【不貞相手に対する「離婚慰謝料」の請求】

1 不貞相手に対する「離婚慰謝料」の請求

不貞行為があった場合の慰謝料は、通常は不貞慰謝料ですが、これとは別の種類の、離婚慰謝料というものもあります。もちろん、離婚慰謝料は、不貞が原因で夫婦仲が悪くなって離婚に至ったというケースだけです。
不貞慰謝料と離婚慰謝料を比べると、消滅時効や金額などの点で、請求者(被害者)にとっては離婚慰謝料の方が有利です。
詳しくはこちら|不貞により発生する2種類の慰謝料(不貞慰謝料と離婚慰謝料)・消滅時効の違い
そこで、不貞相手に対して離婚慰謝料を請求したいということになりますが、これは認められない傾向にあります。
本記事では、不貞相手に対する離婚慰謝料の請求について説明します。

2 第三者の離婚慰謝料を認めた最高裁判例

離婚慰謝料というのは、離婚に至ったことによるダメージの賠償です。離婚するかどうかは、夫婦が決めるものなので、通常、夫婦間で請求するものです。
とはいっても、夫婦以外の第三者への離婚慰謝料を認めた最高裁判例も複数あります。ただし、不貞相手ではなく、夫の親のひどい行為で妻がいたたまれなくなって、結果として離婚に至ったというようなケースです。いわゆる嫁いびり(嫁姑問題)です。不貞相手への離婚慰謝料を認めた最高裁判例はみあたりません。

第三者の離婚慰謝料を認めた最高裁判例

あ 嫁いびりケース

ア 判例の件数 いわゆる「嫁いびり」の事案で、内縁関係を破綻させ、解消させた第三者に対する慰謝料請求を認めた最高裁判例はこれまでに3件存在する
※最三小判昭和37年10月23日
※最二小判昭和38年2月1日
※最三小判昭和41年2月22日
イ 具体的事案 夫の父母の言動が原因となって内縁が解消された
夫の実父がXの追出にあたり主動的役割を演じた
社会観念上許容さるべき限度をこえた内縁関係に対する不当な干渉であった
※最二小判昭和38年2月1日

い 不貞ケース

不貞相手に対する離婚慰謝料の請求を認めた最高裁判例は見当たらない
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p192、193

3 不貞相手の離婚慰謝料を認めた下級審裁判例

前述のように、最高裁判例としては、不貞相手の離婚慰謝料を認めたものはありませんが、下級審裁判例ではいくつかあります。
夫と不貞相手(妻以外の女性)が、同棲し、かつ、出産して、まるで家族のように過ごしていた、という、異常極まりないケースがそのリーディングケースです。その後にも、不貞相手への離婚慰謝料請求を認めた裁判例は続いています。

不貞相手の離婚慰謝料を認めた下級審裁判例

あ リーディングケース

夫Aの職場の同僚Yが、Aと肉体関係を結ぶとともに同棲し、子をもうけ、Aの再婚した妻として振る舞うようになった
妻Xによる離婚慰謝料の請求を認めた
※東京高判平成10年12月21日

い 他の裁判例

不貞相手に対する離婚慰謝料の請求を認めた
※東京地判平成14年12月6日
※東京地判平成26年7月29日
※東京地判平成27年9月11日

4 不貞相手の離婚慰謝料を認める基準(平成31年最判)

平成31年に、最高裁が、不貞相手の離婚慰謝料について詳しい判断を示しました。
まず、離婚に至ったダメージを不貞相手に請求することは、原則として否定します。たとえば、夫による不貞行為があっても、夫が謝って心を入れ替えることを誓い、妻がそれを信じて許せば離婚成立という結果は発生しません。つまり、離婚するかどうかは、夫婦の判断で決まるのです。不貞があれば確実に離婚する、とはいえないのです。
これに対し、単なる不貞(男女として親密になる)ことを超えて、夫婦を破綻させることが目的であるような特殊なケースでは離婚に至ったダメージを不貞相手に賠償させるのが妥当です。逆にいえば、このようなケースでない限り、不貞相手の離婚慰謝料を認めない、ということになります。

