【セックスレス(性交渉拒否)は程度によっては離婚原因となる】

性交渉を妻に拒否されています。
このような状態で離婚できるのでしょうか。

1 セックスレスは程度によっては離婚原因となる
2 セックスレスについて,合理的な理由があれば,離婚原因とはならない
3 セックスレスによる離婚請求では立証にハードルがある

1 セックスレスは程度によっては離婚原因となる

セックスレス(性交渉の拒否)によって,夫婦関係が悪化するケースは多いです。
もちろん,両方が要求しない求めないという場合は何も問題になりません。
一方が要求しても,他方が拒否する,という場合に,関係が悪化します。
事情によっては,性交渉の拒否離婚原因となります(判例1,判例2,判例3,判例4,判例5)。

セックスレスが離婚原因となる場合>

ある程度の期間,特に理由がなく,性交渉の要求に対して拒否を続けると,離婚原因となる

2 セックスレスについて,合理的な理由があれば,離婚原因とはならない

当然ですが,セックスレスに合理的な理由がある場合,責められるものではないです。
離婚原因になることはありません。
この点,『睡眠薬の影響で奇形児が産まれる心配があった』という拒否の理由が認められなかった事例があります(判例1)。
つまり離婚原因に該当する,という判断です。
同様に『性交渉の意欲がない』,『性的能力に障害がある』という場合も,合理的理由とはならず,離婚が認められる傾向にあります。

<セックスレスの合理性がないとされた事例>

※判例1

あ 事案内容

女性A(35歳)と男性B(44歳)が結婚した
結婚後の生活において,BはAの悩みにも無関心・無気力で,一切性交渉を持とうとしなかった
夫婦関係は険悪になり,3か月後に協議離婚をするに至った

い 裁判での主張

AはBに対し,慰謝料請求訴訟を提起した
Bは,『睡眠薬を常用していたから奇形児が産まれると思って性交に応じなかった』と主張した

う 裁判所の判断

性交渉の意欲がないのか,性的能力に障害があるかのいずれにせよ,性交渉拒否が破綻の原因に結びついている
慰謝料500万円を認めた

3 セックスレスによる離婚請求では立証にハードルがある

実際に性交渉の拒否を離婚原因として離婚を請求する場合,立証が難しいです。
相手が拒否したことを認め,その理由が争点になる場合は,拒否の事実は立証不要です。
しかし,相手が拒否していないと主張すると,拒否した事実の証拠が必要となります。
実際の訴訟では次のような反論がなされることが多いです。

セックスレスという主張への典型的反論>

・『明確には拒否していない』
・『そのような雰囲気になっていなかった=要求されていない』

一方,明確に『したくない』,『もう子供は増やさないから必要ない』と宣言される事例もあります。
その場合でも,書面になっているわけではないので,相手が認めないと,立証リスクがあります。
なお,最近はこのようなセリフの録音(データ)を証拠にするケースもあります。
テクノロジーの進化とともに,証拠も多様化しています。
詳しくはこちら|不貞行為(不倫)の証拠(不倫・浮気が発覚する経緯)

