【雇用調整助成金;事業縮小や休業の際,事業主が受給できる】
1 休業を実施した雇用主は雇用調整助成金の受給ができることがある
2 雇用調整助成金の支給額は助成率で算定する
3 教育訓練実施により雇用調整助成金は増額される
4 教育訓練の典型例は講演の実施など
5 『ボランティア活動』も『教育訓練』として扱われることもある
6 雇用調整助成金の申請手続
7 公的手当;東北地方太平洋沖地震被災者の特例
1 休業を実施した雇用主は雇用調整助成金の受給ができることがある
(1)事業を縮小した場合
経済上の理由により,事業活動を縮小することとなり,休業を実施し,休業手当を支給したような場合,事業主は,支給額の一部について,雇用調整助成金を利用することができます。
雇用維持,失業回避については,政府としての責務になっています。
そこで,政府としては,雇用維持につながる一時帰休=解雇回避を推奨しています。
具体的施策としあて,雇用調整助成金の支給対象となっています。
細かい要件はありますが,支給を受けられることが多いです。
事業の規模,収支状況によっては,助成金の支給により実際の損失は大幅に緩和されます。
厚生労働省;雇用調整助成金
中小企業の場合は,「中小企業緊急雇用安定助成金」という制度もあり,要件が緩和されています。
(2)一時的に業務を遂行できず,休業した場合
<事例設定>
事業所自体や設備が損壊した
事業活動が一時的にできなくなった
休業の措置を取った
事業活動ができず,従業員に休業手当を払った場合は,雇用調整助成金の適用が考えられます。
これは,経済上の理由による休業が対象です。
物理的に事業所が損傷を受けた,というだけの理由では該当しません。
しかし,災害による支障についても,経済上の理由に該当することもあります。
<災害に起因する経済上の理由の例>
災害により,修理業者,部品調達の手配が困難となった
↓
修復が不可能となった(遅れた)
↓
売上が減少した
↓
広い意味での経済上の理由に該当する
2 雇用調整助成金の支給額は助成率で算定する
休業により,解雇=失業を防止した場合,雇用調整助成金が給付されることがあります。
雇用主が従業員に支払った手当の金額を元に,支給額の割合(助成率)が次の通り定められています。
<休業による雇用調整助成金の助成率(原則)>
中小企業では原則3分の2
『雇用を維持する』という趣旨に沿う一定の要件を満たす場合は次のとおり助成率は上がります。
<一定の要件を満たす場合の特別な助成率>
・大企業 3分の2(上限4分の3)
・中小企業 5分の4(上限10分の9)
※上限額はいずれの場合も1人1日当たり7505円です。
3 教育訓練実施により雇用調整助成金は増額される
単純な休業ではなく,従業員に「教育訓練」をしてもらうと雇用調整助成金の給付額が上がります。
<教育訓練を行った場合の助成金加算額>
・事業所内訓練 1人1日2000円
・事業所外訓練 1人1日4000円
4 教育訓練の典型例は講演の実施など
雇用調整助成金が増額となるための『教育訓練』は事業内容に関する知識を習得するものです。
具体例を説明します。
<雇用調整助成金の増額対象となる教育訓練の例>
・講師を招いて,講演を受ける
ただし,『通常時に予定されているもの』とは異なるものでなくてはなりません。
つまり,『通常の生産や販売などの事業活動の一環となっている』場合は,収益(売上)に直結します。
助成金を増額して促進する趣旨に該当しません。
当然,助成金の適用を受けるための申請において,教育訓練の内容・計画を細かく記載した資料を提出することになります。
5 『ボランティア活動』も『教育訓練』として扱われることもある
<事例設定>
休業中に,従業員が被災地でがれきの撤去などの活動を行っている
助成金増額のための職業訓練に該当しないのか
平成23年の東日本大震災以前は,厚労省では,『教育訓練』を厳格に考えていました。
『ボランティアの性質を持つ活動は教育ではない』,という考え方により,助成金増額の『教育訓練』として認めていませんでした。
そのため,事業活動ができない被災地の休業中の会社では,不合理な状況が生じていました。
<震災後の教育訓練の解釈による不合理な状況>
ボランティア活動がなされている中,会場を借り,講師を招いて講演を受講している状況が散見された
このような不合理の指摘,不満の声に応える形で,厚生労働省は解釈を変更しました。
<厚生労働省の教育訓練の解釈変更>
被災住民生活支援,地域再生支援などの活動については,助成金増額の『教育訓練』に該当する
※平成23年5月24日付の通達;職開発0524第1号
考え方としては,このようなボランティア的な活動は,企業のCSR(社会的貢献)の一環として,広い意味での教育と捉える趣旨です。
6 雇用調整助成金の申請手続
雇用調整助成金の給付を受けるための手続を説明します。
ハローワークに一定の書類を提出します。
<雇用調整助成金の申請書類の概要>
あ 労使間の休業に関する協定書
い 休業や教育訓練の計画書
・教育訓練のカリキュラム
・科目
・期間
・対象者
7 公的手当;東北地方太平洋沖地震被災者の特例
実際に災害が生じた場合,公的な届出,申請などの手続がスムーズに行えないという状況になることもあります。
そこで,個別的な災害によって,公的手当の申請などの手続について,特例が適用されることがあります。
平成23年の東日本大震災の際は,次のような特例が適用されました。
<東日本大震災の際に適用された災害救助法適用地域の特例>
あ 対象事業所の所在地
青森・岩手・宮城・福島・茨城県のうち災害救助法適用地域
い 特例の内容
・本来休業等の計画書は事前に提出する必要があるが,事後的提出でも良い
・本来,生産量,売上高の情報は3か月分提出する必要があるが,災害後1か月(見込み)で良い