【家事調停で調停に代わる審判を活用する状況の典型例(出席拒否・ほぼ合意だが感情対立ありなど)】

1 家事調停で調停に代わる審判を活用する状況の典型例

家事調停で使える手続として調停に代わる審判があります。本記事では、この手続を活用できる(すべき)典型的な状況を説明します。
なお、この手続の理論や解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|調停に代わる審判(家事事件手続法284条)の理論と解釈

2 調停に代わる審判を利用する典型的な手続

まず、調停に代わる審判は法律上、ほぼすべての家事調停で使えることになっています。特殊調停事件だけは対象外です。たとえば、遺産分割、離婚、婚姻費用や養育費、子の引渡などで使うことが多いです。

調停に代わる審判を利用する典型的な手続

あ 法律上の対象事件

調停事件のうち、特殊調停事件以外のもの
特殊調停事件には、協議離婚の無効確認、親子関係の不存在確認、嫡出否認、認知請求などがある

い 調停に代わる審判を利用する典型例 

(ア)遺産分割調停(イ)離婚調停(ウ)婚姻費用分担金や養育費の調停(エ)子の引渡の調停

3 家事調停が不成立となった場合の原則的な流れ

調停に代わる審判は、家事調停の手続が、そのままでは進まない状況で活用します。調停に代わる審判の説明に入る前に、調停が進まないとどうなるか、ということを説明しておきます。
当事者の欠席や、出席していても合意に至りそうもない状況では、調停は不成立となって手続が終了します。内容によって、そのまま自動的に家事審判に移行するか、単純に手続が終了することになります。手続が終了した後は、当事者が訴訟を提起することになるのが通常です。審判移行の場合でも、訴訟提起の場合でも、その後は書面で法的な主張をして、証拠を提出する、という手続に入ります。審判でも訴訟でも、当事者の一方が欠席しても手続は終了しません。

家事調停が不成立となった場合の原則的な流れ

あ 調停不成立(不調)

相手が参加しない・合意に至らない場合の行方
調停は不成立となる

い その後の対応

ア 遺産分割など 自動的に審判に移行する
→しっかりした主張・立証が必要となる
イ 離婚 調停は終了となる
→申立人としては改めて離婚訴訟提起をせざるを得ない
→しっかりした主張・立証が必要となる

4 家事調停の不成立→調停に代わる審判による早期解決の可能性

相手の協力・合意がない状態では話し合いによる解決が実現する可能性は低いでしょう。かと言って、審判や訴訟を行うと、本格的な主張・立証を重ねてゆく必要があります。時間的・金銭的・精神的コストが増えてしまいます。
この点、調停に代わる審判を使うことで、解決に至るということもあります。

5 調停に代わる審判が活用できる状況の典型例

(1)調停に代わる審判の活用場面の典型例(全体)

調停に代わる審判の活用で解決する可能性が高い状況をまとめます。

調停に代わる審判の活用場面の典型例(全体)

あ 相手方のノーリアクション

相手が感情的に出席を拒否している

い 実質合意あり+感情の対立あり

感情面・意地によりごくわずかな部分で合意に至っていない

う 出席自体を避けたい

相手に和解の意向はあるが出席が面倒であり、参加してくれない

それぞれの内容については以下説明します。

6 調停に代わる審判の活用に適した状況の具体例

(1)相手が感情的に出席拒否・ノーリアクション

家事調停に至っているケースでは、当事者が敵対的な感情をもっていることが多いです(だから調停申立をせずに交渉で解決できなかったのです)。このような場合、調停に参加すること自体について、相手に協力している感じがする、だから出席しない、ということもあります。
ここで裁判所が解決案を示せば、相手に協力するわけではないので、(内容が妥当であれば)応じる、ということもあります。

相手が感情的に出席拒否・ノーリアクション

相手が申立人に対して激しい嫌悪・憎悪感情を持っている
「あいつが起こした調停なんか応じてやらない」

(2)感情面・意地によりごくわずかな部分で合意に至っていない

前述のように、当事者が敵対的感情を持っているケースが多く、そのような場合、相手方当事者が提案した内容には応じたくないが、中立の裁判所が出した解決案であれば応じてもよい、という気持ちになることもあります。

