【養育費・婚姻費用などの不払い|債務名義なし→仮差押・調停・審判・訴訟】
1 扶養関係の不払い→『債務名義取得』の方法|家事・民事の2ルート
2 債務名義なし×不払い|暫定的な対抗手段として『仮差押・仮処分』がある
3 扶養関係の仮処分|家裁が暫定で金額を設定し支払をスタートさせる
4 相手方の財産逃しを防ぐために,事前に『仮差押』ができる
5 仮差押では保証金が必要なこともある
養育費・婚姻費用などの不払いの時の差押・履行勧告については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用・扶養料の不払いへの対抗策|差押・履行勧告・履行命令
本記事では『債務名義』がない場合の対抗手段をまとめました。
1 扶養関係の不払い→『債務名義取得』の方法|家事・民事の2ルート
養育費・婚姻費用などが払われない場合は,日々の生活で困ります。
差押などの家裁のサービスを利用する前提として『債務名義』が必要です(リンクは冒頭に記載)。
具体的にどうするか,については『事前に(裁判外で)合意があるかどうか』で違ってきます。
<『債務名義』取得の方法>
裁判外の合意の有無 | 債務名義取得ルート |
合意がある場合 | 一般的な民事訴訟→差押 |
合意がない場合 | 家事調停→審判→差押 |
『合意』がない場合は,まずは裁判所が『金額を判断』する必要があります。
そうすると『夫婦・家族特有の細かい事情の考慮』が必要です。
まさに性質的に『家庭裁判所』が行う業務となるのです。
すでに『合意』がある場合は『支払義務』の金額は確定しています。
あとは『合意の有無』だけの審査となります。
『一般的な事実認定』として一般の裁判所(地方裁判所や簡易裁判所)の管轄となります。
2 債務名義なし×不払い|暫定的な対抗手段として『仮差押・仮処分』がある
(1)債務名義なし×不払い→『仮差押・仮処分』という方法がある
債務名義がない場合,調停・審判や訴訟を行うのが通常の対抗策です(リンクは冒頭に記載)。
しかし,一定の時間を要します。
このような『正攻法』とは別に『暫定措置』も用意されています。
<扶養関係の不払い×債務名義なし|暫定的な対抗手段>
種類 | 内容 |
仮差押 | 相手の財産を『ロック』するだけ |
仮処分 | 暫定的な強制的な支払を実現する |
(2)仮差押・仮処分は『民事保全法と家事事件手続法』の2種類がある
仮差押も仮処分も,法律的には,それぞれ2種類があります。
<仮差押・仮処分|2種類の法的な扱い>
裁判外の合意の有無 | 根拠法 | 管轄裁判所 |
合意がある場合 | 民事保全法 | 地方裁判所 |
合意がない場合 | 家事事件手続法(審判前の仮処分) | 家庭裁判所 |
申立の事務的な違いであり,審査内容などに実質的な違いがあるわけではありません。
3 扶養関係の仮処分|家裁が暫定で金額を設定し支払をスタートさせる
養育費や婚姻費用は毎月の生活費に直結するものです。
『仮処分』として,暫定的に強制的な支払を実現する手段があります。
『緊急性』が高い場合に認められます。
4 相手方の財産逃しを防ぐために,事前に『仮差押』ができる
例えば,これから離婚の条件について話し合いをする場合,に次のような心配をすることがあります。
<心配される相手方の行為の例>
預金を別の金融機関や他人名義などに逃してしまう
不動産を売却してしまう
不動産に担保を設定してしまう
↓
現実的に払ってもらえない,差押ができない状態となる
このようなリスクがある場合仮差押の手続が役立ちます。
まだ交渉や調停,訴訟が始まっていなくても『仮差押』は利用できます。
『仮差押』がなされると,相手方は財産を動かせなくなります。
いわば財産がロックされた状態です。
一方,暫定的に『支払を受ける』という機能はありません。
5 仮差押では保証金が必要なこともある
仮差押をするためには,通常は一定の『担保(保証金)』が必要とされます。
しかし,離婚に関するケースでは,特別に『担保金=ゼロ』とされる事例もあります。
詳細は別に説明しています。
別項目;債権回収;仮差押
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