【親権者・監護権者の変更の手続(家裁の審判・子の意見の聴取)と要件】
1 親権者・監護権者の変更の手続と要件
2 親権者・監護権者の変更の規定
3 親権者・監護権者の変更の手続の種類
4 親権者・監護権者の変更の要件
5 親権者・監護権者変更における継続性重視の傾向
6 裁判所の審理における子の意思の把握
7 面会交流妨害により親権者変更を認めた裁判例(概要)
1 親権者・監護権者の変更の手続と要件
協議離婚でも,裁判による離婚でも,離婚が成立する際に子供の親権者を定めます。
また,離婚が成立していない別居中に子供の監護権者を定めることもあります。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の手続(手続の種類や法的根拠)
いったん親権者や監護権者を決めた場合でも,その後,変更することができます。
変更するには,家裁の審判で変更するという判断をもらう必要があります。
本記事では,親権者や監護権者の変更の手続や要件について説明します。
2 親権者・監護権者の変更の規定
親権者の変更については民法上の規定があります。監護権者の変更については,離婚の際の監護に関する処分の規定を離婚前(別居中)に類推適用します。
いずれも家庭裁判所が判断することになっています。
<親権者・監護権者の変更の規定>
あ 親権者の変更の規定
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
※民法819条6項
い 監護権者の変更の規定
ア 監護に関する処分(前提)
監護について必要な事項の協議が調わない場合は家庭裁判所が定める(旨)
※民法766条1項,2項
イ 監護権者の変更
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
※民法766条3項
3 親権者・監護権者の変更の手続の種類
親権者・監護権者を変更する家裁の具体的な手続は調停と審判です。調停前置の規定は適用されませんが,実務では調停を先に申し立てることを要請されます。
<親権者・監護権者の変更の手続の種類>
あ 家事事件としての分類
親権者変更・監護権者変更は
審判事項のうち第2表事件に分類される
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)
い 手続の種類
調停と審判の対象となる
詳しくはこちら|家事手続の種類の基本(家庭裁判所の調停・審判・訴訟)
う 事実上の調停前置
調停前置の対象外である
しかし,実務上は先に調停を申し立てることを要請される
詳しくはこちら|一般的付調停|事実上の調停前置・必要的付調停との違い
4 親権者・監護権者の変更の要件
親権者や監護権者を裁判所が変更する要件について,条文上は,子の利益のために必要があるということしか規定されていません。
逆に,父と母の両方が,親権者や監護権者を変更することに合意していても,家裁が判断しない限り変更はできません。
この点,親権者や監護権者をまだ決めていない状態で初めて決める場合には父と母の合意だけで決めることができます。いったん決めた後には,変更するハードルは一気に高くなるのです。
<親権者・監護権者の変更の要件>
あ 規定の内容
『子の利益のために必要がある』場合に裁判所は親権者・監護権者を変更できる
※民法819条6項
※民法766条3項
い 合意による変更(否定)
当事者(父母)が合意しただけでは親権者・監護権者を変更することはできない
当事者の合意があっても裁判所が変更するとは限らない
5 親権者・監護権者変更における継続性重視の傾向
初回の親権者や監護権者の指定での判断では4つの原則が使われます。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像(子の利益と4原則)
詳しくはこちら|親権者指定での『子の利益』では4つの原則が基準となる
親権者や監護権者の変更でも大きな判断の枠組みは同じです。しかし,監護の継続性が重視されます。
つまり,最初に親権者や監護権者と指定された者の方が優先される傾向があるのです。
要するに,変更の場合は,事情が大きく代わって現状が不合理になったという状態であることが必要なのです。
この意味でも,初回の指定よりも変更の方がハードルが高いのです。
<親権者・監護権者変更における継続性重視の傾向>
あ 方向性
監護の継続性を重視する
い 具体例
監護態勢・監護意思・親権者としての適格性に優劣はない
3歳児なので監護の継続性を重視する
→親権者変更をしない
=現状を維持する結果となった
※札幌高裁昭和61年11月18日
6 裁判所の審理における子の意思の把握
裁判所が親権者の変更をするかどうかを審理する際には,子の意思の把握が必要です。
家庭裁判所調査官が子供に会って意見を聴く方法が典型的ですが,それ以外の方法もあります。
<裁判所の審理における子の意思の把握>
あ 子の意思の把握
親権者・監護権者の変更の審判の手続において
子の意思を把握し考慮しなければならない
※家事事件手続法65条
父母の間で親権者を変更することで合意している場合でも変わりはない
※裁判所職員総合研修所監『家事事件手続法概説』司法協会2016年p59
い 子の意見の聴取の方法(概要)
裁判所の手続において子の意見を聴取する方法にはいくつかのものがある
家庭裁判所調査官が子に面接して聴取する方法が典型例である
試行的面会交流の状況を観察する方法もある
詳しくはこちら|監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取
7 面会交流妨害により親権者変更を認めた裁判例(概要)
前記のように,親権者の変更が認められるためのハードルは高めです。
この点,実際のケースとして,試行的面会交流の時の親子の観察から母親が子供に父親との面会交流を拒絶する方向に誘導した状況を見抜いて,裁判所が親権者の変更を認めたというものがあります。
このような親の影響(子供が親に迎合する態度)はとてもよくあることです。参考になる裁判例です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|試行的面会交流により母親の誘導を見抜いて親権者変更を認めた事例
本記事では,親権者や監護権者の変更の手続や要件について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に親権者や監護権者の変更が望ましい状況にある方や,変更を求められている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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