【株主総会|決議事項と決議要件|まとめ】
1 株主総会の決議事項×決議要件の分類
2 株主総会の決議事項は内容によって決議要件が異なる
3 普通決議事項|議決権の過半数|原則の類型
4 特殊普通決議事項|普通決議と基本的に同じ
5 特別決議事項|議決権の3分の2以上
6 特殊決議(3項)|頭数半数以上×議決権3分の2以上
7 特殊決議(4項)|頭数半数以上×議決権4分の3以上
8 株主全員の同意を要する事項
1 株主総会の決議事項×決議要件の分類
株式会社における,多くの検討・決定事項は,その意思決定の方法が分類されています。
<株式会社の意思決定の方法>
あ 株主総会
会社の根本的な重要事項は『株主総会』で決めることとされています。
い 取締役会/取締役の過半数
一定の重要事項は『取締役会』で決めることとされています。
取締役会を設置しない会社では,『取締役の過半数の賛成』で決めることになります。
う 代表取締役
実務上,一定の事項については,取締役会から代表取締役に『委託』『一任』されるのが通常です。
2 株主総会の決議事項は内容によって決議要件が異なる
(1)『決議要件』の内訳
株主総会の決議事項と定められているものは多いです。
そして,具体的に株主総会でどの程度の『賛成』があれば決定できるのか=決議要件は,会社法で定められています。
<決議要件の内訳>
あ 定足数
決議を行う(決を取る)こと自体が可能となる要件です。
一定の株主の出席,という設定がされているものがあります。
い 表決数
決議が行われた場合に,決定することができる『賛成(票)の数』のことです。
(2)会社法が規定する決議要件の種類
<決議要件の分類|会社法の規定>
あ 普通決議
い 特殊普通決議
普通決議と基本的には同様ですが,決議要件を『変更できる範囲』が異なります。
う 特別決議
普通決議よりもハードルが高い=より重要事項が対象,というものです。
え 特殊決議(会社法309条3項)
特別決議よりもさらにハードルが高いものです。
お 特殊決議(会社法309条4項)
『特殊決議』は,さらに2つに分類できます。
か 総株主の同意
株主1人でも反対したら成立しない意思決定です。
『決議』ではないのですが,分類上,項目として含めました。
き 特例有限会社の『特別決議』
特例有限会社には,実質的に従前のルールが適用されることとされています。
旧有限会社の『特別決議』です。
通常の株式会社の『特別決議』とは異なります。
以上は会社法の規定をまとめたものです。
実際には,会社ごとに個別的に定款等で決議要件を変更することもできます。
決議要件を『変更できる範囲』については会社法で細かく規定されています。
(3)各『決議要件』の内容
決議要件は,具体的には次のように定められています。
<決議要件=表決数・定足数のバリエーション>
決議の種類 | 定足数 | 表決数 | 変更可能な範囲 | 条文(会社法) |
普通決議 | 過半数 | 出席株主の議決権の過半数 | 定足数を定款で変更・排除可能 | 309条1項 |
特殊普通決議 | 過半数 | 出席株主の議決権の過半数 | 定足数を3分の1未満に変更→NG | 341条 |
特別決議 | 過半数 | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 定足数を3分の1未満に変更→NG,表決数を下げる変更→NG | 309条2項 |
特殊決議(3項) | ― | (ア)議決権を持つ株主の半数以上(頭数)かつ(イ)議決権の3分の2以上 | 表決数を下げる変更→NG | 309条3項 |
特殊決議(4項) | ― | (ア)総株主の半数以上(頭数)かつ(イ)総株主の議決権の4分の3以上 | (ア),(イ)を下げる変更→NG | 309条4項 |
総株主の同意 | ― | 株主全員の同意 | (表決数)変更→NG | ― |
特例有限会社の特別決議 | ― | (ア)総株主の半数以上(頭数)かつ(イ)議決権の4分の3以上 | (ア)を下げる変更→NG | ― |
内容については順に説明します。
3 普通決議事項|議決権の過半数|原則の類型
株主総会の決議の種類の中で最も通常のものです。
<普通決議の概要(既出)>
定足数 | 過半数 |
表決数 | 出席株主の議決権の過半数 |
<普通決議の対象事項>
決議事項 | 条文(会社法) |
株主総会の議長の選任 | ― |
資料等の調査をする者の選任 | 316条1項,2項 |
会計参与及び会計監査人の解任 | 339条 |
会社・取締役間の訴訟における会社の代表者の選任 | 353条 |
役員・清算人の報酬決定 | 361条1項,379条1項,387条1項,482条4項 |
役員等の競業取引の承認・利益相反取引の承認 | 356条1項,365条1項 |
会計監査人に対する総会出席要求 | 398条2項 |
書類・株式に関する事項 | ― |
特定の株主との取引によらない,株主との合意による自己株式の取得 | 156条1項 |
株式無償割当に関する事項の決定 | 186条3項 |
計算書類の承認 | 438条2項 |
清算中の株式会社の貸借対照表の承認 | 497条2項 |
清算結了時の決算報告の承認 | 507条3項 |
会社の計算に関する事項 | ― |
資本金の減少(定時株主総会における欠損填補のためにするとき) | 447条,309条2項9号 |
準備金の減少 | 448条1項 |
剰余金の減少 | 450条2項 |
損失の処理,任意積立金の積立てその他の剰余金の処分 | 452条 |
剰余金の配当(金銭分配請求権を与えない現物配当を除く) | 454条 |
4 特殊普通決議事項|普通決議と基本的に同じ
『普通決議』ではあっても,定款での『決議要件の変更』が制限されているものがあります(前記『2』)。
これを『特殊普通決議』と分類することもあります。
分類の仕方によっては,区別せず単に『普通決議』に含めてある場合もあります。
<特殊普通決議の概要(既出)>
定足数 | 過半数 |
表決数 | 出席株主の議決権の過半数 |
<特殊普通決議の対象事項>
決議事項 | 条文(会社法) |
