【賃金・残業代の計算の基本|通常の賃金・割増率|実労働時間の証拠→認定】
1 賃金・残業代の計算方法|『通常の賃金』
2 賃金・残業代の計算|『割増率』
3 深夜労働は『残業』かどうかは関係なく『割増』が必要
4 賃金・残業代の計算|『割増率』のまとめ
5 法律上の『残業』抑制規程|割増賃金引上の努力義務
6 欠勤した分の『時間』を差し引くのは計算ミスとなる
7 『実労働時間』の認定|『証拠』→曖昧なことが多い
8 『実労働時間』の認定|記録が曖昧→認定では雇用主が不利な方向性
9 賃金の計算|『所定労働時間』の認定|『会社の規定』を認定する資料・証拠
本記事では賃金・残業代計算の基本的なものを説明します。
1 賃金・残業代の計算方法|『通常の賃金』
賃金の計算は『通常の賃金』がベースになります。
残業代の場合は『通常の賃金』に一定の『割増率』をかけるのです。
まずは『通常の賃金』を説明します。
なお,労働基準法上は『通常の労働時間の賃金』として表記されています。
まずは『通常の賃金』の基本的事項をまとめます。
<『通常の賃金』|該当するもの>
『基本給』部分
<『通常の賃金』に含まれないもの>
ア 家族・通勤手当イ 別居手当ウ 住居手当エ 子女教育手当オ ボーナスカ 臨時に支払われた賃金
『名称』ではなく『実質』で判断するのです。
2 賃金・残業代の計算|『割増率』
残業代の計算方法において,もう1つ重要なのは割増率です。
残業のうち,類型が分かれていて,基本的な賃金よりも割増になるのです。
割増率は,労働基準法に最低限が規定されています。
就業規則,賃金規定,労働契約などでこれより高い設定がなされている場合は,これらが優先です。
労働基準法の割増率の規定内容は後述します。
3 深夜労働は『残業』かどうかは関係なく『割増』が必要
午後10時〜午前5時の時間内の労働は,労働基準法上「深夜労働」となります。
就業規則,労働契約に基づく,残業ではない場合でも割増が適用されます(労働基準法37条4項)。
最低限が通常の賃金の25%増し”,となります。
就業規則,労働契約等のおいて,これ以上の設定をすることは有効です。
4 賃金・残業代の計算|『割増率』のまとめ
時間外労働と深夜労働については,労働基準法において,最低限の割増率が規定されています。
なお,複数の項目に該当した場合は,単純に足し算をすることになります。
以上の割増率をまとめます。
<労働基準法上の割増率>
対象とされる労働の種類 | 説明 | 割増率 | 根拠条文 | id |
時間外労働 | 法定外残業 | 25% | 割増率政令 | A |
(時間外労働) | 法定内残業 | 0% | ― | B |
休日労働 | 法定休日の労働 | 35% | 割増率政令 | C |
1か月に60時間を超過する時間外労働 | ― | 50%以上 | 37条1項ただし書 | D |
深夜労働 | 午後10時~午前5時 | 25%以上 | 37条4項 | E |
法定外残業+深夜労働 | ― | 50% | A E | ― |
休日労働+深夜労働 | ― | 60% | C E | ― |
※条文は労働基準法のものです。
※割増率は最低限の規定です。
5 法律上の『残業』抑制規程|割増賃金引上の努力義務
1か月における45〜60時間の時間外労働がある場合,割増賃金引上などの努力義務が生じます。
これは,過剰な労働を抑制するという趣旨のものです。
努力義務であって,これ自体が強制力を持つものではありません。
また残業に関する実質的なペナルティとして,遅延損害金や付加金もあります。
これらは別記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃金・残業代の遅延損害金・付加金|退職日前後の違い・裁判所の裁量
6 欠勤した分の『時間』を差し引くのは計算ミスとなる
例えば,1時間遅刻,1時間残業があったとします。
この場合,『1時間−1時間=プラスマイナスゼロ(時間)』ということにはなりません。
