【債務整理のデメリット|公的な記録・家族・職場への影響・資格制限】
1 債務整理の機能|借金が多くて困った方を救済する
2 債務整理の特徴|困った方が相談しにくい
3 債務整理×公的な記録|現実的に知られることはほとんどない
4 債務整理×家族へ影響|総量規制×配偶者貸付制度
5 債務整理×職場への影響|原則的には影響なし・給与差押に注意
6 債務整理×職場への影響|勤務先からの借入がある場合
7 破産手続×資格制限|財産を扱う資格
8 管財事件における行動制限|自己破産の場合
1 債務整理の機能|借金が多くて困った方を救済する
多くの借金(債務)を負って困ってしまった方もいらっしゃいます。
法的に通常の状態に戻す手続がいくつかあります。
このような救済手段をまとめて『債務整理』と言います。
具体的には,任意整理・自己破産・民事再生・特定調停などです。
2 債務整理の特徴|困った方が相談しにくい
多重債務問題というのは,社会的な構造に大きな原因があると言えます。
つまり『社会問題』なのです。
しかし困っている方はネガディブな感覚を持ち,他人に相談できない傾向があります。
また,債務整理のデメリットを心配している方も多いようです。
<債務整理のイメージ・誤解>
破産すると選挙権が剥奪されてしまう→誤解
家族や会社にバレる→誤解
戸籍・住民票に記録される→誤解
次に,代表的な『債務整理・自己破産のデメリット』を説明します。
3 債務整理×公的な記録|現実的に知られることはほとんどない
債務整理を行っても,ご家族へは直接的・法的な不利益は生じません。
任意整理・破産・民事再生などの手続を行ったことは,戸籍・住民票に記載されません。
破産については一定の公的な記録がなされます。
ただ,実際に知られることは通常ありません。
<破産に関する公的な記録>
あ 官報公告
ア 掲載
掲載される
イ 閲覧される状況
一般の方が見ることが通常ない
い 破産者名簿
ア 掲載
役所の破産者名簿に記録される
イ 閲覧される状況
非公開である
戸籍・住民票のように一般的手続で使われることはない
4 債務整理×家族へ影響|総量規制×配偶者貸付制度
債務整理が『家族』に影響を生じるのは非常に限定的な場面だけです。
その1つが『配偶者貸付制度』を利用するという状況です。
<総量規制×配偶者貸付制度>
あ 総量規制による配偶者貸付制度の利用
夫婦双方の信用情報の調査が行われる
→一方の『信用情報の悪化』が,他方の審査に影響する可能性がある
い 与信審査における『他の家族の調査』
同居の家族の信用が事実上低下する可能性もある
しかし,債務整理を行わない限り,債務額が大きい状態です。
かえって『信用情報が悪い状態』と言えます。
結局,債務整理は長い目で見れば,家族への影響はプラスと言えます。
5 債務整理×職場への影響|原則的には影響なし・給与差押に注意
(1)債務整理×職場への影響|原則的には影響なし
勤務先・職場は,原則的に債務整理手続に関与しません。
債務整理をしていることを知られることはありません。
(2)債務整理×職場への影響|給与差押に注意
借入が多い状況が勤務先にバレる,ということは別の形が多いです。
<手続が遅れることによる発覚|典型>
あ 背景
職場への影響を心配していた
→債務整理を始めるのが遅くなった
い 給与差押
金融機関が提訴した
→給与差押を行った
=裁判所から勤務先に『差押通知』が送付される
→勤務先の経理担当者などの従業員にバレた
+給与支給業務が混乱することになった
6 債務整理×職場への影響|勤務先からの借入がある場合
(1)破産・民事再生×勤務先への影響
ただし,勤務先から借入がある場合は配慮が必要です。
破産・民事再生の手続では『勤務先の会社』も『債権者』となります。
裁判所からの通知が行くことになるのが原則です。
勤務先に事前に説明した上で破産・民事再生の手続を行うケースもあります。
(2)任意整理×職場への影響
任意整理の手続では『債権者全員』への通知は不要です。
勤務先からの借入金については一切手を付けない,ということが可能です。
この場合は,勤務先への通知なしで進めることになります。
7 破産手続×資格制限|財産を扱う資格
(1)破産×資格制限
仕事に関しては,一定の資格を使っている方については,注意が必要です。
破産手続では,一定の資格制限がかかってしまいます。
ただし,免責決定の確定と同時に『復権』します。
つまり,『制限を受けている期間』は数か月間だけです。
一生制限される,ということはありません。
<破産手続により制限される職業|主なもの>
旅行業務取扱主任者・土地家屋調査士・宅地建物取引士・不動産鑑定士
公認会計士・税理士・弁護士・司法書士・社会保険労務士・通関士
公証人・貸金業者・警備員・測量業者・保険代理店
このように、職場への影響が出るのはごく一部のケースのみです。
その場合でも一定の範囲で避ける方法はあります。
(2)民事再生・任意整理×資格制限
民事再生・任意整理の場合は,資格の制限は一切ありません。
8 管財事件における行動制限|自己破産の場合
破産手続開始決定を受けたとしても,まだ破産手続の入口です。
債務者にある程度の財産がある場合などは管財事件となります。
詳しくはこちら|破産手続|同時廃止と少額管財・特定管財の違い・判断基準
管財事件の場合には,破産手続開始決定と同時に破産管財人が選任されます。
破産管財人が財産を換価して債権者に配当する手続が行われます。
破産管財人がつく場合は,破産者は財産の管理処分権を失います。
<破産手続×行動の制限>
あ 移動・転居の制限
裁判所の許可なく転居・長期の旅行をすることができない
→不合理な事情がなければ許可されることが多い
い 郵便物の転送
ア 転送・確認
送付された郵便物
→破産管財人に転送される
→破産管財人が開封して内容物を確認することがある
イ 返還
個人的な手紙・電話代や公共料金の請求書など
→すぐに管財人から返還される
う 制限を受ける期間
破産手続の開始時点から終了までの期間
→平均的には1~3カ月程度
実質的に不利益・デメリット,と言えるようなことではないと思います。