリングとなった

7月の調査報告書の公表以降,大学本体としての検討を進めていました。
要するに,『事前調査』+『最終判断』という2段構えで,より慎重・詳細に検討・判断する,という趣旨です。
しかし,インターネットの普及・情報流通の民主化が進んだ現在において,事実上の『世論ヒアリング』という様相を呈していました。
多くのサイエンティスト・研究者がいろいろな形で意見を表明されていました。

<調査委員会の調査結果に対する意見表明|例>

あ 公式な意見表明

『小保方晴子氏の博士学位論文に対する調査報告書』に対する 早稲田大学大学院 先進理工学研究科 教員有志の所見
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 有志一同
外部サイト|早稲田大学大学院 先進理工学研究科 教員有志の所見

い SNSなどのインターネット上の情報発信

いずれも,報道され,話題になる,ということもありました。
また,ある研究者の態度が『調査結果に対する抗議』かどうか,自体が話題となることもありました。
大きな傾向としては,調査に対する賛同もありましたが,特に結果部分については疑問視・否定するものが多かったと見受けられます。
このような『世論』が,早稲田大学の判断として影響を受けていることは十分に考えられます(後記『8』)。

関連コンテンツ|小保方氏博士論文・学位取消回避のアクロバティック理論|STAP問題関連

3 論文提出『締め切り』規定との整合性

学位論文は『締め切り』が非常に厳格です。
ところが,このたびの早稲田大学の判断は,『間違えたバージョンを提出してしまった。差し替え版を後日出します』というものです。
実情からズレている感があります。

<学位論文提出の実情>

あ 提出締め切りの『あるある』

提出日の前日には徹夜で印刷・製本作業を行ない,提出時刻ギリギリに学生がたくさん事務局(提出窓口)に押し寄せる,という風景
この期限後になると,受け付けてもらえないのです。
学生があたふたする風景は毎年見られる恒例行事です。

い 退学後に博士論文を提出するルール

『退学時から3年以内+大学側の許可』という制限
このルールは早稲田大学の公式規則です。
『成果』を出すまでに『満期』が到来→退学→その後に博士論文を提出する,という方式について明文化されています。
※『満期退学』というのもので博士課程では生じうる場合のことです。

<早稲田大学大学院学則|退学後の博論提出ルール>

博士論文を提出しないで退学した者のうち、博士後期課程の場合は3年以上、一貫制博士課程の場合は5年以上在学し、かつ、必要な研究指導を受けた者は、退学した日から起算して3年以内に限り、当該研究科運営委員会等の許可を得て、博士論文を提出し、試験を受けることができる。
※早稲田大学大学院学則14条5項
外部サイト|早稲田大学大学院学則

4 他の『取消』を受けた元学生との整合性

早稲田大学が博士論文の『不正』を理由に,『博士の学位を取り消した』事例は過去にもあります。

<平成25年の早稲田大学博士学位取消事例>

平成25年10月21日
博士論文で不適切な引用→『不正の方法』(による学位授与)に該当→取り消す決定
学部等=政治経済>大学院公共経営研究科
外部サイト|早稲田大学|博士学位取り消しについて

もちろん,小保方氏の件とは違う事情もあります。
一方,共通する要素も多いです。
この件との整合性,要するに『違いの特定』についても明確化することが望まれます。
規定の適用の『公平性』=『再現性』も重要です。

5 学校自体の責任

今回の決定では,論文提出者(小保方氏)だけではなく,一定の指導担当者・選任権限者(責任者)が一定の不利益処分(任意を含む)の対象とされています。
大学自体の責任についても明確にすべきである,という見解もあります。

6 『卒業してない夢』/シュレーディンガーの猫

博士学位取消,という結論に『猶予』が付いていることはイレギュラーです。
『間を取った』的な当たり障りない=妥当,という,賛同的評価も多いです。
一方で,『学位の有無』という客観的に過去に決まっているはずのものが,『今後のアクションで変わる』と言える状態です。
量子力学で提唱されている不可思議な『シュレーディンガーの猫』というテーマと似ています。
(複数の状態が『重なり合って存在する』という問題点;コペンハーゲン解釈)
『まだ卒業していなかった』という悪夢で目覚める現象は多くの方が経験することですが,この不安な状態がまだ続いている,ということになっているのです。

