【離婚とペットの奪い合い|引き取り手≒親権者の判断|内縁解消・同棲解消でも同様】
1 ペットは法律上『動産』→親権・養育費の対象外|アンドロイドも同様
2 財産分与における『ペットの引き取り手』の判断
3 財産分与における『ペットの評価額』|条件交渉の一環となる
4 同棲→解消における『ペットの引き取り手』の判断
5 離婚後の『ペットとの面会交流』の権利・手続はない
6 ペットの押し付け合い→遺棄・虐待も犯罪
1 ペットは法律上『動産』→親権・養育費の対象外|アンドロイドも同様
(1)『人間の子供』は親権・養育費などのルールがある
離婚の際に,夫婦で飼っていたペットを『どちらが引き取るか』という問題が生じることがあります。
『子供の引き取り』つまり『親権』や『養育費』というテーマと似ています。
『人間の子供』については,『親子』に関する民法上のルールが整備されています。
両親の離婚の際には『親権者』『養育費』を決めることになっています(民法819条1項)。
(2)ペットは『動産』→親権・養育費のルールの対象外
しかし,ペットは法律上『動産』つまり『物』扱いなのです。
『物』のうち『不動産』以外を『動産』としているのです(民法86条2項)。
『動産』の定義は,生物かどうか,愛情の対象かどうか,ということとは別なのです。
法律上の分類・定義はそっけないのです。
逆に,『動産』である機械が高度化して,最近ではアンドロイド(人間型ロボット)の開発が進んでいます。
また『ペット(動物)型ロボット』も登場しています。
しかし,このような『感情移入』を前提としたロボットでも,やはり法律上は『動産』です。
(3)ペットの『引き取り手』問題は『財産分与』である
ペットを『動産』と同じように扱う,ということは正確には『夫婦共有財産』ということです。
離婚の際に『財産分与』としてどちらが引き取るかを決める,ということです。
不動産・預貯金などの財産と同様に,夫婦間の協議または家庭裁判所の審判で決められるのです。
なお,以上は『夫婦で買った・拾った→夫婦で飼っていた』という場合が前提です。
仮に,夫婦のいずれかが結婚前に単独で飼っていた,という場合は『特有財産』となります。
元々の飼い主が単独で『所有』している→財産分与の対象とはならない,ということになります。
2 財産分与における『ペットの引き取り手』の判断
離婚する夫婦のいずれもがペットを譲らず,最終的に裁判所が『引き取り手を判定する』ということもあります。
その判断基準としては,法律上『一切の事情を考慮』とだけ記載され,裁判所に大きな裁量が認められています(民法768条3項)
具体的な引き取り手の判断の要素をまとめました。
<引き取り手の判断要素>
あ 飼育状況
ペットの世話に関与している程度
い ペットとの触れ合い
どちらになついているか
う 今後の共生環境(飼育状況)・ペットの福祉
ペットの生活に影響を生じる事情
ア 離婚後に住む家・その周辺の環境イ 引き取り手の経済力ウ 引き取り手がペットとのコミュニケーションに当てられる時間
3 財産分与における『ペットの評価額』|条件交渉の一環となる
(1)ペットを財産として評価することは現実には難しい
ペットを引き取った方は,財産分与としては『ペットの評価額の半分を他の財産で相手に譲る』ということになります。
ここで『価値の評価』が難しい,ということがあります。
客観的な市場での取引,となると,血統書付きの1歳未満の子でないと『評価額』が通常付きません。
夫婦が感じる『価値』とはかけ離れたものになります。
この点,明確な判例は見当たりませんが,方向性としては『夫婦にとっての貴重な気持ち』の分,評価額が上乗せされる,という判断はあります。
裁判所を通さない交渉でも,もちろん『他の財産その他の条件とペットの引き換え』という駆引きはあります。
(2)飼育費(≒養育費)は財産分与の対象外だが条件交渉の一環となる
この点,『引き取り手が出費する飼料・医療費(獣医)』などの『マイナスの側面』もあります。
これについても,理論的には引き取り手が共生することの対価,として,夫婦での清算から除外されるものです。
そうは言っても交渉においては,『引き取り手を決める際の条件の中に含める』ということはあり得ます。
もっとリアルな状況としては『引き取らなかった方』が,ペットのおもちゃ・食べ物(餌)を買って『引き取り手』を通してプレゼントする,ということもあります。
(3)内縁解消でも離婚と同じ考え方
なお,『内縁関係』の場合でも,財産分与は準用されます。
以上の内容がそのままあてはまります。
4 同棲→解消における『ペットの引き取り手』の判断
一緒に住む男女が一緒にペットを飼う,ということはよくあります。
ここで,2人の関係が『結婚や内縁』ではない,一般の『同棲』である場合はまた法的な扱いが違ってきます。
まず,2人が共同の資金で『2人で飼う』ものとして動物を買ったり拾ったりすると,ペットは2人の『共有』となります。
2人が別れることになった場合に『どちらが引き取るか』という問題になります。
法的には共有物分割という制度です。
2人の話し合いでまとまれば問題ありません。
まとまらない場合,共有物分割の調停や訴訟で結論を決めることになります。
通常は,どちらが引き取るかを判断し,その上で対価を決める,ということになります。
法的には全面的価格賠償と言います。
引き取り手はどちらかとか対価については,前述の財産分与と同様に考えることになります。
詳しくはこちら|共有物分割の手続の全体像(機能・手続の種類など)
5 離婚後の『ペットとの面会交流』の権利・手続はない
『人間の子供』であれば,離婚で一方が引き取ったとしても,その後の面会交流が権利として認められています。
詳しくはこちら|子供と親の面会交流の理論(裁判所の手続の根拠と面会交流の権利性)
ところがペットを一方が引き取ったという場合,他方がペットと『面会する権利』は理論的にはありません。
そこで,離婚時の条件の1つとしてペットとの面会の頻度・方法を決めておくとベターです。
その場合,記録にするために,離婚協議書の1つの条項としておくと良いです。
実際には,『ペットへのおもちゃ・食べ物のプレゼント』の機会を兼ねて『面会』する,ということもあります。
副作用として『ペットの面会』を介して『元夫婦』が会う→復縁する,というケースもたまに生じています。
詳しくはこちら|離婚の条件が合意に達した時点で離婚協議書の調印+離婚届提出をすると良い
6 ペットの押し付け合い→遺棄・虐待も犯罪
多くのケースの中では『ペットを押し付け合う』というひどい状況もあります。
要するに,離婚後に,両方が新たな生活環境において『ペットを飼うことができない』というようなものです。
この点,ペットの世話は人間の義務とされています。
ペットの世話が不十分となると『犯罪』となることがあります。
民法では『物扱い』だったのですが,動物愛護法では遺棄や虐待に刑事罰が規定されているのです。
参考として『人間の子』の場合の罪名も含めてまとめておきます。
<動物愛護法による遺棄・虐待に対する刑事罰>
行為 | 被害者=『愛護動物』の場合の法定刑 | 動物愛護法 | 被害者=人間の子供の場合の罪名 |
給餌・給水をしないこと | 罰金100万円以下 | 44条2項 | 保護責任者遺棄罪 |
健康・安全環境の悪い状態で拘束・衰弱させること | 罰金100万円以下 | 44条2項 | 保護責任者遺棄罪 |
飼育中に疾病・負傷→適切な保護をしないこと | 罰金100万円以下 | 44条2項 | 保護責任者遺棄罪 |
遺棄すること | 罰金100万円以下 | 44条3項 | 遺棄罪 |
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