【職場環境(過労・パワハラ)による自殺の労災申請・損害賠償請求の手続の流れ】

1 職場環境(過労・パワハラ)による自殺の労災申請・損害賠償請求の手続の流れ

職場環境(過労・パワハラ・セクハラ)により自殺に至ったケースでは、労災や企業の損害賠償責任が認められます。
詳しくはこちら|職場環境(過労やパワハラ)による自殺と労災・損害賠償の総合ガイド
では、遺族が損害賠償を請求するためには、どのような手続を踏むべきでしょうか。本記事では、労災申請から企業との交渉、訴訟提起に至るまでの具体的なステップ、時効の問題、弁護士選びのポイントなどについて解説します。
大切な方を突然失った悲しみの中で法的手続きを進めるのは非常に困難なことですが、適切な補償を受け、故人の名誉を回復するためにも、正しい手続きを知ることは重要です。この記事が、遺族の方々の一助となれば幸いです。

2 労災申請・損害賠償請求の全体的な流れ

職場環境による自殺の損害賠償請求は、通常、初期対応と証拠の収集、労働基準監督署への相談と労災申請、会社との交渉(示談交渉)、必要に応じて訴訟の提起、判決または和解による解決という流れで進みます。その途中に、弁護士への相談、依頼が入ります。それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。

3 労災申請の具体的手順とタイムライン

(1)労災申請の意義

職場環境による自殺の場合、まず労災保険の給付申請を行うことが一般的です。これにより、遺族補償年金や一時金、葬祭料(葬祭給付)を受け取ることが可能になり、業務と自殺との因果関係が公的に認められることで、その後の損害賠償請求に有利になります。

(2)労災申請の手順

はじめに、亡くなった労働者の勤務地を管轄する労働基準監督署に相談し、申請方法や必要書類の説明を受けます。主な必要書類には、遺族補償給付支給請求書、死亡診断書や死体検案書、戸籍謄本や住民票、会社の証明や労働時間申告書、災害発生状況報告書、診療録などが含まれます。
これらの書類を労働基準監督署に提出します。会社経由でも遺族が直接提出することも可能です。会社の協力が得られない場合は、遺族が直接提出するとよいでしょう。
労働基準監督署は、提出書類をもとに関係者への聞き取りなどを行い、遺族も事情聴取を受けることがあります。できるだけ詳細な情報を提供することが重要です。

(3)労災申請のタイムライン

申請書の提出は、自殺発生後できるだけ早期に行う必要があります。時効は死亡日の翌日から5年です。調査期間は通常3か月から1年程度で、必要に応じて専門検討会での審査を経た上で、業務上か業務外かの決定がなされます。

(4)労災が認定されなかった場合の対応

認定されなかった場合は、3か月以内に審査請求、さらに3か月以内に再審査請求をすることができます。
最後の行政訴訟は最後の決定から6か月以内に提起することが可能です。
また、労災認定の結論が出る(確定する)前の段階で、同時に民事訴訟で会社への損害賠償請求をすることも可能です。

4 訴訟提起から判決までの流れ

(1)訴訟提起の検討

会社との交渉がまとまらない場合、つまり会社が損害賠償請求に応じない場合は、裁判所に対して損害賠償請求訴訟提起を検討することになります。その際には、証拠の十分性、請求の法的根拠の強さ、期待できる賠償額、時効の問題、訴訟にかかる時間と費用、精神的負担といった点を総合的に判断する必要があります。

(2)訴訟提起

訴訟を提起するには、弁護士が訴状を作成し、管轄の裁判所に提出します。訴状には会社の責任の根拠を記載して、必要な証拠とともに裁判所に提出します。訴状提出時には、訴額に応じた収入印紙などを納付する必要があります。
裁判所は訴状をチェックした後で、被告(会社側)に送達します。

(3)裁判の審理

訴状が被告に送達されると、口頭弁論期日が指定されます。口頭弁論では、原告・被告双方が主張を述べ、書面を提出して主張と反論を繰り返します。
その後、証拠調べとして文書の取調べや証人尋問、本人尋問、鑑定などが行われます。