<参考情報>

二宮周平・榊原富士子『離婚判例ガイド』(第2版)有斐閣158頁

判例・参考情報

(判例1;離婚に伴う慰謝料500万円を認容)
[京都地方裁判所 平成2年6月14日]
二 1 以上認定した事実関係のもとで検討するに,被告が原告と性交渉に及ばなかった理由として,被告は,当初原告の生理で出端をくじかれたとか,原告は疲労困憊の状態であったとか,原告の体調が回復しなかったので,性交渉は原告の健康状態が良くなってからしようと思っていたとか,原告の睡眠薬の服用による奇形児出生の危険があって性交渉を避けたり,躊躇したとか,キスは取り立ててする必要がないし,被告としてはもともと性交渉をあまりする気がなかったとか,昭和六三年六月に入って隣地の飲食店が営業を止めてからは原告も元気になり,睡眠薬を服用しているという感じはなくなったので,何度か性交渉をしようとして被告方二階に上がりかけたが,何となく気後れしたとか,また,同月一〇日ころ原告の健康状態が良くなったので性交渉をしようと考えたが,過去原告が睡眠薬を常用していたので後遺症としても奇形児が生まれる可能性があると思ったし,自分の性本能を満たせばよいというものではないと思ったから,などと供述する。
2 当初原告の生理で出端をくじかれたというのはそのとおりであろうけれども,右供述自体相互に矛盾するものもあるほか,前記認定と異なる事実関係を前提とするものもある。この点をさしおくとしても,被告が真実原告の健康のことを気づかっていたのであれば,渋らないですぐに原告を健康保険の被扶養者に入れる手続もするであろうし,原告に健康診断や治療を受けるように促すであろう。また,被告において原告が真実睡眠薬を常用していると思っていたのであれば,それが身体に悪いことなどを原告に話すであろう。しかしなから,前記認定のとおり被告は原告が睡眠薬を服用しているかどうか確認することもせず,これを止めるようにも言っていないのであって,被告は昭和六三年七月二日丁原方における原告との話し合いにおいて初めて睡眠薬のことを問題にし始めたのであるから,これはその場の思いつきによる言い逃れであり,その場凌ぎであったといわざるを得ない。そうすると,性交渉に及ばなかった理由の説明としては被告の右供述は信用することができないし,ことに,性交渉をしたとしても妊娠を避ける方法はいくらでもあるのであるから,睡眠薬服用による奇形児出生の危惧が性交渉に及ばなかった真の理由であるとは到底思えない。
3 また,前記認定事実によると,性交渉についてのみならず,被告には原告を自らの妻と認めて外部へ公表し,原告とともに真に夫婦として生活していこうという真摯な姿勢が認められず,被告自体が原告を避けてその間に垣根を作り,原告との間で子供(妊娠)のことや性交渉自体について自ら積極的に何ら話題としたことがないことが認められ,このようなことからすると,あるいは,被告にとって年齢的に子をもつことが負担になるとしても,妊娠を避ける方法はあるのであり,その点について原告と十分に話し合い,納得を得ることは可能であるのに,何らそのようなことに及ばなかったことからすると,この点も性交渉を避けた理由とはなりえない。
4 結局,被告が性交渉に及ばなかった真の理由は判然としないわけであるが,前記認定のとおり被告は性交渉のないことで原告が悩んでいたことを全く知らなかったことに照らせば,被告としては夫婦に置いて性交渉をすることに思いが及ばなかったか,もともと性交渉をする気がなかったか,あるいは被告に性的能力について問題があるのではないかと疑わざるを得ない。
5 そうだとすると,原告としては被告の何ら性交渉に及ぼうともしないような行動に大いに疑問や不審を抱くのは当然であるけれども,だからと言って,なぜ一度も性交渉をしないのかと直接被告に確かめることは,このような事態は極めて異常であって,相手が夫だとしても新妻にとっては聞きにくく,極めて困難なことであるというべきである。
 したがって,原告が性交渉のないことや夫婦間の精神的つながりのないことを我慢しておれば,当面原被告間の夫婦関係が破綻を免れ,一応表面的には平穏な生活を送ることができたのかもしれず,また,昭和六三年六月二〇日丁原の面前で感情的になった原告が被告方に二度と戻らないなどと被告との離婚を求めるものと受け取られかねないことを口走ったことが,原被告の離婚の直接の契機となったことは否めないとしても,以上までに認定したような事実経過のもとでは原告の右のような行為はある程度やむを得ないことであるといわなければならない。むしろ,その後の被告の対応のまずさはすでに認定したとおりであって,特に同年七月二日丁原方での原告との話し合いにおける被告の言動は,なんら納得のいく説明でないし,真面目に結婚生活を考えていた者のそれとは到底底思えずに,被告は右話し合いの前から最終結論を出し,事態を善処しようと努力することなく,事前に離婚届を用意するなど,原告の一方的な行動によって本件婚姻が破綻したというよりは,かえって被告の右行動によってその時点で直ちに原被告が離婚することとなったのであるといわざるを得ない。
6 そうすると,本件離婚により原告が多大の精神的苦痛を被ったことは明らかであり,被告は原告に対し慰謝料の支払をする義務があるところ,以上の説示で明らかなとおり,原被告の婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱら被告にのみ原因があるのであって,原告には過失相殺の対象となる過失はないというべきであるから,被告の過失相殺の主張は失当である。
7 そして,前記認定の事実や右説示のほか,諸般の事情を総合考慮すると,本件離婚のやむなきに至らせたとして被告が原告に支払うべき慰謝料は五〇〇万円をもって相当と認める。