『残業1時間』には割増率が付いています。
一方『1時間遅刻(欠勤)』については,『ペナルティー加算率』というものは原則的にありません。
要するに,率で言うと,『1.25−1=0.25』というようにプラスが残っているのです。
結局,『遅刻や欠勤の時間と残業時間の差し引き(相殺)』は間違っているのです。
同じ日の中での差し引き,も,別のの残業時間との差し引き,でも同じです。
なお,遅刻についてのペナルティーを規定している場合は別途問題になります。
ペナルティーには就業規則の根拠が必要です。
さらに,ペナルティーには次のような上限があります。
<『減給の制裁』の上限>
あ 減給の制裁の前提
就業規則で規定しておく
い 減給の上限額
次のどちらも超えてはいけない
ア 1回ごとの上限
平均賃金1日分の半額
イ 賃金支払期の合計の上限
賃金の総額の10分の1
※労働基準法91条
詳しくはこちら|遅刻の罰金・ペナルティ|1日の賃金の半分・1か月の10%までは設定可能
7 『実労働時間』の認定|『証拠』→曖昧なことが多い
実際に働いた時間を『実労働時間』と言います。
実労働時間を集計・計算するところで『見解の対立→トラブル』になることが多いです。
まずは,実労働時間を集計するために使う『資料・証拠』の典型例をまとめます。
<『実労働時間』の証拠|例>
あ タイムカード
い システムへのログイン・ログアウト時刻の記録
パソコン・グループウェアなど
う 業務中に送信したメールやFAXの記録
送信時刻が判明するもの
え 業務中に編集したファイルのタイムスタンプ
お 業務中に利用したクラウド上のアクセス履歴
か 警備システムの入退出記録
き 通勤・帰宅の際に使用したsuicaやpasmoの利用履歴
く 社用車の運行記録
トラックの場合『タコメーター=走行の記録』
け 勤務シフト表
こ 従業員自身が記載した手控え
例;手書きのメモや日記・手帳への書き込み
さ 同僚の証言
ここで『労働時間』の定義・解釈は判例で確立しています。
詳しくはこちら|『労働時間』の定義=指揮命令下説|残業届・許可制度|黙示の業務命令・接待
この点『実労働時間』の記録がしっかり残っている場合は問題ありません。
しかし『曖昧なデータしかない』ということもあるのです。
8 『実労働時間』の認定|記録が曖昧→認定では雇用主が不利な方向性
(1)実労働時間がハッキリしない|典型例
実労働時間の集計・計算では『ハッキリと再現できない』ことがよくあります。
<『実労働時間』がハッキリしない典型例>
あ 『記録自体』が十分に残っていない
出退勤の記録に欠けているところがある
い 記録と実労働時間の差異がある
休憩時間が反映されていない
『業務開始』より前の『ログイン時刻』しか残っていない
(2)実労働時間が曖昧→認定の方向性
実労働時間の集計がハッキリできない場合の認定の方向性をまとめます。
<『実労働時間』が曖昧→認定の傾向>
あ 傾向
『雇用主に不利』な方向性に認定する
い 認定の例
ア 事情
休憩時間が十分に反映(記録)されていない
イ 認定例1
休憩時間をゼロとして扱う
ウ 認定例2
休憩時間を『確実に存在したと言える最低限の時間』として扱う
当然,前提として,残っている資料・証拠は最大限利用します。
タイムカードだけではなく間接的な情報・資料(前述)も参考にします。
労働審判や訴訟の場合,最大限の証拠を裁判所に提出します。
その上で『どうしても不明な部分』については『雇用主に不利な方向』で認定される傾向があるのです。
記録・証拠が不十分だと『多めに賃金(残業代)の支給』につながるのです。
9 賃金の計算|『所定労働時間』の認定|『会社の規定』を認定する資料・証拠
賃金算定で使うのは『労働時間』だけではありません。
所定労働時間・休日・賃金の時間あたり単価,などを賃金計算で使います。
そこで,通常準備することになる資料をまとめます。
<賃金計算に用いる『会社の規定類』>
ア 給与明細イ 源泉徴収票ウ 労働契約書・雇用契約書・労働条件告知書オ 就業規則・賃金規程