(4)和解と判決

裁判の途中で裁判官から和解が勧告されることがあり、当事者双方が合意すれば訴訟は和解によって終結します。
和解がまとまらない場合、審理は進み、主張が出尽くして、証拠調べが完了すれば、弁論が終結し、裁判所は判決言渡期日を指定します。
判決では請求が認められるか否か、認容される場合には賠償額が示されます。

(5)控訴

判決に不服がある当事者(原告・被告)は、判決書の送達を受けた日から2週間以内に控訴をすることができます。控訴審は高等裁判所で行われます。

(6)訴訟にかかる期間と費用

訴訟に要する期間は事案内容や審理の進み方によって大きく違います。平均的な期間(目安)としては、第1審には1年半から3年程度、控訴審には1年から2年程度、上告審には半年から2年程度といったところです。
費用としては、弁護士費用(着手金・成功報酬)以外に、訴訟費用(印紙代・送達費用)、証拠収集費用、証人の旅費・日当、鑑定費用などがかかります。

5 弁護士への相談と準備すべき資料

(1)早期の弁護士への相談

過労自殺の損害賠償請求を進める際は、早めに弁護士に相談(依頼)することが有用です。少なくとも会社との交渉や訴訟については弁護士が代理人として行うのが通常です。

(2)相談時に準備すべき資料

勤務実態に関する資料(タイムカード、給与明細など)、精神疾患に関する資料(診断書や通院記録など)、ハラスメントの証拠(録音、メール、日記など)、故人の状態を示す資料(遺書や家族とのやり取りなど)、労災関係の書類(申請書類や通知書など)を準備しておくと効率的です。

(3)法律相談での確認事項

請求可能な損害賠償の種類と概算額、証拠の十分性、時効の問題、今後の進め方と見通し、弁護士費用の詳細、相談者がすべきことなどを確認しておくとよいでしょう。

6 消滅時効と注意点

(1)損害賠償請求権の時効

安全配慮義務違反に基づく請求(債務不履行責任)の場合は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年の時効があります。不法行為責任に基づく請求の場合は、損害および加害者を知ったときから5年、不法行為時から20年です。

(2)労災保険給付の時効

遺族補償給付は死亡日の翌日から5年、葬祭給付は死亡日の翌日から2年です。

(3)時効を更新(延長)する方法

時効の更新する方法にはいろいろなものがあります。裁判上の請求(訴訟提起)、支払督促、仮差押・仮処分、債務の承認(会社側が責任を認める場合)、合意書の調印などです。
通常、消滅時効の完成が近くなったら訴訟提起をすることになります。なお、交渉が進行中である場合には、「時効の完成猶予合意書」に調印して時効完成を延長することもあります。

7 実際の手続きの流れ(タイムライン例)

例えば、過労自殺のケースでは、以下のような流れが考えられます。
事故直後は初期対応(警察の取調べ・葬儀)を行い、1か月以内に弁護士相談・証拠収集・労基署相談を開始します。
事故後2〜3か月で労災申請と追加証拠収集を行い、事故後6か月〜1年で労災認定の結果が出ます。
その後、交渉を行い、成立すれば合意書(和解書)の調印、成立しない場合は訴訟提起をします。
訴訟提起の場合、事故後1年半〜2年で訴訟を開始します。事故後2〜3年で和解成立か判決言渡に至ります。
仮に、控訴・上告がなされた場合、さらに半年程度を要します。

8 まとめ

職場環境による自殺の損害賠償請求は複雑で長期に及びますが、適切な補償と名誉回復のために不可欠なプロセスです。労災申請、交渉、訴訟など、一連の手続は、個別的事案によって適切なタイミングを判断して進めることが重要です。

本記事では、職場環境(過労・パワハラ)による自殺の労災申請・損害賠償請求の手続の流れについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に職場環境によりお亡くなりになったケースに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【国際裁判管轄の一般原則(民事訴訟法3条の2)(解釈整理ノート)】
【協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(民法151条)(解釈整理ノート)】

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