【夫婦の両方が有責(双方有責)であるケースの離婚請求の判断枠組み】
1 夫婦の両方が有責(双方有責)であるケースの離婚請求の判断枠組み
不貞(不倫)などを行った者(有責配偶者)からの離婚請求は一定の基準をクリアしないと否定されます。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
実際には、離婚を請求される側(相手方)にも有責性があるケースもあります。双方有責と呼んでいます。
本記事では、夫婦の両方に有責性があるケースの離婚請求の判断について説明します。
2 両方に有責性がある夫婦間の離婚請求の判断の枠組み
夫婦の両方に有責性があるケースを扱った最高裁判例はいくつかあります。判例の考え方は、有責性のバランスで判断の枠組みを決めるというものです。
計算的に考えると、お互いに同じ有責の程度は相殺する(打ち消す)と言ってもよいでしょう。
両方に有責性がある夫婦間の離婚請求の判断の枠組み
あ 共通する事情
夫婦関係の破綻について夫・妻の両方に有責性がある場合
→離婚を請求する側と相手方の有責性のバランスによって判断の枠組みが異なる(い〜え)
い 請求側の方が大きな有責性
請求側の有責性が相手方の有責性より高い場合
→有責配偶者から無責配偶者への離婚請求と同様に扱う
う 等しい有責性
請求側・相手方の有責性が等しい場合
→無責配偶者から無責配偶者への離婚請求と同様に扱う
え 相手方の方が大きな有責性
請求側の有責性が相手方の有責性より低い場合
→無責配偶者から有責配偶者への離婚請求と同様に扱う
※最高裁昭和31年11月24日参照
※『新・判例解説Watch18』日本評論社2016年4月p86
3 有責性の大きな妻からの離婚請求を認めた判例(概要)
前記の枠組みが実際に使われた(と言える)判例があります。妻が不貞(不倫)を行い、大きな有責性があることが前提です。夫も、程度は低いけれど暴力などがあったので、小さい有責性が認められました。
枠組みとしては、有責配偶者から無責配偶者への離婚請求という扱いと同じになります。程度の評価によってはほぼ同程度の有責性と考える余地もあったかもしれません。
この判例では、一般的な有責配偶者から離婚請求の判断基準が使われました。別居期間が長かったなどの事情から、最終的に離婚請求は認められました。
有責性の大きな妻からの離婚請求を認めた判例(概要)
あ 有責行為
ア 妻=離婚請求側(原告)
不貞行為を行った
イ 夫=離婚請求の相手方(被告)
暴力を行った
生活費を渡さなかった
い 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
17年2か月 | 9年8か月 | 54歳 | 53歳 |
う 有責性の比較
妻の方が有責性が大きい
夫の方にも一定の(小さい)有責性がある
→有責配偶者から無責配偶者への離婚請求の枠組みが適用される
え 有責配偶者の離婚請求の判断
別居期間が約10年に達していた
未成熟の子はいなかった
→妻の離婚請求を認めた
※最高裁平成5年11月2日
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めた事例(裁判例)の集約
4 有責性の大きな夫からの離婚請求を認めた裁判例
夫の有責性を認めた上で、妻には、責任の一端があると認めた事例があります。この裁判例では、有責配偶者からの離婚請求の枠組みを使う、と断言はしていませんが、妻にも責任の一端があることが、離婚請求が権利の濫用にならないという判断につながりました(1材料となりました)。
夫婦の両方に責任がある(双方有責)ことから、有責配偶者の場合の判断基準をそのまま使うことを避けた、ということになります。
有責性の大きな夫からの離婚請求を認めた裁判例
あ 夫の有責性→あり
ア 不貞と暴力
・・・確かに、原告は、過去の一時期、タイ人女性と不貞行為を行ったことが認められ、また、被告との諍いの中で、粗暴な言動に出たこともあったと認められる。
イ 不貞を疑われる状況
さらに、本件記録上、原告とDとの間の不貞行為を直接的、客観的に裏付ける証拠は見出すことはできないが、原告は、平成26年8月に被告と別居するに際し、Dの自宅近くの駐車場に車を停め、同人と車内で過ごしたことがあったり、同人に日常生活における援助をしてもらうためとして、同人にアパートの鍵を預け、出入りをさせていた時期があったことが認められるから、仮に、原告とDとの間に不貞行為がなかったとしても、これを疑われても客観的におかしくない状況にあったと認められる。
ウ 結論(夫の有責性あり)
