【破産債権の金銭化(日本円評価)の効力が及ぶ範囲(第三者や破産手続外)】
1 破産手続における金銭化の効力
2 破産手続における破産債権の金銭化の効力(基本)
3 破産債権確定未了時点での破産手続終了における金銭化の効力
4 破産債権確定済+配当なしのケースの金銭化の効力
5 破産債権確定済+配当済のケースの金銭化の効力
1 破産手続における金銭化の効力
破産手続では破産債権の額を破産手続開始決定時を基準として評価して特定(固定)します。
日本円建ての債権であれば難しいことはありませんが,外貨建てや物の引渡請求権であれば金銭への換算(評価)が必要です。これを破産債権の金銭化と呼んでいます。
詳しくはこちら|破産債権の額の評価・確定(金銭化)と配当の順位・平等性
本記事では,この金銭化の効力について説明します。
2 破産手続における破産債権の金銭化の効力(基本)
破産債権の金銭化は,破産手続内でのみ適用するのが原則です。
ですから,保証人などの第三者(破産者以外)の者には破産手続内での破産債権の金銭化は適用されません。
<破産手続における破産債権の金銭化の効力(基本)>
あ 相対性
破産債権の金銭化は,あくまでも破産手続の目的との関係で破産債権の属性を変更するものである
効力は原則として破産手続との関係でのみ生じる
い 第三者への効力(否定)
第三者には金銭化の効力は及ばない
第三者の例=保証人や連帯債務者
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p235
※全国倒産処理弁護士ネットワーク編『注釈破産法(上)』きんざい2015年p684
3 破産債権確定未了時点での破産手続終了における金銭化の効力
次に,破産債権の金銭化が,破産者に対して適用される範囲を説明します。
破産手続内では金銭化が適用されるのは当たり前なので,破産手続外で適用されるかどうかが問題となります。
まず,破産債権の確定がなされないまま破産手続が終了した場合は,金銭化が確定していないのですから,破産手続き終了後に金銭化の効力が残るということはありません。
<破産債権確定未了時点での破産手続終了における金銭化の効力>
破産手続が破産債権の確定に至らずに終了した場合
→金銭化の効力は生じない
※全国倒産処理弁護士ネットワーク編『注釈破産法(上)』きんざい2015年p684
4 破産債権確定済+配当なしのケースの金銭化の効力
次に,破産債権が確定はしたけれど,その後の配当はされない段階で破産手続が終了したケースについて説明します。
ちょうど中途半端な状態といえます。
破産手続終了後に金銭化の効果が残る・残らないの両方の見解があります。
<破産債権確定済+配当なしのケースの金銭化の効力>
あ 前提事情
破産債権の確定の効力が生じたが,配当がなされなかった場合
→見解が分かれている(い・う)
い 肯定(多数説)
確定した破産債権は破産者に対して確定判決と同一の効力を有する
※破産法221条
→破産手続終了後も金銭化の効力が存続する
う 否定
配当がないので2重の利得の調整(後記※1)をする必要はない
→本来の給付内容に従った履行請求を認めても不合理はない
→破産手続終了後は金銭化の効力は存続しない
※全国倒産処理弁護士ネットワーク編『注釈破産法(上)』きんざい2015年p684,685
5 破産債権確定済+配当済のケースの金銭化の効力
最後に,破産債権が確定した後に,配当も実施されたというケースについて説明します。
自然人の破産者が免責決定を得た場合,その後は破産債権の請求はできなくなりますが,ここでは免責のことは考えず,純粋に金銭化の効力だけを考えます。
配当まで実施済というケースでは,仮にその後に残る債権について本来の給付内容を認めると,破産手続内での処理との整合性を取るための調整が必要になってしまいます。
そこで,破産手続後も金銭化の効力が残るという見解が一般的です。
なお,このような理由付けなので,事情によっては別の解釈もあり得るでしょう。
<破産債権確定済+配当済のケースの金銭化の効力>
あ 前提事情
破産手続において金銭化された債権(の一部)について配当がなされた
い 2重の利得を回避する調整の必要性
改めて本来の給付内容に従った履行請求を認めると仮定した場合
2重の利得が生じないように調整をする必要がある
う 金銭化の効力の存続(否定)
『い』の調整をしてまで,本来の給付内容に従った履行請求を認める必要はない
→破産手続終了後も金銭化の効力は存続する
※全国倒産処理弁護士ネットワーク編『注釈破産法(上)』きんざい2015年p684