【書面によらない贈与→改正民法の財産分与として取消否定(最高裁)】
1 事案(結婚〜仲違い)
2 事案(協議離婚と財産の分与)
3 裁判所の判断
4 昭和22年民法改正の影響(概要)
1 事案(結婚〜仲違い)
夫婦間の契約の取消権の規定があります。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の基本的事項(背景・趣旨・実害・条文削除意見)
この取消権以外の規定による契約の解消が主張・判断された裁判例を紹介します。書面によらない贈与としての取消に関する裁判例です。
なお,時代の世相が垣間見える事案です。
夫が遊郭で知り合った女性と『妾』関係となったのです。婚外子も含めて『一家』を扶養したという『実質的一夫多妻』が実現したケースです。
<事案(結婚〜仲違い)>
あ 結婚の経緯
大正6年2月
男性A・女性Bが同棲を始めた
大正12年A・Bは婚姻届を提出した
い 単身赴任の後の婚外女性との同居
昭和15年頃
Aは事業に従事するため単身樺太に渡った
Aは女性Cと同棲を始めた
う 婚外フルコミットによる仲違い
昭和22年7月
AはBのところへ戻った
この時Cも一緒に戻った
AはCと別れることは欲しなかった
※最高裁昭和27年5月6日
2 事案(協議離婚と財産の分与)
<事案(協議離婚と財産の分与)>
あ 協議離婚
昭和22年10月
AはBに対して離婚を求め,Bは承諾した
この際,AはBに対して次の財産を分与することを約した
口頭での約束であった
=書面への調印はなかった
ア 建物イ 動産の半分
い 合意(約束)の具体的方法
次のような口約束
『離婚届に署名・押印すれば不動産を無償で譲渡する』
※川井健『民法概論4(債権各論)補訂版』有斐閣p110,111
う 財産の性格
『あ』の財産について
多年のA・Bの夫婦生活中にAが取得した
A・Bが共同で使用収益して来た
え 夫の主張
建物の分与について
書面によらない贈与であるから取り消す
※民法550条
※最高裁昭和27年5月6日
3 裁判所の判断
<裁判所の判断>
あ 離婚との関連性
財産を配偶者に譲渡する契約について
→離婚と不可分の関係において締結された
いわば離婚協議の1条項というべきものである
い 贈与との違い
当事者の一方が他方に単に恩恵を与える目的ではない
→単純なる贈与と同じではない
財産分与(請求権)に基づく契約と同じ性質である
離婚の届出と契約との時間的前後は関係ない
※民法768条,新民法附則10条(後記※1)
う 結論
贈与に関する規定は適用されない
→民法550条(書面によらない贈与)も適用されない
→贈与・所有権移転は有効である
→Bの移転登記請求を認める
※最高裁昭和27年5月6日
4 昭和22年民法改正の影響(概要)
以上の主張・判断には,昭和22年の民法改正が影響しています。敗戦,日本国憲法の制定に伴って大幅に民法が改正されたのです。この概要についてまとめます。
<昭和22年民法改正の影響(概要;※1)>
あ 改正前
昭和22年の改正の前の(旧)民法について
→財産分与制度自体がなかった
夫婦間の契約にその機能があった
い 改正民法の適用範囲
財産分与について
→離婚の日が昭和22年5月3日以降のものに適用される
詳しくはこちら|離婚(財産分与)に関する規定の創設(昭和22年改正民法)
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