(判例2;離婚請求認容)
[昭和62年 5月12日 京都地裁 昭61(タ)46号 離婚等請求事件]
1 《証拠省略》によれば、被告が昭和五八年二月八日京都第一日赤病院泌尿器科で診察を受けたこと、その後まもなく、被告が原告に対し、京都第二日赤病院に行くと言い、精液をとるためと称する試験管と飲み薬を持って帰って来たこと、その後被告は、同年三月八日から京都府立医大付属病院泌尿器科へ、次いで同年七月一九日から同病院精神科へ通ったこと、また被告は昭和六〇年四月二〇日関西性科学研究所へ行き検査、カウンセリングを受けたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。そして、右各事実を総合すれば、原・被告間の性交渉が正常に行なわれていなかったことを推認することができる。
 また《証拠省略》によれば、原・被告は約三年半の間夫婦として同居していたにもかかわらず、原・被告間には子供が生まれていないこと、原告の体には子供ができない疾患は特にないこと、被告に、性的興奮や性的衝動が生じていないことが認められ(る)。《証拠判断省略》そして右各事実及び原・被告間の性交渉が正常に行なわれていなかったことを総合すると、被告が性的に不能であって原・被告間に、新婚旅行中も、また、約三年半の同居生活中に性交渉がもたれなかったことを推認することができる。
  2 ところで、《証拠省略》によれば、被告の性器系に器質的異常が認められないことが認められる。しかしながら、性的不能は、性器系の器質的異常以外の原因でも生じうるのであって、右事実のみによっては、前記推認を覆すには十分でなく、他に前記推認を左右するに足りる証拠はない。
  3 そこで、前記1の認定事実が、民法七七〇条一項五号の「その他、婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかにつき検討するに、「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻中における両当事者の行為や態度、婚姻継続の意思の有無など、当該の婚姻関係にあらわれた一切の事情からみて、婚姻関係が深刻に破綻し、婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込がない場合をいい、婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として、婚姻を継続し難い重大な事由に該るというべきである。
 そうしてみると、前記1の認定事実は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由あるとき」に該るというべきである。

(判例3;離婚請求認容)
[昭和60年 9月10日 浦和地裁 昭59(タ)13号 離婚請求事件]
第二 当事者の主張
 一 請求原因(原告)
  1 原被告は昭和五二年三月二日婚姻した夫婦であり、その間に主文掲記の未成年の二子がある。
  2 離婚原因
   (1) 原被告は昭和五四年七月頃浦和市○○○に中古住宅を買い求め、それまで居住していた被告の勤務先である○○ディーゼル株式会社の社宅(蕨市所在)を出てこゝに移り住んだ。
   (2) 被告はその頃からいわゆるビニ本(ポルノ雑誌)に異常な関心を示し始め、ビニ本を買いあさつては一人で部屋に閉じこもり、ビニ本を見ながら自慰行為に耽り、原告との性交渉を拒否するようになつた。このため長男出生後は夫婦間の性交渉は殆ど行われていない。
   (3) そこで原告は被告に対しビニ本をやめて正常な性生活をするよう何度も哀願したが、被告はこれを改めず、遂には原告と同室で寝ることすら拒否するようになつた。
   (4) また被告は性生活以外の面でも異常な性癖があり、いわゆるキセル乗車をしたり、ごみ箱をあさつて物を拾つてきたり、他人の物を盗んだり、落ちているガムを拾つて子供に与えたりしたため、原告は子供への影響を配慮して被告に何度もやめるよう言つたが、被告は改めようとしなかつた。
   (5) このような生活に耐えられなくなつた原告は被告との離婚をも決意し昭和五七年六月ころ被告と話合つたところ、被告は原告に対しこれまでの生活を改めることを約束した。
   (6) ところが被告の異常な性癖はその後も遂に改まることがなかつたため原告は昭和五八年三月七日子供二人を連れて家を出、それ以来原被告は別居している。
   (7) 原被告の婚姻は以上のとおり被告の異常な性癖によつてもはや完全に破綻しており、その責任が一方的に被告の側に存することは明らかであるから、原告には被告との「婚姻を継続しがたい重大な事由」がある。
理由
一、離婚請求について
 〈証拠〉によれば、請求原因1の事実が認められる。
 〈証拠〉によれば、請求原因2の(1)ないし(6)の事実のほか、次男妊娠のときは原告においてどうしてももう一人子供が欲しかつたため原告から受胎可能時に被告に頼んで性交渉に応じてもらつたことが認められ〈る。〉
 右事実によれば、原告には被告との婚姻を継続し難い重大な事由があるものというべきであるから、原告の離婚請求は正当というべきである。

