【前科の清算のための名の変更(許可基準と裁判例)】
1 前科から更正するための名の変更
2 前科ロンダリング→変更不許可
3 ステルス前科ロンダリングとしての名の変更
4 前科ロンダリングと調査方法
5 前科ロンダリングと犯罪経歴証明書
1 前科から更正するための名の変更
名を変更する実質的な理由にはいろいろなものがあります。
詳しくはこちら|名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)
その1つに『前科から離れる・更生する』という目的のケースがあります。
悪く言えば,過去を隠すものといえます。
しかし,犯罪者は,所定のペナルティを受けた後は社会復帰することが望まれます。
このように名の変更によるプラス・マイナスの面があります。
結論としては,どちらかと言えば変更を認めない傾向です。
<前科から更正するための名の変更>
あ 名の変更による社会復帰
Aを有罪とする判決が確定した
Aは過去を清算し,更正する強い気持ちがある
例;犯罪者の服役後に社会復帰する
い 許可判断の傾向
更正を促進すること自体はプラス効果である
しかし周囲の誤解を招くことにもなる
意見が分かれるが,消極に解するのが相当であろう
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p516
う 忘れられる権利(参考)
インターネットの検索において
前科の情報を表面化させない利益が指摘されている
『あ』の発想とベースは同じである
詳しくはこちら|プライバシー権×前科|基本|忘れられる権利|報道以外
2 前科ロンダリング→変更不許可
前科から離れるための名の変更が,いわば前科からのロンダリングというマイナス評価を受け,許可されなかった事例を紹介します。
<前科ロンダリング→変更不許可>
あ 事案
Aに対する有罪判決が確定した
Aは犯罪者として縁戚者に不名誉を及ぼすことになった
Aはこれを回避するために名の変更を申し立てた
い 裁判所の判断
正当事由がない
→変更を許可しなかった
※大阪高裁昭和32年2月15日
3 ステルス前科ロンダリングとしての名の変更
名の変更一般にいえることとして,『前科ロンダリング』の目的を隠していることがあり得ます。
主張としては他の事情を挙げているケースでも『前科ロンダリング』の目的で制度を悪用される可能性に配慮すべきであると指摘されています。
<ステルス前科ロンダリングとしての名の変更>
あ 前科照会における氏名の特定
前科の照会において
→氏・名・生年月日が重要な要素である
名の変更をした場合
→前科の照会に支障が生じることがある
い 前科ロンダリングリスク
名の変更について
犯罪の訴追を免れる手段として悪用されるおそれがある
う 名の変更の判断における注意
名の変更許可の審理において
前科ロンダリングリスク(い)の調査について
慎重を期する必要がある
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p516
4 前科ロンダリングと調査方法
名の変更の審理では,前科ロンダリングへの配慮を要するという指摘があります(前記)。
実際にどのように調査すべきかという点では,画期的な方法はありません。
<前科ロンダリングと調査方法>
あ 犯罪経歴証明書
名の変更の審判では利用できない(後記※1)
い 調査/文書送付嘱託
家裁が検察庁に前科を照会する方法について
高度のプライバシーを含む情報である
審理における必要性がそこまで高くない
→通常は家裁は調査/文書送付嘱託を実施しない
5 前科ロンダリングと犯罪経歴証明書
犯罪経歴書には前科の履歴が掲載されています。
前科の内容や,あるいは前科がないことが確実に判明します。
しかし,犯罪経歴書は名の変更の審理のために取得することはできません。
<前科ロンダリングと犯罪経歴証明書(※1)>
あ 犯罪経歴証明書
犯罪経歴証明書を警察が発給する制度がある
犯罪経歴証明書には前科が記載される
→『前科がない』ことも証明できる
発給の目的が限定されている(い)
い 犯罪経歴証明書の発給の目的
外国の公的機関から提出を求められている
例;大使館・移民局など
※外務省設置法4条8〜10号,12〜14号,27号
※国家行政組織法2条2項
※警察庁刑事局長平成21年7月7日警察庁丙鑑発12号,丙刑企発20号
う 名の変更の審判における利用
名の変更の家裁の審判で利用することについて
→犯罪経歴証明書の発給の要件(い)を満たさない
→利用できない
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