【離婚届の無断提出トラブル(実例・具体的対応・予防策)(事例解説)】

1 離婚届の無断提出トラブル(実例・具体的対応・予防策)(事例解説)

夫婦間のトラブルにはとても多くのものがありますが、気づいたら戸籍上離婚したことになっていた、つまり無断で離婚届の提出がされていたという過激なものもあります。本記事では、どのような状況でそんなことが起きるのか、また、対応方法や予防方法を説明します。

2 離婚届偽造の具体的シナリオ

離婚届の偽造や無断提出という尋常ではないことが起きる状況(動機)にはいろいろなものがあります。

(1)婚費回避・財産隠し・相続回避目的

夫の収入が大きい場合、離婚が成立するまで続く婚姻費用(婚費)(生活費)の支払が多額になります。そこで婚姻費用を回避するため、に離婚届の偽造が行われることがあります。
また、財産隠しや相続回避を目的とした離婚届偽造が行われることがあります。例えば、資産家の夫が自分の財産を妻に取られたくないという理由から、妻の署名を偽造して離婚届を提出するケースです。また、妻に相続させたくないと考える夫が、妻に無断で離婚届を提出して法定相続権を奪うという事例もあります。
(法的には離婚は無効なので、理論上、相続権は奪われません。しかし、実際に無効であることを確定させるには一定の手続が必要です。後述します。)

(2)新たな関係構築目的

新たな関係を構築するために離婚届が偽造されることもあります。不倫相手と再婚したいと考えた夫が、現在の妻の署名を偽造して離婚届を提出するケースや、妻が離婚に応じないため、夫が妻の署名を偽造して離婚届を提出し、別の女性と結婚するといった事例が該当します。

(3)親権・監護権獲得目的

親権や監護権の獲得を目的とした偽造も見られます。離婚調停中に有利な立場を得るため、夫が妻の署名を偽造し自分を親権者とする離婚届を提出するケースや、子どもとの関係を維持したいと考える父親が、母親の知らないうちに離婚届を提出し親権者欄に自分の名前を記入するといった事例があります。

(4)DV・支配関係からの逃避阻止

DV加害者が被害者配偶者を支配下に置くための手段は、通常であれば「離婚しない」というものです。しかい、被害者が逃げられないよう無断で離婚届を出し、社会的立場を不安定にするケースもあります。また、別居中の配偶者を困らせるために、無断で離婚届を提出して法的地位を不安定にするという事例もあります。

(5)社会保障給付の不正受給

社会保障給付の不正受給を目的とした偽造も行われています。生活保護を増額して受けるために配偶者に無断で離婚届を提出するケースや、住宅補助や母子手当を受けるために夫が妻に内緒で離婚届を提出するといった事例が該当します。
(これらのケースは夫婦で協力して行われることもあります。仮に協力して「離婚」した場合は有効となる可能性も十分にあります。)

(6)借金・債務からの逃避

借金や債務からの逃避を目的としたケースもあります。多額の借金を抱えた配偶者が、債権者から他方配偶者の財産を守るために無断で離婚届を提出するケースや、連帯保証人になることを拒否された夫が、妻に無断で離婚届を出して財産的つながりを切るといった事例もあります。
(この場合も、夫婦が協力して離婚する、というケースもあります。その場合は離婚は原則的に有効です。)

3 無断離婚届提出の被害者が取るべき対応策

無断で離婚届を提出された被害者が気づいた場合、適切な対応策を取ることが重要です。以下に具体的な対抗策を整理します。

(1)発覚直後→証拠確保

まず戸籍の確認が必須です(戸籍を見て発覚した、というケースも多いです)。最新の戸籍事項証明書(戸籍謄本)を取得して離婚の記載を確認します。
さらに、市区町村役場に提出された離婚届を取得して、提出者・署名・内容を確認(証拠を確保)します。
また、証拠保全も重要です。自分が署名していない証拠(筆跡鑑定のための試料)を確保し、離婚当時の状況を示す証拠(別居していなかった証拠、通常の夫婦生活を送っていた証拠)を収集することも有用です。

(2)民事的な手続

最終的には戸籍を訂正する必要があります。そのためには、家庭裁判所の手続が必要です。
通常は、離婚無効確認調停を家庭裁判所に申し立て、調停不成立の場合は離婚無効確認の訴訟へ移行する、という流れになります。
また、損害賠償請求も対抗策の候補です。精神的苦痛に対する慰謝料請求、無断離婚によって被った経済的損害の賠償請求などです。

(3)刑事責任の追及

一方、刑事告訴も検討すべきです。有印私文書偽造罪、同行使罪、電磁的公正証書原本不実記録罪で警察に告訴する、という手段です。

(4)戸籍の訂正

戸籍上の「離婚」を是正するには、戸籍訂正手続が必要です。無効確認の確定判決を得て法務局に戸籍訂正申請を行い、婚姻状態の遡及的回復(離婚がなかったことに)を図ります。
たとえば、離婚したことを前提にして、年金受給に関する手続がなされていた場合、それを回復(是正)する手続も必要です。

4 離婚届の無断提出の予防策

予防策としては、印鑑・身分証明書の適切な管理が重要です。実印・認印を厳重に管理し、マイナンバーカード等の身分証明書の管理を徹底しましょう。
また、離婚届を無断で提出されることが実際に心配される状況では、離婚届不受理申出制度の活用が有用です。DV被害者や別居中の配偶者は予防的にこの制度を利用し、不和状態にある夫婦は相手の動向に注意することが大切です。
定期的な戸籍確認も欠かせません。定期的に戸籍謄本を取得して確認し、特に別居中や関係が悪化している場合は重要性が高まります。

5 本記事で活用した法的知識の詳細

詳しくはこちら|離婚意思を欠く離婚届の処理と対応・予防策(無効確認訴訟・不受理申出)
詳しくはこちら|離婚無効|調停・訴訟|『無効』の離婚届受理の撤回→家裁の手続が必要
詳しくはこちら|戸籍『訂正』の手続と名の『訂正』の問題点(基本)

本記事では、離婚届の無断提出トラブルについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に離婚届の不正な作成や提出などに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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