【身分行為(婚姻・養子縁組・協議離婚)の無効の訴えの性質論(実務は確認訴訟説)(解釈整理ノート)】
1 身分行為(婚姻・養子縁組・協議離婚)の無効の訴えの性質論(実務は確認訴訟説)(解釈整理ノート)
身分行為について無効を主張する訴訟を行うことはよくあります。具体的には、婚姻や養子縁組、協議離婚の届出が役所に提出されているが、無効である、という主張です。このような身分行為の無効を主張する訴訟の性質については、複雑な議論があります。性質論の結論によって、実際の案件で選択する手続の種類が違ってきます。
本記事では、身分行為の無効の訴えの性質論を整理しました。
2 婚姻無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
婚姻無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
あ 当然無効説(確認訴訟説、判例・通説)
無効確認の判決や審判がなくても婚姻は当然に無効であるとする見解
利害関係者は他の訴訟の前提問題として無効を主張可能である
婚姻無効の訴えは「無効確認の訴え」となる
※最判昭和34年7月3日民集13巻7号905頁
い 形成無効説(形成訴訟説、訴訟法学者の多数説)
無効を宣言する判決や審判がなければ婚姻無効を主張できないとする見解
婚姻無効の訴えは「形成の訴え」となる
3 養子縁組無効
(1)養子縁組無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
養子縁組無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
あ 当然無効説(判例)
縁組無効は当然に無効であり、確認訴訟となる
無効確認判決に形成力はない
※大判昭和15年12月6日民集19巻2182頁
※最判昭和38年12月24日刑集17巻12号2537頁
※最判昭和56年11月13日判時1026号89頁
い 形成訴訟説(有力説)
縁組無効の訴えは形成訴訟である
判決確定によって初めて縁組無効の取扱いが可能になる
身分関係の画一的処理の観点から届出があれば尊重すべきとする
(2)確認訴訟説による主張のバリエーション
確認訴訟説による主張のバリエーション
(ア)縁組無効確認の訴えの提起 ※無効確認の利益がある限り提起可能
(イ)他の訴訟における抗弁としての主張 ※大判昭和15年12月6日民集19巻2182頁
(ウ)前提問題としての主張 民事上の別訴で前提問題として主張可能
刑事訴訟において前提問題として主張可能
※最判昭和38年12月24日刑集17巻12号2537頁
※最判昭和56年11月13日判時1026号89頁
(3)縁組無効の訴えの特徴
縁組無効の訴えの特徴
あ 戸籍の公信力の不存在
無効判決の確定を待つ必要がない
戸籍の訂正を待つ必要がない
※最判昭和38年12月24日刑集17巻12号2537頁
※最判昭和56年11月13日判時1026号89頁
い 解消後の提起
縁組が解消した後でも、確認の利益があるかぎり提起可能である
※大判昭和13年10月29日民集17巻2077頁
う 出訴期間の制限なし
特別の事情がない限り、長期間経過後の提起も権利濫用にならない
※最判昭和31年10月4日家月8巻10号38頁
え 出訴権者
明文の規定がないため、原告適格は広範囲に及ぶ
4 協議離婚無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
協議離婚無効の訴えの性質→実務は確認訴訟
あ 当然無効説
離婚の無効は訴えによるまでもなく当然に主張できる
協議離婚の無効は当然無効である
離婚無効の訴えは無効確認の訴えである
無効判決が確定すれば対世的効力が与えられる
判決・審判がなくても、他の訴訟で先決問題として無効主張が可能である
※学説:我妻、中川、加藤永一、中川淳
※最判昭和53年3月9日家月31・3・79
い 形成無効説
離婚の無効は無効を宣言する判決・審判によって初めて生じる
離婚無効の訴えは形成の訴えである
裁判所による無効宣言があるまでは何人も無効を主張できない
他の訴訟の先決問題としても有効と取り扱う必要がある
※学説:兼子一、三ケ月章、斎藤秀夫
う 折衷説
届出の性質による区別を行う
(ア)当事者の意思に基づかない届出の場合→当然無効(イ)当事者による届出はあるが真の離婚意思がない場合(仮装離婚)→形成無効(ウ)当事者の意思に基づく届出があれば真意の存在が推定され、この推定を覆すには判決を要する
※学説:山木戸、鈴木
5 関連テーマ
(1)形成の訴えの分類
詳しくはこちら|形成の訴えの分類(実体法上の形成の訴え・訴訟法上の形成の訴え・形式的形成訴訟)
6 参考情報
参考情報
本山敦編著『逐条ガイド親族法』日本加除出版2020年p41(婚姻無効)
中川善之助ほか編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2004年p346、347(縁組無効)
岩志和一郎稿/島津一郎編『新版 注釈民法(22)』有斐閣2008年p67、68(協議離婚無効)
本記事では、身分行為の無効の訴えの性質論について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に婚姻、離婚、養子縁組、離縁などの効力(有効か無効か)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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