【婚姻関係の「破綻」の基本的な意味と判断基準】

1 婚姻関係の「破綻」の基本的な意味と判断基準
2 「破綻」が問題となる状況と共通性(概要)
3 民法770条1項5号の条文
4 昭和62年判例の「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容
5 「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容に関する学説
6 「破綻」の判断における考慮事項
7 「破綻」の判定の特徴(判定のブレ)
8 「破綻」の基本的(客観的)判断基準
9 「破綻」を認定できる典型事情=別居

1 婚姻関係の「破綻」の基本的な意味と判断基準

離婚やいわゆる不倫の慰謝料に関して,婚姻関係(夫婦関係)が「破綻」しているかどうかが大きな問題となることがあります。
本記事では,「破綻」の基本的な意味や判断基準について説明します。
なお,基本的に離婚原因の「破綻」について説明しますが,別の状況における「破綻」も共通です。

2 「破綻」が問題となる状況と共通性(概要)

「破綻」が問題なる状況とは,具体的には,離婚が認められるか(離婚原因),有責配偶者にあたるか(離婚原因),いわゆる不倫の慰謝料が発生するか,婚姻費用分担金を加減すべきかというものです。
それぞれの状況における「破綻」は同じ意味(判断基準)であるといえます。
詳しくはこちら|婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と判断基準の共通性
以下,離婚原因としての「破綻」について説明しますが,他の状況における「破綻」も共通なのです。

3 民法770条1項5号の条文

「破綻」は,条文に出てくるわけではありません。離婚原因の1つである「婚姻を継続し難い重大な事由」の解釈として出てきます。まずは条文そのものを押さえておきます。

<民法770条1項5号の条文>

第七百七十条 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
・・・
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

4 昭和62年判例の「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容

昭和62年判例が,「婚姻を継続し難い重大な事由」とは婚姻関係の「破綻」であることと,その「破綻」の中身を示しています。
要するに「夫婦としての共同生活が回復する見込みがまったくない状態」とされています。

<昭和62年判例の「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容>

あ 判決文引用

以上のような民法770条の立法経緯及び規定の文言からみる限り,同条1項5号は,夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり,その回復の見込みがなくなつた場合には,夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて,同号所定の事由(以下「5号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない。
・・・
思うに,婚姻の本質は,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから,夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに,夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり,その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には,当該婚姻は,もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり,かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは,かえつて不自然であるということができよう。
※最判昭和62年9月2日

い 判決文の読み取り

・・・最高裁大法廷昭和62年9月2日判決は,「婚姻の破綻」を定義しており,これによると,婚姻の破綻とは,夫婦の一方または双方が,永続的な精神的・肉体的結合を目的として共同生活を営む意思を確定的に喪失しており,かつ,夫婦としての共同生活の実体を欠いており,その回復の見込みが全くない状態を意味する。
※神谷遊稿/二宮周平編『新注釈民法(17)親族(1)』有斐閣2017年p468

5 「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容に関する学説

一般的な学説も,言い回しは違いますが,昭和62年判例と同じような指摘をしています。

<「婚姻を継続し難い重大な事由」=破綻の内容に関する学説>

あ 新注釈民法

通説は,より端的に「婚姻を継続し難い重大な事由」とは「婚姻関係が破綻し,回復の見込みがない状態」とする
※神谷遊稿/二宮周平編『新注釈民法(17)親族(1)』有斐閣2017年p467

い 新版注釈民法

「婚姻を継続し難い重大な事由」とは何かについては解釈の幅がありうるが,中核部分は婚姻の不治的破綻(婚姻関係が深刻に破綻しており,回復の見込みがないこと)であることについて,大方の意見は一致している。
その意味で,本号は,婚姻破綻を離婚原因とした規定(破綻離婚の規定)であるといえる。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p374
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは,一般に,婚姻関係が深刻に破綻し,婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合をいうものと解されている。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p375

