【弁護士が意図的orミスにより交渉相手を騙したケース(弁護士の懲戒)】
1 意図的orミスにより交渉相手を騙した弁護士(弁護士の懲戒)
2 保証意思なしでの保証書の作成・交付(戒告)
3 依頼者の売却意思確認不足と代金の受領(業務停止6か月)
1 意図的orミスにより交渉相手を騙した弁護士(弁護士の懲戒)
弁護士業務では,依頼者の有利な結果を得るためにさまざまな方策を考え,実行します。
だからといって,交渉の相手方を騙すようなことは適法の範囲を超えてしまいます。
本記事では,弁護士が,意図的あるいはミスによって,交渉相手を騙したケースを紹介します。
2 保証意思なしでの保証書の作成・交付(戒告)
債務者の代理人となった弁護士のケースです。
債務者としては,なんとか抵当権を持つ債権者(抵当権者)に抵当権を外して欲しいと思っていました。
そこで弁護士は相手(債権者)に対して,弁護士自身が返済を保証する趣旨のことを説明し,そのような内容の合意書を作りました。抵当権の抹消に応じれば合意書を渡すと提案しました。
相手は,弁護士が保証するといって,しかも書面にしてくれているので,応じたほうが返済につながると思いました。そこで抵当権の抹消に応じました。
しかし,弁護士は保証する意図もなく,また,債務者自身に返済させるつもりもありませんでした。要するに交渉相手を騙して抵当権抹消に応じさせたのです。
この弁護士は戒告の懲戒処分を受けました。
<保証意思なしでの保証書の作成・交付(戒告)>
あ 弁護士が保証する書面の作成
債務者・抵当権設定者が弁護士Yに依頼した
弁護士Yは債権者に『一定期限までに債務者が弁済する,Yがこの弁済について責任をもって確約する』旨の『保証書』と題する書面を調印した
い 保証書交付と抵当権抹消の引き換え
債権者は,『保証書』の受領と引き換えに,抵当権登記抹消に要する書類をYに渡した
債権者は,この方法が債権回収につがなると考えたのである
う 保証意思なし
しかしYには債務者による履行を確約する意思・保証意思がなかった
え 弁護士会の判断
弁護士職務基本規程5条に違反する
弁護士の品位を失うべき非行に該当する
→戒告とする
※『自由と正義68巻1号』日本弁護士連合会2017年1月p106
この懲戒処分の中では触れられていませんが,もともと,弁護士が依頼者の負う債務の保証をすること自体が禁じられています。
詳しくはこちら|弁護士と依頼者との金銭貸借・保証は原則禁止(基本規程25条)
3 依頼者の売却意思確認不足と代金の受領(業務停止6か月)
次のケースは,弁護士が意図的ではないけれどミスによって交渉相手を騙してしまったというものです。
土地などの資産を売却を弁護士は受任しました(と思っていました)。
弁護士は資産の売却に向けた活動を行い,購入を希望する者に売却することにしました。買主は約2億6000万円の代金の内金を弁護士に支払いました。
その後,依頼者は売却するつもりではないと表明しました。ところで,受任の段階で弁護士は売却の委任状などの調印を済ませていませんでした。
要するに,(少なくとも記録上は)依頼の内容(趣旨)があいまいな状態だったのです。
結果的に買主を騙すことになったので,この弁護士は業務停止6か月の懲戒処分を受けました。
<依頼者の売却意思確認不足と代金の受領(業務停止6か月)>
あ 売却の代理業務の遂行
土地などの資産の売却交渉を弁護士Yが受任し遂行していた
弁護士Yは売主代理人として,買主から,売却代金の内金として2億6030万円を受領した
い 依頼者の売却意思の不足
しかし,弁護士Yは依頼者(売主)から委任状などを受領していなかった
最終的に売却は実現しなくなった
う 弁護士会の判断
(他にも懲戒事由に該当する事実はあった)
弁護士の品位を失うべき非行に該当する
→業務停止6か月とする
※『自由と正義68巻1号』日本弁護士連合会2017年1月p109,110