【夫婦間の契約取消権以外の理論による契約解消の事例】
1 夫婦間の贈与の取消→真意ではない(判例)
2 解除条件成就による夫婦間贈与の解消(判例)
1 夫婦間の贈与の取消→真意ではない(判例)
夫婦間の契約については取消権を認める規定があります。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の基本的事項(背景・趣旨・実害・条文削除意見)
この点,取消権の規定の解釈とは別の理論が使われるケースもあります。
まずは『取消の意思表示』の真意が欠けると判断された裁判例を紹介します。
<夫婦間の贈与の取消→真意ではない(判例)>
あ 事案
夫が『土地・建物』を妻に贈与した
不仲になった時に『全部返せ』と言った
その後仲直りした
やはりその後仲違いするに至った
い 裁判所の判断
ア 『贈与の撤回』が生じることの意味
これによって夫婦の従来の財産関係を一変する
妻をして無一物のまま夫に奉仕せしめることとなるような結果を将来する
イ 『撤回』の発言の真意
夫の『撤回』の発言は『一時の興奮からなされた感情的な放言』に過ぎない
※東京地裁昭和39年10月10日
『妻に不合理・過酷になるのを防ぐ』という価値判断が大きく作用しています。個別的事情の判断ですが,一般的に考慮されることが多いポイントです。
2 解除条件成就による夫婦間贈与の解消(判例)
夫婦間の贈与契約の時点で両者で『解除条件』を設定した事例があります。裁判所は解除条件の成就によって解除された,と判断しました。
『解除条件自体の取消』も主張されましたが裁判所は排斥しています。
<解除条件成就による夫婦間贈与の解消(判例)>
あ 不動産の贈与
夫の資金で土地・建物を購入した
持分は夫婦それぞれ『2分の1』とした
この際書面で『解除条件』を明記し,調印した
い 解除条件の内容
『妻の家出又は離婚(を解除条件とする)』
う 解除条件の成就
その後,妻が家出をした
え 夫の主張
夫は『解除条件成就』を主張した
持分返還を請求する訴訟を提起した
お 妻の主張
『解除条件』部分を取り消す
か 裁判所の判断
贈与契約全体ではなく『条件部分だけ』の取消権行使は認めない
→解除条件成就を認めた
→持分返還請求を認容した
※東京地裁昭和49年1月22日
要するに『一定条件によって解消される』ことの明確な合意が効力を発生したのです。『解消する事情が想定される』場合は『解除条件』として明確に定めておくと良いという分かりやすい実例です。
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