女性の社会進出・活躍を実現・促進|法律・判例で歴史をたどる

1 女性の社会進出→男女差別の排除へ
2 差別排除のために政府が介入→バランスを欠くとマーケットに歪み=逆効果
3 『職場以外では男性が弱い』と分析した『幸せの青い鳥』判決

1 女性の社会進出→男女差別の排除へ

近年は男女等しく,社会で活躍する機会が拡がっています。
平等というのは必須・当然のことですが,10年単位で時代をさかのぼると異様な世界が拡がっています。
この『歴史』を,法律・判例からたどってみたいと思います。
酒場トークのようですが,現行制度の改良を考えるタネも含まれていると思います。

(1)女性の社会進出・活躍へ

<法律・判例から概観する女性の社会進出>

あ 昭和20年(太平洋戦争終戦)

改正衆議院議員選挙法公布
女性の参政権が初めて認められた
選挙権=『20歳以上の男女』

い 〜昭和40年代頃

女性が働くことは想定されない社会(判例※1)

う 昭和40年代頃

3種の神器が普及する(判例※2)
ア 電気炊飯器イ 洗濯機ウ 掃除機 ※他に『白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫』という見解(定義)もある

え 昭和50年代頃〜

『妻』に時間的余裕ができる

ア 働き始めるイ 家庭の役割に変化発生(判例※3)ウ 児童虐待との相関関係(後述)
女性の社会進出が進む

お 昭和60年頃〜現在

社会における男女差別問題
昭和60年;男女雇用機会均等法公布
パワハラ・セクハラ・マタハラの社会問題化
平成26年10月23日;『マタハラ』(妊娠を起因とする降格)を違法とする最高裁判決

(2)『時代の変化』の指標となる判例

<昭和40年代|女性は働かない(上記※1)>

『近時結婚前の女性が就職する事例が,以前より増加しつつある傾向は否定できないけれども,これが結婚前の女性の大部分の通例といえるかどうかは疑問であり,前記控訴本人の供述によって窺われる家庭状況よりすれば,いわゆる花嫁修業の途を選ぶことも十分予想されるのであって,就職の蓋然性は肯定できないものといわねばらなない。』
大阪高裁昭和40年10月26日;下民集16巻10号p1636

<昭和40年代頃|3種の神器が普及(上記※2)>

『従来,主婦の持つ家事労働はきついものであった。
しかし,昭和三〇年代後半から昭和四〇年代にかけて,電気炊飯器とか,洗濯機,掃除機などの家庭電気製品などいわゆる家庭における三種の神器が一般家庭に入り込み,主婦は過酷な家事労働から解放されたと言われている。余暇ができた時人々は考える。殊に,女性は夫や子供達とのこれまでの来し方を振り返り,反省し,将来の自由な世界を夢見る。熟年離婚などはその現代的傾向と見られる。』
名古屋地裁岡崎支部平成3年9月20日

<昭和50年代頃〜|家庭の役割に変化発生(上記※3)>

『家庭は,もといろいろな機能を果たしてきた。生殖は勿論,生産も教育も娯楽も全て人々は家庭に求め,そうすることで落ち着きを感じとってきた。安楽の地が家庭であり,人々は家庭に安住しているだけで充分生活していけた。

 しかし,現在(略),家庭は生殖と睡眠とかいった数少ない機能しか果たしていない。(略)人々は休息の場さえ奪われ兼ねない。家庭は構造的にも夫婦と未成年の子で構成されるようになり,いわゆる核家族化される傾向にあり(略)
名古屋地裁岡崎支部平成3年9月20日

なお,上記名古屋地裁岡崎支部の判例は,『家庭・夫婦のあり方』を哲学的に分析し,『幸せの青い鳥を探すチャンス』を与えるために離婚請求を棄却したという珍しいものです。
改めて説明します(後記『3』)。

(3)『時間的余裕』と児童虐待の相関関係

妻の『時間的余裕』による影響は,多くの社会学者や公的機関などで研究が進んでいます。
『時間的余裕』と児童虐待(件数)に相関関係がある,という説も存在します。
この点,刑事裁判において,被告人の幼少期の親との関わり・過酷な『しつけ』が指摘されることもよくあります。

<刑事事件で『しつけ』が話題となった件>

あ 『酒鬼薔薇聖斗』事件

平成9年神戸家裁

い 秋葉原通り魔事件

平成24年東京高裁(上告審係属中)

現在の主な研究では『時間的余裕』については児童虐待の要因として特に挙げられていません。

『相関関係』に過ぎず,『因果関係』とは言えないと思われます。

2 差別排除のために政府が介入→バランスを欠くとマーケットに歪み=逆効果

法律の中には,政策的に『弱者を保護』するものがあります。
このような規制一般に共通する『逆転現象』があります。

<『過保護はためならず』法則>

あ 規制で保護を強める→マーケットで不利になる

『拘束』を逃れるには『契約関係に入らない』

い 特にグローバル化によりこの現象は強まる

『海外=日本の法律が及ばない』との取引が可能→日本での取引を避ける傾向

具体的な現象を挙げます。

< 『保護される側』が『保護』を嫌がる現象>

あ 『保護強化』イベント

ア 産休期間を長期化する法案イ マタハラに対する企業側の違法を認める判例

い 『保護強化』イベントに反対する人々

働く女性が『反対』を唱える,という状況がみられた
特に『就職活動中』の女子学生

う 『反対』の理由

企業側が採用・昇格の判断の際に『女性を不利に扱う』傾向が生じる

上記のとおり,この法則は,マーケット(市場)が形成されている『取引』に共通しています。
商品・サービス市場,労働市場,恋愛(結婚)市場などです。
マーケットはもともと『自動的な最適化機能』が備わっています(神の見えざる手)。
マーケットへの『人為的・政策的介入』は『最適化』を補強することもあれば,害することもあります。
規制の設計における難しい問題です。

3 『職場以外では男性が弱い』と分析した『幸せの青い鳥』判決

『社会の変化を示す判例』という意味では『幸せの青い鳥判決』が有名なものです。
概要をまとめます。

<幸せの青い鳥判決の概要|昭和40年頃の世相

あ 『家庭』の存在意義の変化

『家庭の社会的意義』=利害を離れた『安楽の地』;情緒的・牧歌的原理
↓変化の傾向
生殖・睡眠の機能以外が『家庭外』に移りつつある

い 『妻』の立場の変化;テクノロジーの影響

昭和30年代後半〜昭和40年代
3種の神器普及

『妻』は過酷な家事労働から解放された

女性は余暇で『将来の自由な世界』を夢見る

う 『夫』の立場の変化

男性は家計維持のために『利害の世界』で生きてきた
『安楽の地』との切り替えが不得手
家計維持のために働いた+『厨房に入ったことがない』→『身の回りのことができない』状態
妻のサポートが必要な状態(←裁判所の判断=離婚を認めない理由)

え 事案における夫婦の意向
被告 妻に戻ってきて欲しいと切望
原告 離婚を希望(請求)
お 裁判所が『幸せの青い鳥』を語る

『原告と被告,殊に被告に対して最後の機会を与え,二人して何処を探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべく,じっくり腰を据えて真剣に気長に話し合うよう,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認め,本訴離婚の請求を棄却する次第である。』
※民法770条2項の『裁量棄却』
※名古屋地裁岡崎支部平成3年9月20日

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