役員(取締役・会計参与・監査役)の選任 | 329条1項 |
役員・清算人の解任 | 339条 |
会計監査人の選任・解任・不再任 | 338条2項 |
5 特別決議事項|議決権の3分の2以上
一定の重要な事項は『ハードルが高く』設定されています。
<特別決議の概要(既出)>
定足数 | 過半数 |
表決数 | 出席株主の議決権の3分の2以上 |
<特別決議の対象事項>
決議事項 | 条文(会社法) |
譲渡制限株式を会社が買取る際の買取事項の決定・指定買取人の指定 | 309条2項1号,4号,140条2項,5項 |
株主との合意による自己株式の有償取得の場合の取得事項の決定 | 309条2項2号,156条1項 |
全部取得条項付種類株式の取得に関する決定 | 309条2項3号,171条1項 |
株式併合 | 309条2項4号,180条2項 |
募集株式の事項の決定 | 309条2項5号,199条2項 |
新株予約権の事項の決定 | 309条2項6号 |
募集株式の事項の決定の委任 | 309条2項5号,200条1項 |
新株予約権の事項の決定の委任 | 309条2項6号 |
株主に株式の割当を受ける権利を与える | 309条2項5号,202条3項4号 |
株主に新株予約権の割当を受ける権利を与える | 309条2項6号 |
募集株式の割当 | 309条2項5号,204条2項 |
新株予約権の割当 | 309条2項6号 |
累積投票により選任された取締役の解任 | 309条2項7号 |
監査役の解任 | 309条2項7号 |
役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除 | 309条2項8号,425条1項 |
資本金の額の減少 | 309条2項9号,447条1項 |
定款の変更 | 309条2項11号,466条 |
事業の全部の譲渡 | 309条2項11号,467条1項1号 |
事業の重要な一部の譲渡 | 309条2項11号,467条1項2号 |
事業の全部の譲受 | 309条2項11号,467条1項3号 |
事業の全部の賃貸 | 309条2項11号,467条1項4号 |
事後設立 | 309条2項11号,467条1項5号 |
解散 | 309条2項11号,471条 |
解散した会社の継続 | 309条2項11号,473条 |
組織変更,合併,会社分割,株式交換,株式移転に関する会社法第5編の規定による総会決議 | 309条2項12号 |
消滅株式会社等(吸収合併消滅株式会社,吸収分割株式会社,株式交換完全子会社)の吸収合併契約の承認等 | 783条 |
存続株式会社等(吸収合併存続株式会社,吸収分割承継株式会社,株式交換完全親会社)の吸収合併契約の承認等 | 795条 |
消滅株式会社等(新設合併消滅株式会社,新設分割株式会社,株式移転完全子会社)の新設合併契約の承認 | 804条 |
6 特殊決議(3項)|頭数半数以上×議決権3分の2以上
特別決議よりも,より『ハードルが高い』という決議事項です。
『特殊決議』と言います。
『特殊決議』は,さらに2種類に分類できます。
特殊決議のうち,軽い方が,会社法309条3項に規定されています。
<特殊決議(3項)の概要(既出)>
定足数 | ― |
表決数 | (ア)株主の半数以上(頭数)かつ(イ)議決権の3分の2以上 |
<特殊決議(会社法309条3項)の対象事項>
決議事項 | 条文(会社法) |
全部の株式を譲渡制限とする定款の変更 | 309条3項1号 |
吸収合併により消滅する株式会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における,吸収合併契約の承認 | 783条,309条3項2号 |
株式交換により完全子会社となる株式会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における,株式交換契約の承認 | 783条,309条3項2号 |
新設合併契約等の承認 | 804条,309条3項3号 |
7 特殊決議(4項)|頭数半数以上×議決権4分の3以上
特殊決議のうち,『ハードルが高い方』は,会社法309条4項に規定されています。
<特殊決議(4項)の概要(既出)>
定足数 | ― |
表決数 | (ア)総株主の半数以上(頭数)かつ(イ)総株主の議決権の4分の3以上 |
<特殊決議(会社法309条4項)の対象事項>
決議事項 | 条文(会社法) |
非公開会社での株主の権利(106条)に関する事項について,株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款変更 | 109条 |
8 株主全員の同意を要する事項
定款変更は原則として『特別決議』により決することになります。
しかし,定款変更の中でも特に株主への影響が大きいものについては,さらにハードルが高くなっています。
『株主全員の同意が必要』というものです。
要するに,1人でも株主が反対していたら決定できない事項,ということです。
<株主全員の同意を要する事項|代表的なもの>
決定事項 | 根拠(会社法) |
発起人・役員等・業務執行者等の責任の全部の免除 | 55条,120条5項,424条,462条3項ただし書,462条2項,465条2項 |
発行する株式の全てに取得条項の設定・変更をする定款変更 | ― |
会社が特定の株主からの自己株式取得をする際に,特定の株式に自己をも加えたもの議案とする事を請求できる規定(160条2項,3項)を排除する定款の定めの設定・変更 | 164条2項 |
組織変更 | 776条1項 |
新設合併設立会社が持分会社である場合の,新設合併消滅株式会社の新設合併契約 | 804条2項 |
対価の全部又は一部が持分等となる合併又は株式交換の承認(種類株式発行なし) | 783条2項,804条2項 |
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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