(判例4;離婚請求認容)
[昭和61年10月 6日 横浜地裁 昭60(タ)154号 離婚等本訴請求、同反訴請求事件]
請求原因1、2及び請求原因3のうち結婚式後、反訴原告と反訴被告間に性交渉は全くなかつたこと、反訴原告が昭和五九年七月二〇日、実家に帰り、その後別居生活が続いていること、反訴被告が泌尿器科病院で手術を受けたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると
  1 昭和五八年夏ごろ、反訴原告(昭和三〇年三月九日生)は反訴被告(昭和二七年二月二一日生)と見合いをし、同年暮、二人は婚約し、その際、反訴被告は反訴原告に対し結納金五〇万円を贈つた(但しそのうちの半額は結納がえしの慣習で、反訴被告にかえされた)。
  2 昭和五九年六月二日、二人は結婚式をあげ、当夜は羽田東急ホテルのツインベッドの部屋に泊まつたが、反訴被告は反訴原告に背を向けて寝てしまい、性的接触は何もなかつた。
 翌日から二人は四泊五日の日程で北海道に新婚旅行に出掛けたが、旅行中も反訴被告は反訴原告と性交渉を持つたり、これと接吻したり、これを抱擁したりすることはなく、またそのようなことをしない理由などについて説明したりもしなかつた。
 新婚初夜以来、そのような態度をとる反訴被告に対し反訴原告は不安を感じたり、疑問を抱いたりして、新婚旅行の終わりごろには、神経性の胃炎にかかつてしまつた。
  3 旅行から帰つてから、二人はかねて反訴被告が購入していた新居(反訴被告現住所)で同居生活をはじめ、反訴原告は胃炎のため病院に通院するようになつたが、同居生活後も反訴被告は反訴原告と性交渉をもつことはもちろんのこと、同衾したり抱擁したりすることは全くなく、そのため陰気な生活が続いた。
  4 このような生活に堪り兼ねた反訴原告は同年七月一五日、実家の母に事情を打ち明けた。母と父はすぐ反訴被告に事情をたしかめたが、理由らしい理由は述べられなかつたので、反訴原告は反訴被告との夫婦生活に悲観してこれと別居することを決意し、同年同月二〇日、実家に帰つた。
  5 当日、反訴被告は泌尿器科の病院で包茎の手術を受けた。
 人を介してそれを知つた反訴原告は反訴被告が性交渉を持たなかつた理由を漠然とながら知つたので、正式に結婚すればやり直せるかも知れないと思い、反訴被告と打ち合わせて同年八月一三日、婚姻届出をなした。
  6 しかし反訴被告は反訴原告に直接、手術の話をしたり、性交渉をもたなかつた理由を打ち明けたりはせず、また反訴原告の実家に挨拶にも行こうとしないので、反訴原告は婚姻届後も実家にとどまり、同年九月中旬ごろには、二人の間で離婚の話し合いがなされるようになつた。
  7 反訴被告はクリスチャンで、神経質な性格の持ち主であり、結婚前、性交の経験はなかつたように思われる(反訴被告はその本人尋問において、結婚前、売春婦と性交をしたことがある、と述べるが、これまでに認定の事実及び弁論の全趣旨にてらすと、右尋問の結果部分は信用出来ない)。
 しかし性的機能には、包茎であつたこと以外には、異常はなく、健康程度も普通であつた。
  8 反訴原告は高校を卒業後、会社勤めをしており、その父及び反訴被告の父も普通のサラリーマンである。
 反訴原告の健康程度も普通であり、結婚前に性的な経験は有しなかつたが、新婚初夜以来、反訴被告との性交渉を拒否する気持ちは全くなく、またそのような態度をとつたこともないが、積極的に夫を性交渉に誘うようなことには女性としてためらいがあつたため、自ら積極的に接触を試みることはなかつた
ことがそれぞれみとめられ、反訴被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前記証拠にてらすと採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 夫婦は生殖を目的とする結合であるから、夫婦間の性交渉は極めて重要な意味を持つものであり、それは反訴原告と反訴被告のような結婚届前の事実上の夫婦についても異なるところはないから、夫婦間、特に本件のような新婚当初の夫婦間に性交渉が相当期間全くないのは極めて不自然、異常であり、もしそれが本件におけるように、もつぱら夫の意思に基づく場合には、妻に対し理由の説明がなされるべきである(理由いかんによつては妻の協力がえられることがあるであろうし、なんといつても妻の不安、疑問、不満を除くために説明が必要である。なお右認定のように反訴被告は性的不能者ではないのであるから、結婚式後、反訴原告と性交渉を持つことは可能であつたといわざるをえない。それにもかかわらず右認定のように性交渉をもたなかつたのは、恐らく自分が包茎であることを気にしたためと思われる(反訴被告はその本人尋問において反訴原告の健康を気づかつて自制したと述べるが、反訴原告の病気も重いものではなかつたこと、性交渉をもたなかつた期間が長いこと、性交渉だけではなく、接吻などの接触もしていないことにてらすと、右尋問の結果部分は信用できない)。このような場合こそ理由の説明が必要であり、また理由の説明で解決がはかられる場合である)。
 ところが新婚初夜以来、反訴被告が何等理由の説明なしに、性交渉をなさず、そのため反訴原告が不安を募らせ、別居、そして婚姻破綻に至つたことは前記のとおりである。
 そうすると反訴原告と反訴被告間の婚姻破綻の主な原因は反訴被告側にあるといわざるをえず、反訴被告は反訴原告に対して慰謝料支払いの責任を負うが、その額は前記認定の事実すべてを考慮すると、金一〇〇万円が相当である。