感情面・意地によりごくわずかな部分で合意に至っていない

あ 典型的な状況

当事者は、ほぼ解決案に納得している
条件のうち、ごくわずかな部分だけ、感情的・意地により了承せず、合意に至っていない

い 典型例

ア 遺産分割調停における典型例 遺産総額約10億円の分割方法は全員納得している
しかし未清算の金銭約10万円について対立したまま
イ 離婚調停における典型例 評価額約5000万円の自宅の清算方法は両者納得している
別居期間中のローン負担分約50万円の清算について対立したまま
ウ 家事調停全般における典型例 解決案の内容以前に『相手が提案して自分が承諾』という形式を理由に拒絶する

(3)相手に和解の意向はあるが出席が面倒→参加してくれない

たとえば遺産分割では当事者である相続人の人数が多いことがあります。調停は、全員が同意しないと成立しません。1人でも「出席しない」者がいれば成立しません。
出席しない当事者が遺産分割案の内容には反対していないが、単純に出席するのが大変、行きたくない、というケースもあります。
この点、調停に代わる審判は裁判所が当事者に告知(書面送付)をすれば成立します。正確には、告知を受けた当事者が異議申立をしなければ審判確定となります。結果的に当事者の出席を省略できるのです。

相手に和解の意向はあるが出席が面倒→参加してくれない

遺産分割調停におけて、当事者が出席しない典型例
(ア)相続人が多い(イ)全員が分割案に納得している(ウ)しかし相続人が高齢で、裁判所が遠いので出席が苦痛である(エ)弁護士への依頼も金銭的・精神的に割に合わない(面倒)

7 調停に代わる審判の手続の流れ

(1)上申書・意見書提出

調停に代わる審判が使える状況(要件)は家事事件手続法に規定されています。ただ、具体的なことは書かれておらず、裁判所が相当と認める場合に調停に代わる審判を使える、ということが書かれています。そして、当事者が申立をすることはできない、つまり、裁判所の職権で行うことになっています。
実務では、「上申書」や「意見書」などの書面を裁判所に提出して、裁判所が妥当だと考えれば調停に代わる審判を行う、という流れになります。

(2)審判に服する旨の共同の申出(審判承服宣言)

ところで、裁判所が調停に代わる審判をした後で、当事者は内容に不服があれば異議申立をすることができます。一方(1人)でも異議申立をすると調停に代わる審判は失効します。当事者としては安心できますが、一方で、解決しない可能性が残っているということになります。
そこで、調停に代わる審判が出されるよりも前に、当事者全員で「異議を出さない」という宣言をする方法もあります。裁判所が出した内容で確定する、ということになります。

審判に服する旨の共同の申出(審判承服宣言)

事前に当事者全員が共同で「審判に服する(異議を出さない)」という申出ができる
→この場合調停に代わる審判の後に異議を出せなくなる
(離婚・離縁の調停についてはこの申出はできない)
※家事事件手続法286条8項

(3)調停に代わる審判に対する異議申立→失効する

調停に代わる審判は、形式的には裁判所が一方的に決めたものです。当事者としては異議を出せば無効化します。異議の申立には理由(主張や立証)は不要です。逆にいえば、調停に代わる審判は当事者の両方(全員)が異議申出をしない場合に効力が生じる、ということになります。

(4)異議が出されずに『調停に代わる審判』確定、ということも多い

異議による無効化という手段はありますが、実際には異議が出されない(審判確定となる)ことも多いです。

調停に代わる審判→ありがちな当事者の対応

あ 当初から実質的に解決案に当事者が納得している場合

公的判断だから納得する・敢えて異議を出すまでもない、と考える

い 調停への出席すら嫌悪する相手

審判の告知(通知)が来ても無視してくれる=異議を出さない

(3)調停に代わる審判として決定する内容と効力

調停に代わる審判が確定すると(もともとの)審判や判決が確定した状態になります。審判の中に子の引渡しや金銭支払などの命令(給付条項)がある場合で、履行がなされない時は強制執行ができることになります。

8 関連テーマ

(1)民事訴訟や民事調停の類似制度

調停に代わる審判家事調停のみの制度です。
一方、民事訴訟や民事調停ではこれと似ている裁定和解・17条決定という手続もあります。
詳しくはこちら|判決と和解の中間的手続(裁定和解・17条決定・調停に代わる審判)

本記事では、家事調停で調停に代わる審判を活用する状況について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に家事調停、審判や訴訟に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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