【フランス人の有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例】
1 フランス人の有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例
2 当事者・主要な事情・事案
3 夫の有責性につながる事情
4 離婚による経済的ダメージ
5 裁判所の判断の結論
6 判決文の引用
7 貞操義務の実質免除への批判
1 フランス人の有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例
有責配偶者からの離婚請求は原則的に否定されます。しかし,一定の事情があれば認められます。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
実際に有責配偶者の離婚請求を認めた事例の中に,フランス人の国民性が考慮されたという珍しい裁判例があります。
フランス人の自由奔放な文化が指摘・考慮されたのです。結果的に貞操義務違反から解放されたのと同じことになりました。そこで『(フランス流の)不倫は文化判決』と呼ばれています。
本記事では,この裁判例の事案と裁判所の判断を説明します。
2 当事者・主要な事情・事案
最初に,当事者と主要な事情をまとめます。
<当事者・主要な事情・事案>
あ 夫婦のナショナリティ
妻=フランス人
夫=日本人
い 仲違い→別居
夫婦が仲違いした
妻がフランスの実家に子供を連れて戻った
う 妻の不貞行為
妻が現地で他の男性(フレンチ複数)と交際を開始した
え 訴訟提起
その後,妻が離婚請求訴訟を提起した
→有責配偶者からの離婚請求である
夫は棄却を求めた
3 夫の有責性につながる事情
この訴訟では夫の有責性が指摘されています。双方有責の考え方と言えます。
詳しくはこちら|夫婦の両方が有責(双方有責)であるケースの離婚請求の判断枠組み
<夫の有責性につながる事情>
あ 夫の実力行使
夫が言うことを聞かせるために『実力行使』を行っていた
妻の人格を否定するような内容であった
→妻が夫に対する信頼を失った
→夫婦としての亀裂が急速に拡大した
い 実力行使の内容
携帯電話・メール・クレジットカードを使えなくした
う ナショナリティの配慮
フランス人は個人の自由や権利の尊重を当然のこととする
夫の言動は,妻の気持ちや人格に対する理解や配慮を欠いた
そして,妻を追い詰めていった
え 夫の有責性
夫の言動が原因となり,妻が不貞に及ぶことになった
夫にも相応の原因がある
4 離婚による経済的ダメージ
離婚請求の相手方の受ける経済的ダメージが判断されています。有責配偶者からの離婚請求を認める3要件の1つです。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断
<離婚による経済的ダメージ>
夫の年収は約960万円であった
→離婚による夫の不利益は小さい
→著しく不利益な状態にはならない
→精神的・社会的・経済的に苛酷な状態にはならない
5 裁判所の判断の結論
以上の検討を踏まえた判断の結論をまとめます。
<裁判所の判断の結論>
離婚請求を認容した
慰謝料は認めなかった
※東京高裁平成26年6月12日・不倫は文化判決
6 判決文の引用
この裁判例の説明の最後に,判決文の中の,判断の中心部分の全体を引用しておきます。
<判決文の引用>
あ 規範(判断基準)
仮に,形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても,実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ,その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである。
い 破綻の責任の所在
そこで,上記のところを踏まえて本件について検討すると,本件で離婚を望んでいるのは,妻である控訴人であり,控訴人と被控訴人の婚姻関係が決定的に破綻したのは,主に控訴人がCやDと不貞行為に及んだことが直接の原因ではあるものの,上記認定のとおり,最初に離婚を切り出したのは被控訴人(夫)であり,しかも,控訴人(妻)に被控訴人の言うことを聞かせようとして,被控訴人が控訴人の携帯電話やメールやクレジットカードを使えなくするなど実力行使に出て,控訴人の人格を否定するような行動をとったため,控訴人において被控訴人に対する信頼を失い,夫婦としての亀裂が急速に拡大していったものであって,控訴人がもはや被控訴人と婚姻関係を継続することはできないと考えるようになり,CやDと交際するようになったことについては,フランス人として個人の自由や権利を尊重することを当然のこととする控訴人の気持ちや人格に対する十分な理解や配慮を欠き,控訴人を追い詰めていった被控訴人にも相応の原因があるというべきであり,控訴人と被控訴人との婚姻関係が破綻した責任の一端が被控訴人にもあることは,明らかというべきである。
う 未成年者の福祉(子の利益)
そして,控訴人と被控訴人の間には,現在六歳の長男と四歳の長女がいるが,控訴人としては,働きながら両名を養育監護していく覚悟であることが認められるところ(証拠〈省略〉),後記認定のとおり,控訴人による養育監護の状況等に特に問題もないことを考慮すれば,控訴人の本件離婚請求を認容したとしても,未成年者の福祉が殊更害されるものとは認め難いというべきである。
え 過酷
また,本件では,被控訴人は,もともと控訴人との離婚を求めていた経緯があるだけではなく,後記認定のとおり,平成二五年度において約九六一万円の年収があり,本件離婚請求を認めたとしても,精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもないと考えられる。
お 結論
そうすると,本件については,確かに,形式的には有責配偶者からの離婚請求ではあるものの,これまでに述べた有責配偶者である控訴人の責任の態様・程度はもとより,相手方配偶者である被控訴人の婚姻継続についての意思及び控訴人に対する感情,離婚を認めた場合における被控訴人の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子である未成年者らの監護・教育・福祉の状況,別居後に形成されている相互の生活関係等を勘案しても,控訴人が求めている離婚請求は,社会正義に照らして到底許容することができないというものではなく,夫婦としての信義則に反するものではないというべきである。したがって,本件離婚請求は理由があり,認容するのが相当である。
※東京高判平成26年6月12日・不倫は文化判決
7 貞操義務の実質免除への批判
この裁判例の審理内容は,フランス人であれば貞操義務が軽くなるとも読み取れます。国籍を貞操義務の実質的免除につなげていると言えるのです。この考え方について,批判があります。
<貞操義務の実質免除への批判>
あ 特殊事情
上記判例の事案には次のような特殊事情があった
ア 妻の不倫に対する抗議イ 一定の高収入
年収=約960万円
ウ 自由奔放な文化エリアの国籍
い 判断の傾向
妻の貞操義務が無効化される結果となった
う 批判
「個人の自由や権利を尊重すること」はフランス人か否かと関係がない
※上智大学法学部准教授羽生香織『月報司法書士2015年5月』日本司法書士会連合会p62
本記事では,フランス人の国民性を考慮して有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な細かい事情や,主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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