【婚姻費用の審判手続における有責性の審理方法(暫定的心証による判断)】
1 婚姻費用の審判手続における有責性の審理方法
2 婚姻費用の審判手続における有責性の審理
3 不貞の強い疑い→婚姻費用を減額した裁判例
4 不貞の疑い→婚姻費用の減免を否定した裁判例
1 婚姻費用の審判手続における有責性の審理方法
夫や妻の有責性が,婚姻費用の請求ができるかどうか,や請求できる金額に影響を与えることがあります。
詳しくはこちら|婚姻費用と有責性との関係(減額される傾向や減額の程度)
そこで,家庭裁判所の婚姻費用の審判手続で,有責性の有無を判断することがあります。とはいっても,有責性を判断することは,婚姻費用の審判の性格から大きく外れます。
本記事では,婚姻費用の審判で有責性を審査する方法について説明します。
2 婚姻費用の審判手続における有責性の審理
婚姻費用の審判が行われるのは,通常,夫婦の間で必要な生活費が支払われていない状況です。そこで,適切な金額を決めることだけに絞って,収入などの経済力に関する資料だけで判断することで,とにかく早く結論を出すことが求められます。
この点,不貞(不倫)などの有責性を判断するには,いろいろな証拠を元にして,さらに夫と妻の主張(弁解)も慎重に考慮する必要があります。本来の迅速性の要請に反します。
そこで,婚姻費用の審判では,最小限の資料から大雑把に有責性を判断することになります。仮に有責性の判断が誤っていたら,婚姻費用の金額も誤っていたことになります。そのような場合は,その後,離婚が成立した時の財産分与として過不足を調整することができます。
<婚姻費用の審判手続における有責性の審理>
あ 審理の程度(方法)
婚姻費用の審判では,事案の解明より迅速処理を優先させるべきである
当事者や関係者を直接審尋する手続のために長時間を費やすことは適切な審理方法ではない
調査官調査,陳述書提出なども必要ない
い 心証形成の程度
暫定的な心証から婚姻費用を判断する
う 事後的な事実認定と清算
今後の手続において不貞関係の事実が認定された場合
過去の婚姻費用が不適切であったことが判明する(ことになる)
→清算的財産分与の問題として解決することが可能である
詳しくはこちら|財産分与における過去の生活費負担の過不足(未払い婚姻費用)の清算
※大阪高裁平成20年9月18日
※大阪高裁平成21年4月27日
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p33,34
3 不貞の強い疑い→婚姻費用を減額した裁判例
前記のように,婚姻費用の審判では,有責性を大雑把に判断します。大雑把な判断の内容は,実例をみた方が理解しやすいです。
まず,不貞の疑いが強い状況であったので,不貞があったものと認めて,これを前提に婚姻費用の金額を減額した裁判例を紹介します。
妻の不貞が疑われたケースです。妻の弁解の内容がおかしかったため,より不貞をしたという印象が強くなったように思えます。
<不貞の強い疑い→婚姻費用を減額した裁判例>
あ 事案
夫が,妻の不貞を強く疑って家を出たことによって別居となった
い 不貞関係の判断
疑いをもったことについて,それなりの客観的根拠があったと評価できる
一方,妻の弁解は具体性がない抽象的なものにとどまる
う 婚姻費用の判断(結論)
『い』の暫定的心証を前提に判断する
→子らの養育費相当額についてのみ請求を認める
※大阪高裁平成20年9月18日
4 不貞の疑い→婚姻費用の減免を否定した裁判例
前記の裁判例と似ていて,妻の不貞が疑われる状況でした。正確には,別居後に妻が(夫以外の)男性と一緒に宿泊していたことははっきりしていました。性的関係があったといえます。しかし通常,別居の前に性的関係がないと不貞(有責)とはいえません。
詳しくはこちら|不貞行為は離婚原因|基本|破綻後の貞操義務・裁量棄却・典型的証拠
結局,不貞といいきれるかどうかをはっきり判断できない状態でした。
そこで,裁判所は,不貞はないことを前提として婚姻費用を算定しました。つまり,有責性による減額をしなかったということです。
<不貞の疑い→婚姻費用の減免を否定した裁判例>
あ 事案
別居後2か月の時点で妻が男性の自宅で宿泊していた
い 不貞関係の判断
別居以前においても不貞関係があった可能性は拭えない
事実を認定するまでの証拠はない
う 婚姻費用の判断(結論)
『い』の暫定的心証を前提に判断する
→婚姻費用分担義務を信義則によって減免すべき事情はない
※大阪高裁平成21年4月27日
本記事では,婚姻費用分担金の審判における有責性の審理(判断)の方法について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に婚姻費用に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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