【法律調査の具体的内容×信用性・再現可能性|サイエンスとの違い】
1 一般的な法律調査の方法|全体像
2 法律解釈における再現可能性|裁判所の序列・著者の権威が影響する
3 再現可能性|自然科学vs法解釈論|ある意味逆と言える
1 一般的な法律調査の方法|全体像
法律調査の完成度によって『予測や主張の精度』が決定的に違ってきます。
ここでは,実際に実務で行っている『法律調査の内容』を説明します。
まずは『全体的な作業・流れ』をまとめます。
<一般的な法律調査の方法|全体像>
あ グーグル検索→Web上の情報把握
一番最初に『あたりを付ける』という趣旨で行うことがある
Web上の記事に,裁判例や文献が紹介されている場合がある
→トータル調査時間の短縮・重要部分の調査に十分な時間を充てる
当然,この段階では『信用性の把握』が不十分である
い オリジナル情報の獲得
『信用度レヴェル』が高いものを中心に『オリジナル』にあたる
良質の情報が多い書籍は事務所で保有している
弁護士会の図書館は蔵書数が多いので利用することが多い
判例・書籍をインターネット上で閲覧できるサービスも活用している
う 規範定立
適切な範囲の『オリジナル』情報を把握する
→共通している内容を抽出する
マイナーな論点だと『共通点抽出』が難しい
趣旨から考える部分が多くなる
え 具体的事案にあてはめる(法律調査の範囲外)
『規範・基準』が分かる
→具体的事案における法解釈・適用の可能性判断ができる
→法的結果の予想ができるようになる
このように多くのプロセスがあります。
素朴なちょっとした疑問の解消でも数時間を要することがよくあります。
『信用性』を高めるためには多くの時間を要するのです。
重要な『信用性』は『再現可能性』とも言えるものです。
具体的な内容については次にまとめます。
2 法律解釈における再現可能性|裁判所の序列・著者の権威が影響する
法律解釈における信用性・再現可能性の程度は次のように整理できます。
<法律解釈における再現可能性>
あ 裁判例
ア 最高裁→高裁→地裁 この順で信用性(再現可能性)が下がる
い 学説・文献
著者の権威によって信用性(再現可能性)が下がる
3 再現可能性|自然科学vs法解釈論|ある意味逆と言える
『著者・提唱者の権威で信用性が決まる』というのは一見違和感があります。
サイエンス(自然科学)の世界ではあり得ないものです。
ところが法律実務の解釈論では『あり得る』のです。
この根本的な構造の違いを整理します。
<再現可能性|自然科学vs法解釈論>
あ 自然科学(サイエンス)における再現可能性
『自然現象』の法則・仮説
→提唱者の権威・著名度は『再現可能性』とは関係ない
い 法律解釈における再現可能性
実際の案件に関して『裁判所がその見解(解釈論)を採用する可能性』
=『裁判官の判断=人為的な判断』の内容
→提唱者の権威・著名度が直接的に影響する
う 法律解釈の再現可能性|自然科学との違い
法解釈の安定性が要請される
=日常生活・事業活動における『予測可能性・公平性』の維持
法解釈は『人為的なルール』『妥当性を人間が考える』という基本的構造があるのです。
例えば物理的な法則は,特定の人間が判断・決定することはできません。
サイエンスの世界から考えると法解釈論は非常に違和感があります。
しかしこれを理解した上で個別案件の最適戦略を極めるのが法律家の使命と考えます。