遺産分割のすべて|相続専門弁護士ガイド
1 寄与分とは?
2 特別受益とは?
3 持ち戻し免除の意思表示
4 遺産分割(相続全体)の流れ
5 遺産分割前の保全処分(仮差押,仮処分)
6 遺産分割調停
7 遺産分割審判
1 寄与分とは?
相続の際は,生前のいろいろな家族内部の関係が問題になります。
例えば,『父の生前,同居している長男とその妻が日常生活,経済面のサポートをしていた』ということは多いです。
それでも,法定相続となると,兄弟均等となります。
さすがに不公平だと感じます。
そこで,生前の協力,サポートについて,遺産分割で反映させる,という制度があります。
寄与分と言います。
実際には,寄与分にあたるためには特別の寄与と言えなければならず,扶養義務の範囲内だと,寄与分になりません。
この程度は,曖昧です。
どこまでが寄与分になるのか,ということで対立することが多いです。
本来は,生前に寄与分の争いを防ぐ方法を取っておくと良かったのです。
詳しくはこちら|故人への生前の支援,貢献は寄与分となる
2 特別受益とは?
相続の場面で不公平が問題になることがあります。
例えば『生前,長男だけが高い大学の学費や生活費を出してもらっていた』というようなものです。
ほかには結婚に関する費用の負担,住宅資金がよく問題になるものです。
法律上,この不公平を修正する制度があります。
特別受益と言います。
特別受益にあたる生前贈与として認められると,その分を遺産に持ち戻すことになります。
実際には,特別受益に含まれるかどうか,曖昧な部分があります。
条文上は生活の資本と記載されていて,解釈としても,当事者の生活レベルや環境によって違うとされているのです。
詳しくはこちら|特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)
詳しくはこちら|特別受益に該当するか否かの基本的な判断基準
また,寄与分と特別受益の両方が混ざっている実情もよくあります。
計算順序によって承継する内容が異なる,ということもあります。
非常に複雑ですが,判例理論を整理してあります。
詳しくはこちら|寄与分,特別受益の計算順序は『特別受益が先』が有力
3 持ち戻し免除の意思表示
故人の考え方によっては,意図的に遺産を振り分けたい,ということもよくあります。
永年の家族の関係を考えて,差を付けたい,というものです。
形式的には不公平となるので,特別受益になってしまいます。
そうすると持ち戻すことになって,故人の意図が台無しです。
そこで,持ち戻しをさせない方法があります。
これを持ち戻し免除の意思表示と言います。
実際には,きちんとした書面にしておらず,『本人が書いたかどうか分からない』というような主張をされることもあります。
また,持ち戻し免除の意思表示は,遺留分には効きません。
このように,持ち戻し免除の意思表示だけでは解決しないこともあるのです。
詳しくはこちら|特別受益の持戻し免除の意思表示と遺留分との関係(基本・改正前後)
4 遺産分割(相続全体)の流れ
相続については,相続人になるかならないかを考える段階が最初にあります。
遺産の調査を踏まえて,相続放棄をするのか承認するのかを判断するのです。
相続放棄と承認とは?
承認して相続人になると,遺言がない場合は法定相続となります。
最終的な遺産の承継方法は,相続人同士で話し合って決めます。
これを遺産分割協議と言います。
最終的には,個々の遺産について,相続人のうち1名の単独所有になるように分割するのが原則です。
それ以外にも,売却して代金(金銭)を分ける,とか,相続人の1人が『買い取る形』もあります。
敢えて,相続人の共有のままにしておく,という方法もあります。
話し合いでまとまらない場合は,遺産分割の調停,審判という手続を利用します。
<相続による財産承継手続の概要>
死亡(相続の開始)
↓
・遺言書の確認
・相続人の確定
・相続財産の調査
↓
相続放棄,限定相続,単純承認の判断(手続)
↓
遺産分割(協議,調停,審判)
↓
相続手続完了
ただし遺言がある場合は大きく違ってきます。
基本的に遺言の内容どおりになるのです。
そうは言っても,遺言の内容によっては,遺産分割が必要ということもあります。
また,遺産分割が完了すると,相続開始時点にさかのぼることになっています。
収益不動産の賃料で問題になりますが,複雑な例外を認める判例もあります。
遺産分割の周辺部分は複雑なものが多いので,しっかり理解して進めることが重要です。
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効
5 遺産分割前の保全処分(仮差押,仮処分)
遺産分割の話し合い(協議)がまとまらない場合,家庭裁判所の手続を利用します。
遺産分割の調停や審判にはごく平均でも半年〜1年がかかります。
その間に,相続人の1人が『遺産(共有持分)を売却してしまう』ということがあり得ます。
そこで,遺産分割完了までの間,暫定的に財産を押さえておくという手続があります。
仮処分や仮差押です。
法律上審判前の保全処分と言います。
原則的に担保(保証金)を預ける必要があります。
担保金額の相場やタイミングの細かいルールなど,しっかりと把握して進める必要があります。
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)
詳しくはこちら|保全命令|手続・特徴|迅速性・密航性|債務者審尋・保全執行
詳しくはこちら|保全の担保金額算定の基本(担保基準の利用・担保なしの事例)
6 遺産分割調停
遺産分割協議がまとまらない場合,家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てます。
遺産分割調停では,調停委員を介して,相続人が話し合いを進めます。
調停委員は,中立の立場で,資料の提出を要請したり,分割案を提案を行ってくれます。
調停はあくまでも話し合いです。
相続人全員が納得しない限り,成立しません。
決裂することを不成立とか不調と言います。
相続人の対立状況によっては,中立の立場の調停委員が入った途端にテンポよく話し合いが進んで,意外とスムーズに合意に至るケースもあります。
一方,当初の協議段階の対立から1歩も譲らない→対立はまったく解消されずに不成立ということも少なくありません。
詳しくはこちら|裁判所の家事手続は調停,審判,訴訟の3つがある
7 遺産分割審判
遺産分割調停が不成立で終わると,自動的に審判に移行します。
なお,調停を省略して,『最初から審判を申し立てる』ということは原則としてできません(調停前置主義)。
遺産分割の審判では,調停とは違って,裁判所が証拠,主張を判断して最終的な分割内容を決めるという強制力があります。
最終的に裁判所がくだす分割内容を,決定(審判)と言います。
判決という名称ではないですが,同じ種類のものです。
審判では,それぞれの相続人が分割案(の希望)を主張します。
ここでは,自分の分割案がいかに合理的かということを説得的に主張することが重要です。
例えば,土地・建物Aを獲得したい場合,永年住んでいたことや今後もその場所から動かないという意向と,その理由を証拠とともに提出します。
また,評価額で見解が対立することが多いです。
不動産鑑定評価書を提出するなど,積極的に主張,立証をすることが,有利な結論(決定)の獲得につながります。
実際には途中で裁判官が和解勧告をして和解が成立するということも多いです。
その場合でも,効果的な主張,立証が,有利な和解勧告につながるのです。
詳しくはこちら|家事事件;調停,審判,訴訟;類型,調停前置の適用の有無,審判移行,所要期間
詳しくはこちら|ご相談者へ;訴訟;判決/和解レシオ
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