外部サイト|シュレーディンガーの猫|Wikipedia

7 派生論点|理研の『有期雇用』への影響

仮に『博士学位取消』となるとした場合,派生する論点もあります。

<博士学位取消→派生論点>

あ 理研の有期雇用の有効性
い 理研の『採用』との不整合

(1)理研の有期雇用の有効性

小保方氏は理研で『5年間の有期雇用』という状態のようです。
この点,『有期雇用』については,厳格なルールがいくつかあります。
『上限は3年。ただし,専門的職種は5年でも良い』というものです。
専門的職種の1つとして『博士学位保持者』が指定されています。
仮に,『博士学位なし』となった場合,『5年の有期雇用』は労働基準法に違反します。
なお,このような場合は通常,『期間の定めなし(無期)の雇用と解釈する』ということになります。

別項目|専門的職種は有期労働契約の上限が『5年』と長めになる

(2)理研の『採用』との不整合

そもそも理研が採用し,ユニットリーダーという高い地位を与えたのは『博士の学位』が大前提です。
事後的に『実は博士学位なし』ということになると,『本来採用しなかったはず』ということになります。
これについては,学位取消の効果が『学位授与時にさかのぼる』のかどうか,ということと関係してきます。
前述の『シュレーディンガーの猫』の問題とも重複します。
『採用時には学位あり/なしが重なり合った状態』とも言えるからです。
いずれにしても,法的な解釈として統一的なものはありません。

8 予備論点|博論審査についての司法審査の可否

仮に,最終的に大学が『博士学位取消』という決定を行った場合,小保方氏が承服しない→対立へ,ということが考えられます。
具体的には,『博士学位取消』の取消を求める訴訟,ということになります。
この点,判例では,『学位授与』『論文の評価』については,大学の自治・学問の自由という観点から『大学に広い裁量』が認められています。
要するに,裁判所は大学の判断に介入することは原則的にNG,とされているのです。
ですから,大学としては,『事後的に裁判所に判断が覆されること』よりも『世論』(→評判・評価→学生『集客』・公的助成)の方に考慮の比重を置くことになりましょう。

<大学の考慮の比重>

次の『あ』<『い』

あ 司法判断

事後的に裁判所に判断を覆されるリスク

い 世論

世論(評判・評価)
↓影響
・学生『集客』
・公的助成

別項目|博士号等の認定における論文内容の判断は司法審査の対象外とされる

9 予備論点|処分公表のタイミング・早大生による不当SNS投稿リスク

確実性(信ぴょう性)はともかく,今回の公表のタイミングについて次のような考察がなされています。

(1)青色ダイオード発明に対するノーベル賞受賞

このノーベル賞受賞のニュースと小保方氏の処分結果公表が同じ日でした。
ノーベル賞に関して,日本のサイエンスの教育システムや産業の特徴(特許法の規律)についても大きく話題となりました。
大きなニュースに隠れた,というよりも,コントラストを感じる組み合わせでした。

(2)早稲田大学の学園祭の直近

早稲田大学では毎年学園祭が開催されます。
(開催中止で問題となったテーマは別論点)
なお,理工学部については,『理工展』という名称でサイエンス関係の展示が行なわれています。
小保方氏の出身である『応用化学科』では『有機化合物』に関する実験などが例年行なわれています。

ところで,小保方氏は博士論文の再度の作成,一定の教育,のために,早稲田大学に戻ることとされています。
話題性が高まり,『理工展』への訪問客が例年よりも増加すると想定されます。

なお,現在では,特に学生にはSNSが普及しています。
早稲田理工の学生が小保方氏を撮影→SNS投稿,ということも予測(心配)されます。
学生の方には肖像権・プライバシー権をよく理解することを望みます。

外部サイト|理工展〜早稲田理工の学園祭〜
別項目|人物の撮影→公表は肖像権侵害になる
詳しくはこちら|違法な表現行為|基本|損害賠償・差止・削除請求・謝罪広告・違法性阻却
詳しくはこちら|違法な表現行為×刑事責任|名誉棄損罪・侮辱罪・信用毀損罪|違法性阻却
詳しくはこちら|学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|本当にねつ造していた→違法性なし

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