【婚約破棄の正当な理由がない(慰謝料あり)と判断した裁判例】
1 婚約破棄の正当な理由がないと判断した裁判例
2 明確な理由のない再度の婚約破棄→正当な理由なし
3 母親の反対を口実にした婚約破棄→正当な理由なし
4 母親の反対による婚約破棄→正当な理由なし
5 別の異性の性的関係による婚約破棄→正当な理由なし
1 婚約破棄の正当な理由がないと判断した裁判例
婚約が成立した後に,正当な理由がないのに婚約を破棄した者は慰謝料の賠償責任を負います。
正当な理由の判断基準はありますが,抽象的であり,実際の事案についてはっきり判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|婚約を破棄しても慰謝料が発生しない正当な理由の具体例や判断基準
本記事では,婚約破棄の正当な理由を認めなかった(慰謝料を認めた)裁判例を紹介します。
実際の事案について判断する際,とても役立ちます。
2 明確な理由のない再度の婚約破棄→正当な理由なし
いろいろな経緯があったけれど,結局,婚約を破棄した明確な理由はなかったケースです。
当然,正当化できない,つまり正当な理由はないと判断されました。
<明確な理由のない再度の婚約破棄→正当な理由なし>
あ 婚約の成立と破棄
男性Aと女性Bが婚約した
Bの気が強かった
これを理由にAが婚約を解消(破棄)した
い 婚約解消の撤回
晩酌人が説得した
Aは婚約解消を撤回した
A・Bは,いったん事実上の夫婦生活に入った
う 再度の婚約破棄
改めて男性が婚約を解消(破棄)した
え 賠償責任の判断
Aの行動は自己本位である
婚約の継続を不可能とするものではない
→Aは賠償責任を負う
※東京地裁昭和32年5月6日
3 母親の反対を口実にした婚約破棄→正当な理由なし
男性が婚約を破棄し,理由として母親の反対を挙げました。
しかし実情としては,単に婚約男性本人の気が変わったに過ぎないものでした。
当然,正当な理由とはいえません。
<母親の反対を口実にした婚約破棄→正当な理由なし>
あ 婚約成立と性交渉
男性Aと女性Bは婚約した
婚約成立後,A・Bは性交渉をもった
以後しばしば繰り返された
い 婚約破棄
突然,Aは婚約を破棄した
理由としてAの母親の同意が得られず,説得もできないことを説明した
う 賠償責任の判断
婚約破棄の理由は口実にすぎない
正当な理由はない
→Aは賠償責任を負う
※東京地裁昭和32年7月15日
4 母親の反対による婚約破棄→正当な理由なし
婚約男性の母親が実際に結婚に反対したケースです。
これだけでは,婚約破棄を正当化できません。
なおこのケースでは,母親にも慰謝料の賠償責任が認められました。
<母親の反対による婚約破棄→正当な理由なし>
あ 婚約の成立
男性Aと女性Bは婚約した
い 婚約の破棄と撤回
AはBに対して不満があった
AはBに婚約撤回を申し出た
Aはその直後にこれを撤回した
う 母親の反対による再度の婚約破棄
その後,Aの母がAに婚約を解消するよう強く説得した
最終的に改めてA側から婚約を破棄した
え 再度の破棄の直前の状況
Aは再度の婚約破棄の前日まで結婚に向けた準備をしていた
お 慰謝料についての判断
婚約破棄の正当理由はない
→Aは400万円の慰謝料支払義務を負う
か 破棄に関与した母の責任(参考)
Aの母は婚約破棄に主体的に関わった
→Aの母の責任も認められた
※徳島地裁昭和57年6月21日
詳しくはこちら|母の反対による婚約破棄→慰謝料400万円+財産的損害賠償を認めた裁判例
5 別の異性の性的関係による婚約破棄→正当な理由なし
婚約男性が,婚約相手以外の女性と交際(性的関係)するに至り,婚約を破棄したというケースです。
夫婦であれば不倫(不貞)にあたる行為です。
当然,このような婚約破棄は明らかに身勝手であり,正当な理由とはいえません。
このケースではさらに,交際相手の女性にも慰謝料の賠償責任が認められました。
<別の異性の性的関係による婚約破棄→正当な理由なし>
あ 婚約の成立と破棄
男性Aと女性Bが婚約した
Aが婚約相手以外Cの者との交際(性的関係)を行った
これによって婚約を破棄した
い 正当な理由の判断
正当な理由はない
う 責任の内容
婚約の継続期間は約3か月であった
→慰謝料は100万円とする
このうち30万円はCも連帯して賠償責任を負う
財産的損害の賠償責任も認められた(約221万円)
※東京地裁平成17年3月17日
詳しくはこちら|異性との交際による婚約破棄→慰謝料100万円と財産的損害賠償を認めた裁判例
本記事では,婚約破棄の正当な理由がない(慰謝料が生じる)と判断した裁判例を紹介しました。
とても参考になりますが,実際の案件にストレートに合致することはありません。
細かい事情の違いによって,逆の結論となることもあります。
実際に婚約破棄の責任の有無(正当な理由)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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