6 「破綻」の判断における考慮事項

「破綻」の意味は「共同生活の回復の見込みがない」ことなので,実際の事案でこの判断をする場合には,広範囲の細かい事情を考慮することになります。

<「破綻」の判断における考慮事項>

(「婚姻を継続し難い重大な事由」(=破綻)について)
その判断にあたっては,婚姻中における両当事者の行為や態度,婚姻継続意思の有無,子の有無・状態,さらには双方の年齢・性格・健康状態経歴職業資産状態など,当該婚姻関係にあらわれたいっさいの事情が考慮される。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p375

7 「破綻」の判定の特徴(判定のブレ)

「破綻」の意味は「共同生活の回復の見込みがない」ことなので,判断しようとすると,評価の部分が大きく,判断する者の価値観で判定結果に違いが出てきます。最終的には訴訟で裁判官が判断しますが,性質上,どうしてもブレは大きいといえます。

<「破綻」の判定の特徴(判定のブレ)>

あ 新注釈民法

・・・「破綻」は規範的要件事実(評価的要件事実)といわれる。
その結果,・・・,婚姻破綻の認定判断について,裁判官による違いが出てくることも避けられないし,・・・
※神谷遊稿/二宮周平編『新注釈民法(17)親族(1)』有斐閣2017年p470

い 新版注釈民法

「婚姻を継続し難い重大な事由」というのは婚姻の不治的破綻を意味する(前述)。
「焼け棒杭に火がつく」といった場合まで含めて考えると,婚姻を継続しがたいかどうかは,厳密にはほとんど判定不可能であるともいえる。
裁判官としては至難の判断を迫られる場合もあるが,経験則と社会通念に従って判断するほかはない。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p380

8 「破綻」の基本的(客観的)判断基準

「破綻」しているかどうかは,客観的に判断します。当事者の気持ち(主観)も判断材料に含めますが,判断基準としては,平均的な人が夫(や妻)の立場にあったら離婚するしかないと思うかということになります。

<「破綻」の基本的(客観的)判断基準>

婚姻破綻の有無は客観的に判断すべきものとされる。
ややわかりにくいが,主観的側面(当事者の離婚意思ないし婚姻継続意思の喪失)を考慮しないというわけではなく,それも含めて,客観的にすなわち,第三者の目からみて婚姻の不治的破綻が生じていると認められる場合に離婚が正当化される,ということである。
いいかえると,離婚請求者(原告)の立場に置かれたならば,通常人ならだれしも離婚を求めるに違いないと思われる場合である。
したがって,原告の希望に反して離婚を拒否すべき場合もあることになる。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p380

9 「破綻」を認定できる典型事情=別居

前述のように,「破綻」しているかどうかは,多くの事情を考慮して判断するので,判断が難しいのですが,別居期間が長い場合には,そのことだけで共同生活が回復する見込みがないと判断できることになります。

<「破綻」を認定できる典型事情=別居>

あ 別居による破綻の認定

客観的婚姻破綻を比較的容易に認めることができるのは,夫婦間の別居がすでに始まっている場合である。
そして,それが長期に及んでいればいるほど,破綻の事実は明白となる。
※阿部徹稿/島津一郎ほか編『新版 注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p381

い 破綻を認めるのに必要な別居期間(概要)

離婚原因としての「破綻」が認められる別居期間の目安は3〜5年程度である
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる(離婚が成立する期間の相場)
不法行為責任を否定する「破綻」が認められる別居期間はあまり要求されない
=別居後は「破綻後である」と判断される傾向がある
詳しくはこちら|不貞慰謝料請求(不法行為責任)における「破綻」判定の実例
このような判定の違いから、「破綻」の意味が違うという見解もある(否定する見解もある)
詳しくはこちら|婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と判断基準の共通性

本記事では,婚姻関係の「破綻」の基本的な意味と判断基準について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に離婚や慰謝料,婚姻費用などに関して夫婦間で「破綻」が問題となっている状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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