【労働基準法の「労働者」の定義や判断基準(要点)】
1 労働基準法の「労働者」の定義や判断基準(要点)
労働基準法(や労働契約法)における「労働者」に該当するかどうか、という点で対立するトラブルはとても多いです。この判断は難しいですが、本記事ではその要点を説明します。
2 労働基準法の「労働者」の定義(条文)
最初に、労働基準法における「労働者」の解釈のもととなる条文を確認しておきます。条文自体はとてもシンプルです。
労働基準法の「労働者」の定義(条文)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
※労働契約法2条1項(実質同内容)
3 「労働者」判断基準(形式面・ネーミング)
労働基準法の「労働者」の判断において「形式面」は重要ではありません。
そして「形式」はあまり重視されません。
「労働者」判断基準(形式面・ネーミング)
あ 形式面に関する労働者性判断
次のような「形式・ネーミング」は重視されない
い 業務遂行に関する契約の種類(ネーミング)
“分類” ”契約の名称” ”対価の名称” 雇用系 雇用契約・労働契約 給与・給料・賃金 委任系 (準)委任契約・委託契約 報酬・委託料 請負系 請負契約・委託契約 請負代金・委託料
4 「労働者」判断基準(要点=使用従属性)
「労働者」の判断で重要なのは「使用される者」の解釈です。
「労働者」判断基準(要点=使用従属性)
あ 条文上の文言
「使用される者」の部分が重要である
「使用従属性」が主な判断要素である
い 「使用される者」・使用従属性
ア 指揮監督下の労働
使用者(雇用主)の指揮監督下での労務の提供
イ 賃金(労務との対償性)
報酬が「労務」との対応関係が強い
→「労務の対価」=「賃金」と言える
判断要素の中で主要なものは「使用従属性(関係)」なのです。
そこで「使用従属性」の内容についても類型化が進んでいます。
次に「使用従属性」の内容について説明します。
さらにその後でそれ以外の判断要素を説明します。
5 「労働者」の判断基準(使用従属性)
「労働者」の判断・解釈における「使用従属性」についてまとめます。
「労働者」の判断基準(使用従属性)
さらに数多くの判例では「判断要素(事情)」がカテゴライズされています。
6 全体的な判断要素
「労働者」の判断で考慮される事情の分類は以上述べたとおりです。
実際の判断においては、さらに多くの事情が対象となります。
判断要素の全体をまとめます。
総合評価なので1つの事情で決定付けられる、というわけではありません。
全体的な判断要素
あ 「使用従属性」に関する判断基準
ア 「指揮監督下の労働」
他人に従属して労務を提供していること
この判断要素は次のようなものである
イ 仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由の有無ウ 業務遂行上の指揮監督の有無
・業務の内容・遂行方法に対する指揮命令の有無
・その他
例=「使用者」の命令・依頼により本来業務以外の業務に従事している場合
→「使用者」の一般的な指揮監督が肯定される方向性
エ 拘束性の有無
勤務場所・勤務時間の指定・管理など
業務の性質による拘束は除外される
オ 代替性の有無(補助的要素)
・本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか否か
・本人の判断によって補助者を使うことが認められているか否か
い 報酬の労務対償性に関する判断基準
ア 大前提
「労働」の対償→「賃金」に該当する
イ 方向性
“金額との相関が強い要素”
”使用従属性の判断”
「労務時間」
「使用従属性」を補強する
業務の「成果」
「使用従属性」を否定する方向性
ウ 「使用従属性」を補強する事情(例)
・労働の結果による報酬の較差が少ない
例=報酬が時間給を基礎として計算される
・欠勤した場合には応分の報酬が控除される
・残業をした場合には手当が支給される
※研究会報告(後記)
※東京地裁 1973年2月6日(大塚印刷事件)
※大阪地裁堺支部 2001年8月29日(関西医科大学事件)
7 付随的判断要素(補強要素)
「労動者」の判断要素のうち付随的・補強する位置付けの事情をまとめます。
付随的判断要素(補強要素)
あ 事業者性の有無
ア 機械・器具の負担関係
本人が所有する本機械・器具が著しく高価な場合
→自らの計算・危険負担が大きい
→「事業者」の性格が強い
→「労働者」の判断を否定する方向性
イ 報酬の額
正規従葉員に比して著しく高額である場合
→自らの計算・危険負担が大きい
