【養育費や婚姻費用の増減額の裁判例の集約(事情の変更の典型例)】

1 養育費や婚姻費用の増減額に関する裁判例の集約
2 再婚による養育費の増減額(概要)
3 父の再婚+減収による養育費減額(肯定・概要)
4 親からの援助の打ち切りによる養育費の減額(肯定)
5 物価の上昇による養育費の増額(肯定)
6 子の就学による養育費の増額(否定)
7 資産価値の変化による養育費の減額(否定)

1 養育費や婚姻費用の増減額に関する裁判例の集約

養育費や婚姻費用分担金がいったん決まった後に,状況が変化した場合,増額や減額が認められることがあります。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準
判断基準はある程度抽象的で,具体的事案において,変更が認められるかどうかをはっきり判定できないことも多いです。
これについては,増減額の請求を判断した実例がとても参考になります。
本記事では,養育費などの増減額について判断した裁判例を紹介します。

2 再婚による養育費の増減額(概要)

離婚が成立した後の養育費については,父か母(夫・妻)が再婚すると増減額につながりやすいです。
実際の再婚のケースでは,その後,新たな子が産まれたり,また,元夫婦の間の子と再婚相手が養子縁組をすることもよくあります。
このように,再婚に伴う事情によって経済的状況が大きく変化するケースが多いのです。
再婚に関係する典型的な事情と養育費の変更との関係については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|離婚後に父か母が再婚すると養育費の変更が認められることがある

3 父の再婚+減収による養育費減額(肯定・概要)

再婚は養育費の増減額につながる典型例の1つです(前記)。
これとは別に,収入の変化も養育費の増減額につながります。
これらの両方の事情があった事例について,養育費の減額を認めた裁判例があります。

<父の再婚+減収による養育費減額(肯定・概要)>

あ 事情の変更

父(扶養義務者)の収入が激減した
父が再婚している

い 裁判所の判断

養育費の減額を認めた
※山口家裁平成4年12月16日
詳しくはこちら|父の再婚+子の誕生+大幅減収による養育費減額(肯定裁判例)

4 親からの援助の打ち切りによる養育費の減額(肯定)

両親からの援助がなくなるという事情が想定外であった事例です。
結果的に,裁判所は養育費の減額を認めました。

<親からの援助の打ち切りによる養育費の減額(肯定)>

あ 養育費の合意の前提

父(扶養義務者)の収入に比べて高額の養育費を合意した
父は両親から援助を受けることが前提となっていた

い 両親の援助の打ち切り

合意後に,父は,両親からの援助が期待できなくなった

う 裁判所の判断

養育費の減額を認めた
※東京家裁平成18年6月29日

5 物価の上昇による養育費の増額(肯定)

物価の上昇という,当事者自身に関するわけではない事情も養育費の変更につながります。

<物価の上昇による養育費の増額(肯定)>

あ 物価の上昇

養育費の金額が確定した後に
物価が大きく上昇した

い 裁判所の判断

養育費の増額を認めた
※東京高裁昭和50年7月9日

6 子の就学による養育費の増額(否定)

子の就学による養育費用の増額を理由として,母が養育費の増額を請求した事例です。
この事情は当然生じるものであり,想定内のものといえます。
そこで,裁判所は養育費の増額を認めませんでした。

<子の就学による養育費の増額(否定)>

あ 子の就学

子が学齢期に達し,就学することとなった
教育費がかかるようになった
養育費用が増加することになった
母は養育費の増額を請求した

い 裁判所の判断

子の就学により養育費用は多少増加する
この事情は,養育費の決定に際して十分考慮された
→養育費の増額を認めなかった
※福島家裁昭和46年4月5日

7 資産価値の変化による養育費の減額(否定)

収入ではなく,資産価値の変化を理由にした養育費の減額請求です。
毎月の生活費には影響がないため,養育費の減額は認められませんでした。

<資産価値の変化による養育費の減額(否定)>

あ 資産価値の変化

母が子を監護していた
母の資産価値が変化した
父は養育費の減額を請求した

い 裁判所の判断

可処分所得が増加するわけではない
→養育費の減額を認めなかった
※広島家裁平成11年3月17日

本記事では,養育費や婚姻費用分担金の増減額を判断した実際の裁判例を紹介しました。
当然ですが,実際の事例では,多くの個別的な事情があり,似ている事案でも,主張や立証のしかた次第で,違う結論となることはよくあります。
実際に,養育費や婚姻費用分担金の増減額の問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ

財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表

Case Study ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、離婚費用、養育費の高額算定表 三平聡史 Satoshi Mihira [著] 日本加除出版株式会社

三平聡史著の書籍が発売されました。

高額所得者の場合の財産分与、婚姻費用・養育費算定はどうなる? 標準算定表の上限年収を超えたときの算定方法は? 54の具体的ケースや裁判例、オリジナル「高額算定表」で解説!

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【養育費や婚姻費用を将来増減額させる合意は慎重に解釈される】
【父母間の養育費とは別に子自身による扶養料の請求ができる】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00