【別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例(有責配偶者の離婚請求認容)】
1 別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例
2 形式的状況と有責行為
3 別居中の夫婦の関係・実情
4 共同生活の意思の喪失(破綻)の認定
5 夫による経済的負担の内容
6 最終判断(有責配偶者の離婚請求認容)
7 別居中の夫婦の交流により離婚が否定された裁判例(概要)
1 別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例
不貞(不倫)をした者が離婚を請求したケースで,離婚が認められるためには,夫婦関係の破綻や長期間の別居などの要件をクリアすることが条件(要件)となります。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断
26年間夫婦が別の場所に暮らしていましたが,その間に夫と妻が継続的に会っていたという事例があります。最終的に裁判所は,夫婦間の交流は形式だけであって,夫婦関係は破綻していて,長期間の別居があるといえる,と判断し,離婚を認めました。
本記事では,この裁判例を紹介します。
2 形式的状況と有責行為
まず,この事案の同居と(形式的な)別居の期間と夫婦の年齢をまとめます。
また,夫に有責性があることははっきりしています。
<形式的状況と有責行為>
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
24年 | 26年 | 84歳 | 78歳 |
い 有責行為
夫と妻は結婚・挙式の後から大阪で同居を始めた
夫は,結婚当初は不動産仲介業を営んでいた
戦後,夫は闇市でぜんざい屋などの商売を始めた
夫は闇市の商売に成功し,その後順調に事業を拡大していった
夫は雇用した女性Aと不貞関係を持ち,その後夫と女性Aの間に子Bが誕生した
※大阪高裁平成4年5月26日
3 別居中の夫婦の関係・実情
夫と妻が別の場所で暮らすようになった後の状況は,ごく一般的な別居とは違っていました。継続的に自宅で会って,寝泊まりもあったのです。
要するに,夫が別の女性やその子という別の家庭と元の家庭の2つを維持していたような状況です。離婚に向けた家裁の調停が始まった後も夫は妻の家に行って寝泊まりすることを続けていました。
<別居中の夫婦の関係・実情>
あ 事実上の一夫多妻状態
夫の不貞関係は妻に知れた
夫は,『浮気は男の甲斐性である』として女性Aとの関係を解消せず,女性Aのもとで寝泊まりすることが多かった
しかし,夫婦は,週末には自宅に帰ることを約束した
実際に夫は約束を守って週末は自宅で妻や子供らと過ごし,それ以外にも自宅に帰ることもあった
い 2つの家庭の自宅の購入
夫は,妻名義で大阪に土地建物を購入し,これ自宅として,妻,子2人,夫の母と同居した
しかし,夫は女性Aとの不貞関係も継続した
その後,夫は女性Aのために住居を購入し,従来と同様に,自宅と女性Aの住居を行き来する生活を続けた
う 婚姻外家庭の結束(状況・会社経営)
女性Aは,夫の妹と養子縁組をした
女性Aと子Bは夫と同じ苗字になった
夫は女性A・子Bとともに東京に転居し,女性Aとともに飲食店の経営を始めた
え 正妻の住む自宅での寝泊まり
一方,夫は,大阪のD地区の商店連合会や開発協議会の会長職にあったことから,これらの仕事のため,月1,2回程度は大阪に来ていた
そして,これらの役職として,地元である大阪を本拠としている体裁をとる必要があり,また,妻の住む建物は自分の家であるという意識も強かったことから,大阪に来た際は,妻の居住する建物に泊まるのを常としていた
妻は,夫が泊まった際には,風呂の用意や身の回りの世話をしたが,寝室は別であり,夫婦関係はなかった
お 正妻家族の交流の継続
夫は,毎年の正月には妻の住む建物で妻や2人の子と過ごしており,夫の母の法事も妻の住む建物で営まれた
か 正妻家族の交流の解消
妻は,2人の子が相次いで結婚してそれぞれ別居独立してからは,自宅に1人で居住していた
夫が妻の居住する建物に寝泊まりすることは継続していた
妻は夫から招かれたことはない
妻が自ら夫のもとへ赴いたこともない
妻は,夫の生活や事業の様子についてはほとんど知らなかった
き 調停申立後
夫は,夫婦関係調整調停を申し立てた
調停係属中も,夫は調停期日出頭やその他の用事で大阪に来たときは,妻の住む建物に宿泊していた
※大阪高裁平成4年5月26日
4 共同生活の意思の喪失(破綻)の認定
前記のように別居とは言っても,夫婦(や家族)が会うこと自体は続いていました。そこで,夫婦関係が破綻したといえるのか(一般的な別居と同じ扱いができるか)ということが問題となりました。