→「労働者」の判断を否定する方向性
ウ その他
「事業者」の性格が強い判断につながる事情がある
・業務遂行上の損害に対する責任を負う
・独自の商号使用が認められている
い 専属性の程度
ア 専属性が強い
・他社の業務に従事することが制度上制約されている
・時間的余裕がなく他社の業務への従事が事実上困難である
イ 報酬に生活保障的な要素か強い
「労働者性」を補強する
ア 報酬に固定給部分があるイ 業務の配分により事実上固定給となっているウ 報酬の額が生計を維持しうる程度のものである
う その他(例)
「使用者」が従業者を労働者と認識している場合
→「労働者性」を補強する
ア 選考過程
採用・委託の際の選考過程が正規従業員の採用と同様である
イ 源泉徴収
給与所得としての源泉徴収を行っている
ウ 労働保険の適用エ 服務規律の適用オ 退職金制度・福利厚生の適用
※研究会報告(後記)
※東京地裁 1973年2月6日(大塚印刷事件)
※大阪地裁堺支部 2001年8月29日(関西医科大学事件)
8 厚生労働省の研究会の見解(研究会報告)
以上のまとめの元となる公的な見解を記しておきます。
厚生労働省の研究会の見解(研究会報告)
9 事業者性と労働者性(基本的な「事業者」の性格)
「労働者」の判断の中では「事業者」の性格が含まれています(前述)。
素朴・基本的な「事業者」の性格をまとめておきます。
事業者性と労働者性(基本的な「事業者」の性格)
あ 事業者性と労働者性
一般的な「事業者」としての性格・状況がある
このような事情に該当すると「労働者」の性格が弱まる
い 基本的な「事業者」の性格
ア 受託の自由
自分のやりたくない仕事はしなくて良い
イ 指揮命令なし
受託した仕事は自分のやり方で進めることができる
ウ 場所・時間の拘束なし
受託した仕事を遂行する時間・場所は自由である
エ 代替性あり
さらに別の者に業務を「委託」できる
オ 報酬の労働対称性は薄い
「従業時間」ではなく「仕事単位」で報酬が決まる
カ 機械・器具の所有
自己の所有物で仕事をする
このような一般的な「事業者」の状況が「労働者」の判断基準に使われているのです。
10 専門的職種の独立性による「労働者」性否定(弁護士・医師など)
(1)専門的職種の独立性による「労働者」性否定
業務の内容・特殊性が「労働者」の判断に影響を与えるものもあります。
いわゆる「専門的職種」について説明します。
専門的職種の独立性による「労働者」性否定
あ 専門的職種の特殊性(個人の責任が大きい)
職種・立場自体に次のような特殊性がある
各種の業務プロパーの法令が従業者個人にも適用される
→個々の業務について従業者個人も大きな法的責任を負う
例=弁護士→懲戒責任・弁護士法による刑事責任
い 専門的職種の特殊性(独立性が大きい)
責任が大きい(前記)
→権限・裁量が大きい
→次のような性格につながる
ア 独立性が高いイ 「支配される」「従属する」という性格が弱い
う 専門的職種の「労働者」性
他の事情が「業務委託・(準)委任」などの態様である場合
→一般的に「労働者」には該当しない
(2)専門的職種の独立性による特別扱い(有期労働)
労働基準法上、専門的職種の特殊性から特別扱いする別の規定があります。
根本的な根拠は上記と同様です。
参考としてまとめておきます。
専門的職種の独立性による特別扱い(有期労働)
あ 労働基準法上での専門的職種の扱い
「専門的知識等を有する者」
→有期労働契約の規定で特別扱いがなされている
い 専門的職種の例
ア 公認会計士・弁護士・税理士・弁理士イ 医師・歯科医師・獣医師・薬剤師ウ 特許発明の発明者・登録意匠創作者 詳しくはこちら(有期労働契約(上限3年/5年(無期転換・雇い止め規制・無期との差別禁止)
このような専門的職種は性格上「労働者」概念に整合しにくいのです。
もちろん、合意により「労働者」という扱いをすることは有効です。
一方「労働者とは扱わない」合意がある場合、これは通常否定されません。
11 労働者性の判断基準と判断の方法(判例・学説)(概要)
以上で説明したのは、「労働者」の判断のダイジェストです。別の記事で、判例や学説についてソースを含めて説明しています。
詳しくはこちら|労働基準法(労働契約法)の労働者性の判断基準と判断の方法(判例・学説)
本記事では、労働基準法の「労働者」の定義や判断基準の要点について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に労働基準法の適用の有無に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。