【確定判決を超える内容の合意書に調印させたことによる弁護士懲戒事例】
1 確定判決を超える内容の合意書の作成による弁護士懲戒事例
2 訴訟と和解の遂行と終了
3 合意書の作成と調印
4 合意書内容の履行を求める訴訟の提起
5 弁護士会の判断
6 出典・参考情報
1 確定判決を超える内容の合意書の作成による弁護士懲戒事例
弁護士が依頼者にとって有利過ぎる結果を獲得したことで,弁護士が懲戒となることもあります。
本記事では,判決が確定した後に,判決の内容を超える合意書を作成して相手方に調印させたために弁護士が懲戒処分を受けた事例を紹介します。
2 訴訟と和解の遂行と終了
この事案では,弁護士が相続後の遺産に関する紛争の解決を受任しました。
損害賠償請求訴訟と遺産分割の調停を行い,それぞれが判決・調停成立で終了しました。
<訴訟と和解の遂行と終了>
あ 遺産の無断処分に関する訴訟
相続人の1人Bが,遺産の一部を無断で処分した
他の相続人Aが弁護士Yに依頼した
弁護士YはBを被告とする損害賠償請求訴訟を提起した
Bの賠償責任を認める判決が言い渡され,確定した
い 遺産分割調停
遺産である不動産・転換社債の存在が発覚した
弁護士Yは,Aの代理人として,遺産分割調停を申し立てた
共有分割とする+清算条項,という内容の調停が成立した(※1)
3 合意書の作成と調印
前記の訴訟と調停が終了した後に,実際の支払方法について合意書を調印することとなりました。
弁護士は,確定判決や成立した調停よりも相手に不利な内容の合意書を作成しました。
相手方はこのことを知らずに調印に応じてしまいました。
<合意書の作成と調印>
あ 合意書の起案
弁護士Yが相手方B(本人)と調印するための合意書を起案(作成)した
合意書の内容には,確定判決の内容を超える支払義務をBが負担するもの(い)が含まれていた
い 合意書の中の超過義務(※2)
遅延損害金の発生日について次のような違いがあった
実際=訴状送達日の翌日
書面上=相続開始日の翌日
う 合意書の調印
弁護士YがB本人に,合意書への署名をさせた
この際,弁護士YはB本人に,そのような内容である旨を明示して説明しなかった
B本人は,この書面の内容が確定判決と同一であると信頼していた
4 合意書内容の履行を求める訴訟の提起
合意書の調印後,相手方は確定判決や調停の内容とは違うことに気づきました。
当然,合意書の内容どおりに支払うことは拒否しました。
すると,弁護士は支払を求める訴訟を提起しました。
<合意書内容の履行を求める訴訟の提起>
あ 訴訟の提起
Bが確定判決の内容を超える遅延損害金の支払を拒否した
弁護士Yは,Aの代理人として訴訟を提起した
い 請求内容
ア 合意書の記載内容どおりの請求
確定判決の内容を超えるものである(前記※2)
イ 転換社債の引渡に関する遅延損害金の請求
調停条項の清算条項(前記※1)に反するといえる
5 弁護士会の判断
以上の弁護士の行為について,弁護士会は戒告の懲戒処分としました。
合意書の調印のプロセスについて,相手方の誤解を招くものでありアンフェアであるという判断です。
弁護士が依頼者に最も有利な結果を獲得するのは使命ですが,限界があるということです。
<弁護士会の判断>
あ 懲戒処分
戒告とする
い 理由
相手方に対する信義に従った職務・信用維持の規定に反する
※弁護士職務基本規程5条
6 出典・参考情報
本記事で紹介した事案の情報ソースをまとめておきます。
<出典・参考情報>
※森際康友著『法曹の倫理 第2版』名古屋大学出版会2011年p129
※山梨県弁護士会編『ケーススタディ弁護過誤』山梨県弁護士会2008年p158,159