裁判所は,夫が東京に転居した後の状況については,夫と妻が共同生活をする気持ちがなくなっていたと判断しました。この夫と妻の気持ち(を示すような行動)が決め手となり破綻しているという結論になったのです。
<共同生活の意思の喪失(破綻)の認定>
あ 同エリアでの居住(大阪時代)
夫が東京に転居するまでは
女性Aとの不貞関係を継続しながらも,妻との約束に基づいて週末には必ず妻の居住する自宅に帰って生活していた
→夫婦の共同生活の実体は保たれていた
い 遠隔エリアでの居住(東京時代)
夫が東京に転居した際は,女性A・子Bのみを同伴し,その後は一貫して女性Aらとともに東京を本拠として生活している
う 夫の共同生活意思
夫は,東京への転居以降は,妻との共同生活の意思を完全に喪失していた
え 妻の共同生活意思
妻においても,夫が自宅を訪れた際に受動的に身の回りの世話をするのみにとどまり,夫に対して夫婦としての共同生活の回復を働きかけた形跡は全くない
妻も夫と夫婦として同居する生活を復活させることを断念し,婚姻共同生活を継続する意欲を失っていた
※大阪高裁平成4年5月26日
5 夫による経済的負担の内容
有責配偶者からの離婚請求が認められるためには,破綻や長期間の別居以外にも,特段の事情がないことも必要です。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
特段の事情の判断の中では,経済的な負担が重視されます。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断
この事案では,夫は自宅の土地建物の実質的な譲渡と,離婚後の生活費として1億5000万円の提供を提示していました。
裁判所は,このような負担は十分であると判断しました。離婚を否定するような特段の事情はないという意味です。
<夫による経済的負担の内容>
あ 生活費負担(婚姻費用)
夫は,東京に転居した後も妻の生活費を負担している
い 名目上の役員報酬
現在は,夫と(妻との間の)長男(専務取締役)が経営している会社から給与名目で妻に月額30万円を支払い,その他公共料金を別途負担している
う 扶養的財産分与の提示
夫は,離婚が成立した場合の被控訴人の生活の保障のために1億5000万円を妻に支払うとの提案を行っている
夫の代理人が夫から1億5000万円を預かり,代理人名義の預金口座に保管している
え 自宅の財産分与
夫は,現在妻が居住する大阪音土地建物(評価額約5億6000万円)について,離婚が成立した場合には所有権を主張せず,妻の所有とする旨言明している
※大阪高裁平成4年5月26日
6 最終判断(有責配偶者の離婚請求認容)
以上のように,夫婦関係の破綻や長期間の別居はあると判断され,また,特段の事情もないと判断されました。
結論として,有責性のある夫からの離婚請求が認められました。
<最終判断(有責配偶者の離婚請求認容)>
あ 有責性
破綻の責任はもっぱら夫にある
い 長期間の別居(破綻)
夫が東京に転居した以降は,夫婦としての共同生活の実体を欠き,既に破綻していた
夫は,もっぱら東京を本拠として女性Aとの内縁関係を継続していた
夫が妻の居住する大阪の建物へ立ち寄り宿泊する事実はあったものの,別居状態と評価すべきものである
別居期間は既に26年余に達しており,相当の長期間に及んでいる
う 未成熟子の不存在
未成熟の子はいない
え 特段の事情の不存在(苛酷条項)
妻も既に夫との婚姻共同生活の継続の意思を失っている
離婚後の妻の生活の保障について夫から相応の提案がなされている
従前の生活状況からみても,離婚によって妻の住宅や生活費に不自由をきたすことはないと考えられる
→夫の本件離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情は認められない
お 結論
夫の離婚請求を認めた
※大阪高裁平成4年5月26日
7 別居中の夫婦の交流により離婚が否定された裁判例(概要)
本記事で紹介した事例と同じように,別居中に夫婦の交流があったけれど,違う結論になった裁判例があります。夫婦の相互に愛情があったために離婚請求が認められなかったというものです。
詳しくはこちら|別居中の夫婦の交流により破綻を否定した裁判例(有責配偶者の離婚請求棄却)
本記事では,別居中の夫婦の交流があったけれど,夫婦に共同生活をする気持ちがなかったと評価され,離婚が認められた裁判例を紹介しました。
実際には,細かい事情の違いや,主張や立証のやり方次第で結論が変わることもあります。
実際に有責性のある者の離婚請求に関する問題に直面している方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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