【婚姻費用分担金の金額の上限(月額100万円という上限の有無)】
1 婚姻費用分担金の金額の上限
年収が一定の金額を超えると、標準的算定方式(を元にした簡易算定表)で婚姻費用の金額を計算することができなくなります。そこで、別の計算方法を使うことになります。
詳しくはこちら|高額所得者の婚姻費用の金額計算の全体像(4つの算定方式と選択基準)
標準的算定方式とは別の計算方法を使いますが、いずれにしても年収がとても大きくなってくると、計算結果、つまり婚姻費用分担金の金額もとても高くなります。
ここで、義務者の収入とは関係なく、婚姻費用の金額(絶対額)の上限を設定すべきではないか、という問題があります。
本記事ではこの問題について説明します。
2 月額100万円の上限の指摘
まず、岡氏は、婚姻費用の上限として月額100万円くらいではないか、というコメントを残しています。理由は、過去の審判例が出した金額の分布としてそのくらいの金額におさまっている、ということと、婚姻費用の性質を挙げています。
月額100万円の上限の指摘
※岡健太郎稿『養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題』/『判例タイムズ1209号』2006年7月p9
3 生活保持義務の性質と養育費上限の関係(上限否定)
前述の岡氏のコメントに対して、日弁連の委員会は、養育費の性質は生活保持義務であるのだから、義務者と権利者の生活水準が同程度になるべきである、という原理から、養育費の上限を設定することには反対する方向の見解を示しています。つまり、義務者の年収が上がるにつれて権利者にわたす金額が上がり続けるのは原理から導かれるということです。
生活保持義務の性質と養育費上限の関係(上限否定)
婚姻費用は、権利者世帯について、義務者と同程度の生活水準を保持させるという生活保持義務に基づいて分担されるものであるから、上限を設けることには慎重であるべきと考えられる。
子がある場合に慎重であるべきことは、養育費の上限と同様である。
※日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会編著『養育費・婚姻費用の新算定表マニュアル』日本加除出版2017年p57
この中で言及されている、養育費の上限(を設定すべきではない)については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|高額所得者の養育費の金額(基準の不存在・上限の有無・実例の傾向)
4 実情・現実と養育費上限の関係(上限否定方向)
前述の岡氏のコメントへの批判はほかにもあります。岡氏は過去の審判例も理由に挙げていましたが、実際に婚姻費用(生活費)として毎月100万円以上が支払われているケースも少なくない、という指摘です。確かに、当事務所の取り扱い案件も含めて、(審判としてかどうかは別として)婚姻費用として月額100万円以上を支払っているケースや、また、100万円以上を取り決めたというケースもあり、それほど珍しいものではないと思います。
実情・現実と養育費上限の関係(上限否定方向)
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p146
結局、以上のように、婚姻費用の金額の上限については、必ず適用すべきなのかそうではないのか、ということについて統一的な見解があるわけではありません。
本記事では、婚姻費用分担金の上限の問題について説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に100万円程度に達する婚姻費用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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