(判例5;離婚に伴う慰謝料150万円認容)
[平成 3年 3月29日 岡山地裁津山支部 昭63(ワ)123号 損害賠償請求本訴、慰謝料等請求反訴事件]
一 原告の被告花子に対する慰謝料請求について
   1 第二の一1(一)は当事者間に争いがない。
   2(一) 第二の一1(二)、(三)(1)、(2)、(3)については、《証拠省略》中にこれに沿う部分がある。
 これによれば、原告・被告花子間の婚姻は被告花子のいわれなき性交渉拒否、暴言、暴力、同居・協力の拒否等により破綻させられたというのである。
 (二) ところで、甲一一は乙山夏子(秋子)作成の陳述書であるが(甲野太郎証言により成立認。)これによると、夏子は、被告花子と前夫との結婚生活が被告花子が性交渉を拒絶するために喧嘩の絶えないものであったこと、そのため、被告花子の方が金一〇〇万円を前夫に支払い離婚したことなどを被告花子から聞いており、また、「異性に身体を触られると気持ちが悪い。」などということを被告花子から聞かされているというのである。更に、夏子は、昭和六二年一〇月下旬ころ、被告花子が電話してきて話すうちに、その夫婦生活の実態を知るに至った。そして、被告花子には性交渉は夫婦生活にはなくてはならないものだから応ずるようにと説得した。その後、何度か被告花子とは電話で話したが、進展が見られないので、昭和六三年一月下旬ころ、自分の判断で被告花子を産婦人科へ連れて行き、診察してもらったところ、身体には異常はないが、年齢の割に精神面に幼児的なところがあると医師から言われたというのである。
 しかして、《証拠省略》によれば、夏子は被告花子とは格別に仲の良い父方の親戚であることが認められるのであって、その夏子が殊更虚偽の陳述書を作成することは到底考えられず、右内容は真実であると認めるべきものである。
 (三) 一方、被告花子は、原告・被告花子の婚姻生活の実態について、《証拠省略》中において、原告・被告花子間の婚姻は前妻のことを何時までも言うなどの原告の異常な言動等により破綻したものであり、原告・被告花子間には性交渉も若干はあったというのである。
 しかしながら、これら証拠はいずれも、夏子との交渉について、前記真実と認めるべき事柄とは全然相違する趣旨のことが述べられているなど、容易く措信できるものではないのである。
 (四) こうしてみると、前記原告の陳述書や供述は、真実と認めるべき夏子の陳述書とも符合して矛盾がみられないものであるし、夏子の陳述書のとおり被告花子が男性との性交渉に耐えられない女性であるとの前提で検討すると、全般的にむしろ自然なあり得べき内容のものとして充分信用に値すると考えられる。
 すなわち、原告・被告花子の婚姻生活の実態は、前記原告の主張のとおりの状況であったものと認めるべきである。
   3 原告・被告花子間の婚姻は、前記検討の結果からすると、結局被告花子の男性との性交渉に耐えられない性質から来る原告との性交渉拒否により両者の融和を欠いて破綻するに至ったものと認められるが、そもそも婚姻は一般には子孫の育成を重要な目的としてなされるものであること常識であって、夫婦間の性交渉もその意味では通常伴うべき婚姻の営みであり、当事者がこれに期待する感情を抱くのも極当たり前の自然の発露である。
 しかるに、被告花子は原告と婚姻しながら性交渉を全然拒否し続け、剰え前記のような言動・行動に及ぶなどして婚姻を破綻せしめたのであるから、原告に対し、不法行為責任に基づき、よって蒙らせた精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。
   4 しかして、原告に認められるべき慰謝料額は、本件に顕れた一切の事情を総合勘案し、金一五〇万円が相当である。

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