【弁護士が『係争物を譲り受ける』のは原則禁止・特殊事情で適法】
1 弁護士は通常『代理人』だが『弁護士自身による権利行使』もある
2 『弁護士自身の紛争介入』と言える手法は原則的に違法となる
3 係争物の譲受→違法|報酬として弁護士が共有持分を受け取った
4 係争物の譲受→違法|手形の隠れた取立委任
5 係争物の譲受→違法|抵当権付債権の譲り受け
6 暴力団員が不法占拠する建物を弁護士自身が落札→例外的に適法
7 任意整理の一環としての信託的な譲受→例外的に適法
8 強制執行対抗策としての信託→例外的に適法
9 弁護士法28条違反の行為は『私法上』は有効である
1 弁護士は通常『代理人』だが『弁護士自身による権利行使』もある
弁護士が受任業務を進めるにあたってあらゆる方策を検討し『ベスト』な方法を極めます。
大原則は『代理人としてアクションを行う』というものです。
しかし『奥の手』の発想もあります。
<紛争解決の変則手段|係争物の譲受>
弁護士自身が『係争物』を買い取る
弁護士自身が訴訟・交渉などを行う
典型例をまとめます。
<典型的な『係争物の譲受』>
土地所有者が借地に対して明渡請求訴訟を提起した
途中で土地所有者は『早く換金したい』と希望した
そこで訴訟を遂行していた弁護士自身が当該土地を買い取った
その後は弁護士自身が原告を承継し,訴訟を継続した
2 『弁護士自身の紛争介入』と言える手法は原則的に違法となる
ルール上『弁護士自身の紛争介入』は原則として禁止されています。
<係争物の譲受の禁止ルール>
弁護士は『係争権利』『係争の目的物』を譲り受けることはできない
※弁護士法28条,弁護士職務基本規程17条
規定はシンプルなのですが,個別的事情・特殊性によって扱いが違ってきます。
具体的に問題となったケースを次に紹介します。
3 係争物の譲受→違法|報酬として弁護士が共有持分を受け取った
一般論として弁護士が報酬として『金銭以外』を受け取る例はあります。
バブル期に『土地をもらった』という武勇伝は多くあるようです。
それ自体は違法ではないです。
ただ,受け取ったモノが『紛争性』のものであると違法となります。
<報酬として不動産の共有持分を受け取った→違法>
遺産分割調停の依頼の報酬として『対象の土地の持分20分の1』を弁護士が受け取った
代物弁済を原因とする移転登記を行った
↓
違法である
『戒告』の処分
※平成8年5月31日弁護士懲戒議決
これはまさに譲り受けた『共有持分』が,リアルタイムで『遺産分割調停』の対象でした。
つまり,争いのどまんなかにあったのです。
事情によっては共有持分の譲受自体が違法とならないこともあります。
4 係争物の譲受→違法|手形の隠れた取立委任
手形債権の回収のために『形式的な譲受(裏書)』を行う方法があります。
弁護士が譲り受けを受けたケースについて違法とした判例があります。
<取立のための手形の譲渡→違法>
手形の隠れた取立委任
↓
違法である=弁護士法28条違反
※東京地裁昭和28年8月22日
5 係争物の譲受→違法|抵当権付債権の譲り受け
債権回収のために,弁護士自身が債権を譲り受ける,という判例を続けて紹介します。
<抵当権付債権の譲受→違法>
弁護士が抵当権付債権を譲り受けた
目的=抵当権の実行
↓
違法である=弁護士法28条違反
※福岡高裁昭和34年3月27日
6 暴力団員が不法占拠する建物を弁護士自身が落札→例外的に適法
形式的には『係争物の譲受』に該当しても,個別的事情によっては判断が異なります。
特殊な事情がある場合は『適法』となることもあります。
ここからは『適法』と判断される解釈論を紹介します。
<暴力団員が不法占拠する建物を弁護士自身が落札→適法>
あ 事案
暴力団員が不法に占拠する建物を弁護士が落札した
目的=その後に暴力団員を排除する活動をする
い 評価
市民の平穏な生活を確保する目的である
排除後に弁護士が当該活動の転売等で不当に利益を得る目的もない
う 弁護士会の判断(解釈論)
違法性なし
※『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣p69
※自由と正義vol56臨時増刊号『解説弁護士職務基本規程』p24
※『解説弁護士職務基本規程 第2版』日本弁護士連合会弁護士倫理委員会p32
7 任意整理の一環としての信託的な譲受→例外的に適法
形式的には『譲受』であっても『保管・保全』という趣旨のケースです。
<任意整理の一環としての信託的な譲受→適法>
あ 事案
倒産会社の財産を弁護士が信託的に譲り受ける行為
譲り受ける財産=不動産・売掛債権など
目的=倒産処理(任意整理)の過程で,財産の散逸を防止し,倒産処理を円滑に遂行させる
い 解釈論
違法性なし
※解説『弁護士職務基本規程』自由と正義vol56p25
8 強制執行対抗策としての信託→例外的に適法
不動産の譲受について,弁護士会が『適法』と判断したケースです。
<強制執行対抗策としての信託→適法>
あ 事案
弁護士が不動産の信託を受けた
売買予約を登記原因とする所有権移転仮登記をした
目的=債権者からの強制執行に対抗する
い 弁護士会の判断
違法性なし
『品位を失うべき非行』には該当しない
※平成15年8月20日弁護士懲戒議決
9 弁護士法28条違反の行為は『私法上』は有効である
『係争物の譲受』として弁護士法違反となった場合に,『譲受の効果』が問題となります。
弁護士法違反の直接の効果は弁護士への懲役や弁護士会の懲戒処分というペナルティです。
『譲渡』自体が有効か無効か,という『私法上の効果』については規定上記載がありません。
これについての判例があります。
<弁護士法28条違反×私法上の効果>
弁護士法28条違反の行為
→私法上は有効である
※最高裁平成21年8月12日
『ペナルティ』と『私法上の効果』を『別問題』と捉えることになっているのです。
<参考情報>
『弁護士倫理の理論と実務』日本加除出版p36〜