【就業規則における疾病休職の規定】

1 従業員が怪我,病気で働けなくなった場合は疾病休職にする
2 傷病に関する虚偽申告が発覚した場合は,懲戒処分の対象となる
3 欠勤の理由の聴取;プライバシー配慮
4 休職期間中は給与支給不要,社会保険費負担は継続となる
5 休職期間の設定ではある程度柔軟性を持たせておくと良い
6 休職期間としては3〜6か月程度の設定が一般的
7 休職期間満了時の設定は『解雇』よりも『退職』がベター
8 疾病休職の期間満了による退職の注意点

1 従業員が怪我,病気で働けなくなった場合は疾病休職にする

従業員が,十分に稼働できないという状況になることもあります。
ここでは,精神疾病,持病,怪我など,従業員に落ち度がないことを前提にします。
このような場合は,「傷病休職」を適用するのが通例です。
期間満了までに復職できない場合は,退職などの処置を就業規則や労使協定で定めておくと良いです。

なお,従業員の落ち度による場合は,当然,就業規則に則り,各種ペナルティを課すことができます。
単純な寝坊による遅刻などが典型例です。
このような場合は,職場の秩序維持という意味では,適切なペナルティを課すのは雇用主の義務とも考えられます。

2 傷病に関する虚偽申告が発覚した場合は,懲戒処分の対象となる

従業員が十分に稼働できない理由が疾病,怪我の場合,原則的に,従業員に懲戒処分(ペナルティ)を課すことはできません。
しかし,例外的に,従業員に過失,不当な要因がある場合は,懲戒処分の対象とすることは認められます。

<従業員の疾病,怪我→稼働が不十分;例外的に懲戒処分の対象となるケース;例>

・意図的に疾病,怪我をしたという極端なケース
・採用時に,心身のコンディションについて虚偽の説明,申告を行ったケース

具体的事案における従業員の落ち度程度によって,一定の懲戒処分が許されます。
虚偽申告によって本来採用しなかったはずなのに,採用したという場合は,刑事上の詐欺罪に該当します。
態様によっては解雇を含めた懲戒処分の対象となります。

3 欠勤の理由の聴取;プライバシー配慮

<事例設定>

病気を理由に欠勤を繰り返す従業員がいる
病気の内容はプライバシーに関わる
詳しく従業員に聞きたい

その後の休職など,労働管理上の判断に必要な範囲で聞くことは問題ありません。
雇用主が従業員の心身のコンディションを把握するのは義務の1つです。
必要な範囲で聞くことは問題ありません。
就業規則に,心身の故障についての申告について規定しておくのがベストです。
実際に,従業員の心身のコンディションによって,業務遂行に影響が出るわけです。
雇用主が把握しておくのは当然です。

また,仮に従業員のコンディションによっては,休職その他の適切な措置を取る義務もあります。
逆に,事情の把握が不十分という理由で,雇用主として責任が生じるリスクもあります。

<雇用主が従業員の体調把握が不十分という理由で責任を負う例>

逆に従業員過度のストレスを抱えていることを気付かず,症状が悪化した場合

従業員のコンディションの把握は権利というよりも義務と言えます。
より明確化するために,就業規則に,心身の故障による欠勤時に診断書を提出するルールを明記しておくのがベストです。

4 休職期間中は給与支給不要,社会保険費負担は継続となる

傷病休職については,給与支払の義務はありません。
ノーワーク・ノーペイの原則です。
一方,社会保険の負担は継続します。
これを従業員に求めることもできます。
念のため,休業期間の金銭的な扱いについては,就業規則に明記しておくと良いです。

社会保険については,雇用主が負担することは続きます。
いわば立て替えている状態になります。
法律的には,この分を従業員に求めることは可能です。
これもやはり,就業規則に明記しておくと良いです。

5 休職期間の設定ではある程度柔軟性を持たせておくと良い

心身の故障による欠勤の際の休職期間については,特に法律上の規定はありません。
個別的な事情による調整が可能なようにしておくとベターです。
まさに,従業員の個別的な事情によって,どのように扱いたいか,は変わってくるでしょう。
要は,重要な人材だから何年でも待っていたいと思うか,他の人を雇って安定的に業務を進めて欲しいと思うか,です。
そこで,就業規則上,傷病休職の期間は柔軟性を持たせておくと良いです。
一定期間を規定しつつ,延長も可能なようにしておくのです。

6 休職期間としては3〜6か月程度の設定が一般的

就業規則で休職が適用される事情(要件)と休職期間を設定しておくことは一般的です。
法律上,特に決まりはありません。

<設定としれ採用されることが多い休職期間>

3〜6か月程度
勤続期間によって変動させる設定にする場合もあります。

を与えずに設定してあると,設定(規定)から外れるということは原則的に違法となります。
実情に合わない,柔軟性に欠ける,ということも生じます。
そこで,個別的な事情によって延長できるという内容にしておくとベターでしょう。

7 休職期間満了時の設定は『解雇』よりも『退職』がベター

休職期間満了までに復職できなかった場合は,一般的には労働契約終了となるように設定します。
労働契約の終了,というのは,具体的には『解雇』と『退職』のことです。
感覚的には,言葉の違いだけと考える方も多いです。
あまり考えずに,言葉を選択して就業規則が作られている例も少なくありません。
しかし,一定の違いが生じます。

解雇の場合,就業規則や労使協定に沿って,実行しても,解雇無効と主張されるリスクが残ります。
解雇というのはハードルが高く,解雇無効と判断されることが一般的には少なくありません。
そこで,解雇無効の主張がなされることになると,手続のために,一定のリソースを消費します。
また解雇予告が必要になり,期間が不足していると手当の支給が必要となります。

一方,自動的に退職するルールになっていれば,このような無用なリソース消費を避けられます。
解雇予告手続は不要ですし,また,解雇権濫用の法理の適用もありません(東京地裁昭和30年9月22日)。

8 疾病休職の期間満了による退職の注意点

退職という扱いについては,万が一にも,事後的に争いになることを防止すると良いです。

<休職期間満了時の退職に伴う規定の工夫の例>

・医師の診断書提出を就業規則で定めておく
・雇用主指定の医師による診断書をもらえるようにしておく

争いになる点の典型例は,復職できた可能性だからです。
また,医師によって診断内容が異なると言うことも少なくないのです。
次に,別の従業員については,休職期間を長期間延長しているという主張をされるケースもあります。
つまり,公平ではない→合理性が欠けるう→退職は無効,という主張です。
このような事例で『休職→退職』というルールが形骸化しているとして無効と判断される実例もあります。
個別的な事情により休職期間を延長させるのは良いルールですが,運用には気を付けないといけません。

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