不貞相手の離婚慰謝料を認める基準(平成31年最判)

あ 原則

夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

い 例外(認める基準)

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
※最判平成31年2月19日

5 不貞相手の離婚慰謝料に否定的な見解

前述の平成31年最判に賛同する、つまり、不貞相手の離婚慰謝料を否定する見解は多いです。その1つを紹介します。
もともと不法行為による損害賠償の機能は、損害の填補であるのに、不貞相手の慰謝料は、損害(ダメージ)の填補よりも報復の色が濃い、と指摘されています。また、結果的に配偶者を取り戻す、または取られることを予防する効果もなく、そもそも、1個人が誰を好きになるかという領域に裁判所が踏み込むこと自体が、倫理・道徳に反する(ある意味「不倫」)である、という指摘です。
平成31年最判も含めて、このような不貞相手の離婚慰謝料を否定する考え方は、(離婚慰謝料ではなく)不貞そのものによる慰謝料を否定する見解がベースになっています。不貞慰謝料を否定する方向の見解については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不倫の責任に関する見解は分かれている(4つの学説と判例や実務の傾向)

不貞相手の離婚慰謝料に否定的な見解

あ 意地・嫌がらせ・報復の目的(損害填補ではない)

それでは、この局面を不法行為損害賠償制度の機能の側面から眺めた場合はどうか。
損害填補機能については、仮に不貞の相手方に対する離婚慰謝料の請求が認められるとして、それにより填補される損害は他方配偶者の精神的苦痛ということになるが、他方配偶者が不貞の相手方から離婚慰謝料を受け得るということは一方の配偶者が自分の許から去ったこと、愛情的利益の享受者として敗れ去ったことを意味し、離婚慰謝料を受け取ることにより精神的苦痛が一層増幅されないとも限らず、そこには意地や嫌がらせ、報復感情といったものすら見受けられ、損害の填補としての妥当性を欠く。

い 不貞配偶者の奪還の機能(否定)

不貞行為は通常、当事者の個人的な愛情や性的自由による。
その際他方配偶者に、その自由を無視しても不貞配偶者の奪還を認めることが最も適切な解決方法のようにもみえるが、離婚の場合、もはやこのような方法は想定できない上、そもそもこのような方法自体非現実的、非道徳的である。

う 不貞予防機能(否定)

さりとて個人的な愛情や性的自由による不貞行為につき不貞の相手方に対する離婚慰謝料の請求を認めることで予防的(抑止的)機能を期待できるともおよそ思われない

え 法的(公的)制裁・懲罰の非倫理性・非道徳性

仮に不貞の相手方に制裁的(懲罰的)な意味において離婚慰謝料の支払を強制できるとして、その結果どのような権利・利益が保護、実現されるかも疑問である。
本来男女間の情交関係は、未婚者同士の恋愛関係にせよ、不倫関係にせよ、当事者の極めて個人的な愛情による自由意思に基づいていることから、そもそも法的規制には馴染みにくい倫理的、道徳的な性質を帯びている。
だとすると、その処理も法的規制にではなく倫理・道徳による統制に委ねるべきであり、裁判所がその処理にしかも制裁的(懲罰的)な意味合いで関与できるとすればこれほど非倫理的、非道徳的なことはあるまい。
当事者の自由意思に基づく不貞行為それ自体を違法な加害行為とみて不貞の相手方に離婚慰謝料の支払義務を課することで公権的に制裁(懲罰)する意義は全くない
※石松勉稿/『新・判例解説Watch 速報判例解説25号』日本評論社2019年10月p95、96

本記事では、不貞相手に対する離婚慰謝料の請求について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や、最適な対応方法は違ってきます。
実際に、不貞などの夫婦に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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