【X社セクハラ事件(性行為あり・仲の良い不倫という主張の排斥)】

1 事案と責任の主要項目
2 事案と主張の概要
3 表面的な仲の良い不倫関係
4 事実認定の要点=被害者の供述のみで認定

1 事案と責任の主要項目

職場のセクハラ事例の1つとしてX社事件を紹介します。合意による,つまり仲が良い不倫なのか強制された関係なのか,という主張の対立がありました。特徴的な事実の判断・認定が行われました。
まずは,事案と責任の主要事項を整理します。

<事案と責任の主要項目>

性的会話 あり
身体を触れる あり
性行為 あり
期間 性交渉については約半年(月に1回程度)
慰謝料 200万円
弁護士費用 20万円

※東京地裁平成24年6月13日;X社事件

2 事案と主張の概要

事案と主張の全体的な概要をまとめます。

<事案と主張の概要>

あ 当事者

加害者A=男性・上司
被害者B=女性

い 事案の概要

A・Bがドライブや飲酒を一緒にすることがあった
ラブホテルにおいてA・Bが月1回程度性行為をした
職場では日頃,AがBの身体を触っていた
この関係が半年程度継続した

う 合意の有無の主要の対立

Bは強制的な関係であると主張した
Aは『Bの合意があった交際』と主張した(後記※1
※東京地裁平成24年6月13日;X社事件

3 表面的な仲の良い不倫関係

加害者(被告)は違法性のない行為であると主張しました(前記)。つまり,仲が良い合意のある不倫関係であるという主張です。この主張の内容をまとめます。

<表面的な仲の良い不倫関係(※1)

あ 家族あり

Aは既婚者であった
妻との間に子があった

い Aの主張

Bも合意していた交際であった
いわゆる『不倫』の関係である
Bには次のような態度・言動があった

う Bの態度・言動(Aの主張による)

ア 性行為に積極的だったイ 加害者と結婚することを望んでいたウ プレゼントをくれたエ 妻との旅行に嫉妬した ※東京地裁平成24年6月13日;X社事件

4 事実認定の要点=被害者の供述のみで認定

裁判所は,加害者の主張を排斥し,強制的な関係,つまり違法性があると判断しました。この判断のプロセスには特徴的なところがあります。ほぼ被害者の供述のみで認定したのです。

<事実認定の要点=被害者の供述のみで認定>

あ 合意に関する立証・証拠の状況

ほぼA・Bの供述しか証拠がない

い 供述のうち共通する事項

A・Bがドライブや飲酒を一緒にすることがあった
ラブホテルにおいてA・Bが月1回程度性行為をした
この関係が半年程度継続した
Bがこのような関係を拒絶した
その後,Aは性的な接触行為をやめた
しかし再びAは性的な接触行為を再開するようになった

う 主要な経験則

Bが入社して2月も経たない時期であった
Aは上司であり妻子があった
BがAに対して,積極的に不倫関係を持ちかけるとは通常考えがたい

え 裁判所の判断

Aが特に積極的であった(『い』)
Bから不倫関係を望むことはない(『う』)
→Aの供述・主張を排斥した
※東京地裁平成24年6月13日;X社事件

被害者の供述が重視されるのは,性的行為に関する認定ではよくあることです。
詳しくはこちら|性的侵害の事実認定の特徴(被害者の供述重視・合意に関する経験則)

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