【不貞行為|配偶者の承諾・姉妹で夫の譲り合い|自由意思なし=強姦ケース】
1 『強姦』被害者→自由意思に基づかないので『不貞行為』に該当しない
2 不貞行為×『配偶者の承諾』→離婚原因にならない
3 不貞行為×『配偶者の承諾』|本心の承諾ありと判断されたケース|概要
4 不貞行為×配偶者の承諾|特殊事情|姉妹で夫を譲り合った
本記事では『配偶者が別の異性との性行為を承諾した』『自由意思に基づかない性行為=強姦』などの特殊事情があるの場合の不貞行為の扱いを説明します。
夫婦の一方の不貞行為の基本事項については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|不貞行為は離婚原因|基本|破綻後の貞操義務・裁量棄却・典型的証拠
1 『強姦』被害者→自由意思に基づかないので『不貞行為』に該当しない
原則的には『性行為』があれば,その背景に関わらず『不貞行為』として扱っています。
しかし『強姦被害』について問題となったケースがあります。
<不貞行為×強姦被害>
あ 『不貞行為』の解釈
配偶者ある者が,自由な意思にもとづいて,配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと
い 裁判所の判断;結論
強姦被害は『不貞行為』ではない
→離婚請求は認めない
※最高裁昭和48年11月15日
う 『加害者』の扱い
『加害者』は『自由な意思』に該当する
→『加害者の妻』との関係では『離婚原因』に該当する
強姦のケースでは『加害者』の立場としては『不貞行為』に該当します。
一方『被害者』は『不貞行為』には該当しないのです。
相対的な状態が生じるのです。
2 不貞行為×『配偶者の承諾』→離婚原因にならない
裁判例において妻が夫の『不貞行為を承諾した』という事例があります。
結論としては『不貞行為』としては認めませんでした。
<不貞行為×『配偶者の承諾』>
あ 事例
妻が,夫婦間での性行為を望まない状態となった
妻が夫に『風俗で遊んでおいで』と言った
い 裁判所の判断
『不貞行為』には該当しない
う 根本的な理由
『不貞』の本質は『裏切り』である
→承諾がある場合は『裏切り』という感情は生じない
え 認定上の注意
『承諾』が本心からのものか・本意か,という判断は慎重に行う
※東京高裁昭和37年2月26日
当然,具体的状況によって『本気での承諾』かどうかが変わるでしょう。
ちなみに,妻が『性行為拒否』という離婚原因を作った,という解釈につながることもあります。
詳しくはこちら|セックスレス(性交渉拒否)は程度によっては離婚原因となる
3 不貞行為×『配偶者の承諾』|本心の承諾ありと判断されたケース|概要
実際に不貞行為を承諾したと認められることは非常に珍しいです。
不貞行為の承諾が認められた裁判例を紹介します。
<『不貞行為の承諾』が認められた事例|概要>
あ 離婚の決意
一旦夫婦が離婚することを約束(決意)した
そして夫婦は別居した
この時点で夫が妻以外の女性と性行為に及んだ
い 仲直りフェーズ
その後,離婚する方針が撤回された
う 妻以外の女性との性行為の位置付け
形式的には『婚姻関係中の性行為=不貞行為』に該当する
一方で『承諾のある性行為』という見方もできる
※東京高裁昭和37年2月26日
この裁判例に関して説明を補足します。
まず,離婚届の提出までは離婚は成立していません。
詳しくはこちら|離婚意思の内容(形式的意思)と離婚意思が必要な時点(離婚届の作成・提出時)
そして,離婚することの約束(協議離婚の予約)は法的に効力を持ちません。つまり,離婚する約束をしても離婚届の作成・提出を強制することはできません。むしろ,離婚する約束を撤回することは自由なのです。
詳しくはこちら|協議離婚の予約(離婚する合意)は無効である
4 不貞行為×配偶者の承諾|特殊事情|姉妹で夫を譲り合った
上記の『不貞行為の承諾』が認められたケースは非常にレアケースです。
背景には,現代社会ではあり得ない異文化とも言える古い時代の風習が見えてきます。
どれくらい変わっている事情か,ということが分かると思います。
<妻が夫の『不貞行為』を承認した背景事情>
あ 自由恋愛時代
・男性Aが女性Bと交際していた
・Bには姉Cが居て,未婚であった
・B・Cの母Dは,年上のCに早く結婚して欲しかった
い 妹が姉に男性を譲渡
・母Dは,A・Bに『AとCが結婚すること』を懇願した
・懇願に応じ,AとCが結婚した
う やけぼっくい着火フェーズ
・A・Bは一旦あきらめたものの,やはり一緒になることを希望した
・関係者一同で協議した
え 姉から妹に男性を返却
・Cは『そこまでBを好むならあきらめる』と決断した
・A・Cは離婚をすることに合意した
・離婚届は提出しないままであった
・A・Bは交際(同居)した(性的関係)
お 子供のおもちゃ理論
・Cは後日,離婚する合意を撤回した
男性を他の女性に取られると『欲しい』と思う現象
か 裁判所の判断(前述)
Cの承諾あり,として,離婚原因として認めなかった
※東京高裁昭和37年2月26日
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