【土地の贈与→取消無効判決(取消時破綻・高裁)】
1 事案(結婚に至る経緯)
2 事案(仲違い〜取消主張)
3 裁判所の判断
1 事案(結婚に至る経緯)
夫婦間の契約の取消の解釈論は時代によって移り変わり,判例も多く残されています。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の無効化の変遷(事案・判断の概要の集約)
本記事では実例の1つである裁判例を紹介します。
<事案(結婚に至る経緯)>
あ 婚姻前の状況(結婚の経歴)
男性Aは結婚・離婚・死別の経歴があった
2人の子を養っていた
ア 昭和28年8月〜29年3月協議離婚イ 昭和31年3月〜33年4月協議離婚
実子が1人誕生した
ウ 昭和34年9月〜43年12月死別
実子1人誕生した
い 婚姻
昭和44年6月
男性A・女性Bは婚姻届を提出した
Aの連れ子をBが養育するようになった
A・Bの実子はいなかった
自宅の土地・建物はAが所有していた
※東京高裁昭和55年2月28日
2 事案(仲違い〜取消主張)
<事案(仲違い〜取消主張)>
あ 仲違い
昭和47年2月
子の養育に関して夫婦喧嘩となった
妻は一時的に家を出て実家に帰った
間もなく家に戻った
い 土地の贈与
昭和47年3月
夫は印鑑登録を行い,印鑑証明書の交付を受けた
昭和47年4月
夫は妻に自宅土地を贈与した
贈与を原因とする所有権移転登記をした
う 契約取消の主張
昭和54年9月(口頭弁論期日において)
夫は契約の取消を主張した
※東京高裁昭和55年2月28日
3 裁判所の判断
<裁判所の判断>
あ 取消の有効性の基準
夫婦間の契約の取消について
婚姻が実質的に破綻している場合
→取り消すことはできない
※最高裁昭和42年2月2日
い 取消当時の夫婦間の破綻の状況
夫と妻は夫所有の自宅に同居していた
夫は妻を好かず別れたいと思っていた
妻は『夫と離婚する意思はない』と供述していた
しかし,その前に家裁に離婚調停の申立をしていた
昭和50年12月に申立をして本訴訟提起後に取り下げた
食事は双方銘々に料理したものを各別に食べていた
う 結論
取消の時点の夫婦の状況について
→およそ通常の夫婦の同居生活とは程遠い状態にあった
→夫婦関係は破綻に瀕していたと言える
→取消は無効である
※東京高裁昭和55年2月28日
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