これらの事情を考慮すると、原告と被告との夫婦関係が悪化したのは、原告に相当の責任があるものと認められる。
い 妻の有責性→責任の一端あり
しかし、他方で、被告も、原告との婚姻生活の中で、ヒステリックな言動や、粗暴かつ突飛な行動に出ることがあったと認められ、また、原告の親族や、長男の配偶者の親族と付合いをしなかったり、本件建物において、掃除や調理等の家事を適切に行い、快適な環境を保つという努力が不十分な面があったと認められる。
さらに、被告は、原告の行動を監視する必要があったとか、原告から十分な額の生活費を得る必要があったとしているものの、原告の車に無断でGPS機能付の携帯電話を設置するような穏当でない行動や、原告の職場に電話をしたり、直接赴いたりして要求を述べるなどの、職業人、社会人としての原告の立場に対する配慮に欠け、相当でない言動が認められ、被告のこのような態度が、原告を追い詰めた面もあることは否定できないから、原告と被告との夫婦関係が悪化したのは、原告のみならず、被告にも責任の一端があると認められる。
う 基準へのあてはめ
ア 未成熟子の不存在→肯定
そして、原告と被告の長男、長女は、既に成人し、原告の離婚請求を認容したとしても、子らの福祉が害される状況にはない。
イ 過酷条項
また、被告は、平成6年以来、就労をしておらず、その生活の糧は、専ら原告からの婚姻費用であり、これに経済的に依存した生活を続けてきたと認められるところ、原告は、平成28年9月30日、勤務先との嘱託採用職員としての契約が終了し、現在は無職になっており、今後は、婚費審判に基づく婚姻費用の支払や、本件建物の住宅ローンの支払の継続が難しい状況になると想定されるから、被告は、今後の生活設計を検討すべき時期になっていると認められ、原告の離婚請求を認めたとしても、これを認めない場合と比較して、被告が経済的に著しく不利益な状態に陥るという関係にはないというべきである。
ウ 結論
そうすると、本件について、有責配偶者からの離婚請求であると捉えて検討したとしても、上記に述べたように、婚姻関係が破綻した責任は、専ら原告にあるとまではいえず、被告にも責任の一端があると認められること、被告自身も原告との婚姻関係が円満回復するとは考えていないこと、離婚を認めた場合の被告の経済的状態が、これを認めない場合と比較して著しく困窮するというような関係にはないこと、原告と被告間には未成年の子がいないことを勘案すれば、原告の求めている離婚請求は、社会正義に照らして到底許容することができないとまではいえず、これを権利の濫用とは認めることができない。
したがって、原告の離婚請求は理由があり、認容するのが相当である。
※横浜家裁相模原支判平成29年4月10日
5 有責性が等しいケースの離婚請求の判断の例
次に、夫婦の有責性が同程度というケースについて考えてみます。
夫婦の両方が同じように不貞(不倫)をしていたというケースはよくあります。この場合、夫婦の有責性が同程度となるので、前記のように、無責配偶者から無責配偶者への離婚請求と同じ扱いになります。
要するに、単純に夫婦関係が破綻しているかどうかで判断するということです。不貞行為は夫婦の関係を著しく悪化させるので、それだけで破綻に至ります。
詳しくはこちら|不貞行為は離婚原因|基本|破綻後の貞操義務・裁量棄却・典型的証拠
そこで、自らが不貞を行った者からの離婚請求でも、結論として、離婚は認められることになります。
有責性が等しいケースの離婚請求の判断の例
あ 事案
夫婦それぞれが不貞行為を行っている
それぞれの不貞の状況は同じような程度といえる
夫が妻に対して離婚を請求した
い 判断の枠組みの適用
夫婦の両方の有責性が等しい
→無責配偶者から無責配偶者への離婚請求として扱う
う 結論
(夫の不貞行為を考慮に入れないとしても)
妻の不貞行為により夫婦関係は破綻している
有責配偶者からの離婚請求としての制限(判断基準)は適用しない
→離婚原因があると認められる
→離婚請求を認める
え 常識的感覚(参考)
夫婦ともに別の異性と交際している状態である
→常識的に考えて離婚できない(婚姻関係の継続を強制する)という結論は不合理である
→離婚を認めることが常識に合致する
本記事では、夫婦の両方に有責性があるケースでの離婚請求の判断について説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に夫婦の両方に有責性がある状態での離婚の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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